第66話 ミメイさんの忠告とお願い
「リディナは最低でも3属性を使える。フミノは人の魔法属性を正確に把握可能で、かつある程度まで簡単に教える事も可能。
知られたら狙われる可能性が高い。貴族絶対主義の者からも教会からも、自らの為に利用しようとする者からも」
確かにそうだな。
「カレンから場合によっては注意するように言われていた。でもこれほどとは思わなかった。
私もカレンに保護されなかったら今でも拘束されていた」
何だって。拘束? 気になる事が多すぎて私は混乱する。どう聞けばいいのかわからない。
「その為にカレンさんはミメイをここに来させたって訳かな」
リディナはまずこの事から聞いていくようだ。
ミメイさんは小さく頷く。
「それもある。ただ私が宿に泊まれないというのも本当。昔の影響で今でも他人が怖い時が多い。
更にリディナやフミノ達といれば3人とも狙われる可能性が低くなる。狙う側もそれなりの戦力を整える必要があるから」
「ひょっとして此処の街って危ないの?」
ミメイさんは首を横に振る。
「フェルマ伯爵は問題ない。この街も比較的安全。
カレンは魔法を使えないが魔法耐性持ちで免状持ちの剣士。それを知っている者はまず襲ってこない。でも此処はカレンの家ではない。用心に越したことはない」
うーむ。そこまで用心が必要だとは思わなかった。
「魔法耐性持ちってめったにいないんでしょ。それに免状持ちって、カレンさんってそんなに強いの。それとも小さい頃から道場に通っていたの?」
「元は貴族家の出身らしい。魔法の適性がなくて家を出されたと言っていた」
カレンさん、そんな過去があったのか。
あとカレンさんだけではなくミメイさんもきっと貴族家出身だ。『魔法属性の適性があるのは貴族だけ』という事が常識だと言っていたし、その上で自分も魔法を使えるし。
それが2人ともどうしてこんな処にいるのだろうか。そうは思うけれど聞こうとは思わない。その辺はリディナに対して聞かないのと同じ理由だ。
人にはそれぞれ事情がある。聞いていい事ばかりとは限らない。
「ところであの洞窟、あれは明らかにトンネルとして数日中に掘ったもの。それも土魔法以外の何らかの方法で。
あのコースはトンネルが最短で済む。故に以前私が調査済み。硬すぎる岩盤や帯水層、水を吸うと膨らむ粘土層がある。土壌改質魔法を使用しても土属性と水属性では工事にかかる期間が読めない。
故に諦めて別コースを探していた。あそこを掘って開通させられるとは思わなかった」
そんな事があったのか。しかしトンネルを掘ろうと考えて、コースを検討するならある意味当然だ。素人の私ですら地図を見て最短かつ一番便利と判断したのだから。
つまりあそこに洞窟などないことはすでに調査済みだった。ならあの洞窟は間違いなくトンネルで、それを掘ったのが私達という事は……
「つまりカレンさんにもバレバレって事?」
「だからカレンは聞いた。表に能力を出したくないと判断していいか。その方向で領主家とも話し合いをやっている筈」
うーむ。冒険者ギルドで話をしたのがカレンさんで良かったというべきだろうか。
ただその前に、ひとつだけ別の事を聞いておこう。
「そんな地質ならあのトンネル、あのままで大丈夫?」
使用中に崩れて誰かが巻き込まれでもしたらまずい。
「問題ない。あのままでも数年は持つ。その間に私が土壌改質魔法で周囲を完全に単一岩盤化する。既に掘ってあの程度まで整備してあれば私でも可能。以降は半永久的に使える」
流石土属性レベル7。とんでもない魔法を持っている。でも気になる事があるので聞いておこう。
「どれくらいかかる?」
「数日で充分。一般依頼として領主が冒険者ギルドに出した上で私が受ける」
なら大丈夫か。ほっと一息。
「でもそれでミメイが危険になる事はない?」
「一般依頼ならギルドの扱い者以外に情報は洩れない。問題ない」
なるほど、その辺まで考慮済みという訳か。だからカレンさんも私が一般依頼をお願いした時に理由を察する事が出来た訳か。
「カレンに話しておいた方がいいと言われた事はこんなところ。
しかしここまで特殊な能力持ちだとは思っていなかった。以後は充分注意が必要。最低でもこれらの家は此処以外では街の外、それも視認不能な森等の中で使用。魔物討伐で夜に活動すると言えばそれで済む」
「確かにそうよね。疲れていたからつい近くに出してしまったけれど」
「フェルマ伯領内は気にしなくていい。他領との出入りもあまりない平和な場所。
ただ万一の事態があると困る。その辺はフミノもわかっている気がする。私の推測ではだけれども」
おっと。これはきっと、私の挙動不審というか対人恐怖症の理由をミメイさんが勘違いしたのだろう。ここは一言、言っておこう。
「私はこの国を実はよく知らない。東の国から半年程度前に来たばかり」
「なら言っておく。この国で貴族や教会、大商人等が他人を拘束する方法は幾らでもある。
領法を恣意的に運用。襲撃しておいて過剰防衛と告発。質が悪い冒険者ギルドの依頼には罠がしかけてあるものもある。
他にも方法は山ほどある。どれも身分証上に出ない。犯罪とならない」
「確かにどれも良くある話ね」
そう言えば大事典にも載っていたなと思い出す。
ステータスに犯罪者系統の記載がされるのは、
〇 命令ではなく自らの自由意志で
〇 人の生存権、財産権を犯す事を認容した上で
〇 その具体的行為を行った
場合だけだと。
だから悪徳領主が命令したなんて場合は命令者も実行者も犯罪者にはならない。
抜け道は幾らでもあるという事だ。
リディナと私が頷いたのを見て、ミメイさんは続ける。
「トンネルをあっさり掘った未知の能力、スキルかアイテムかはわからないが異常な収納・運搬能力。ある程度の魔法使いなら簡単に増やせる能力。
どれも特異かつ有用。知られたら確実に狙われる」
つまり知られて困るのはアイテムボックススキルだけではない訳か。
ミメイさんが言及した他にもきっと狙われそうなスキルなり魔法なりはあるのだろうな。うん良くわかった。
「ありがとう。これからは充分注意するね」
「ただ1件、お願いがある。出来ればカレンが魔法が使えるか見て欲しい。以前、魔法が使えない事を気にしているような事を言っていたから。
気をつけろと言った矢先ですまない。でもお願いしたい。使える属性がわかったら後は私がここで教わったように教える」
「フミノ、大丈夫だよね」
私は頷く。それくらいなら簡単だ。
「問題ない。直接見ればすぐ判断できる」
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