第65話 この国の魔法

「おいしい。カレンにも食べさせてあげたいくらい」


 うんうんと私は頷いてしまう。リディナが作る料理は美味しい。それは私が日々感じているところである。


「そう言えばカレンさんは食事、どうしているのかな」


 リディナの台詞で私は気付く。そうか、そういう風に気を使うのかと。その辺対人能力が無いので気付かされることばかりだ。


「ギルドで何か食べている。自在袋にはテイクアウトの料理を2週間分はストックしている筈」

「何ならある程度作って持って行こうか。どうせこの1週間暇だしね」

「それでは申し訳ない。それに今回の件できっと動き回っている。アコチェーノのギルドにいるとは限らない」


 なるほど。


「ところでこのパーティ、2人とも魔法使い? 討伐専門パーティという割には武器も防具もない。リディナは風属性の魔法でゴブリンを倒していた。他に最低でも火と水属性を使っている」


 そう言えば確かに私達、冒険者らしい装備を何一つ持っていない。基本的に先手必勝で魔法か収納で倒してしまうから必要ないのだ。


「私は魔法使いという程ではないけれどね。魔法を使えるようになって半年も経っていないし。以前は魔法の適性が無いって言われていたしね」

「それであれだけ使える!?」


 ミメイさんはリディナ程に声の調子が変わる事はない。それでもかなり驚いているように感じる。

 しかしそんなに驚くことなのだろうか。


「普通に練習したら使えるようになったよ。その辺はフミノに教えてもらったけれど」

「そんな事が出来る?」


 そんなに驚くほどの事ではないと思うのだけれども。

 念のため一応補足説明をしておく。


「リディナは元々風属性がレベル3、他の属性もレベル1までは適性があった。あとは毎日魔力がなくなるぎりぎりまで使って訓練した。それだけ」

「それってフミノが判定できる?」


 何か驚いてばっかりだな。ひょっとしたらこれってとんでもない事なのだろうか。

 わからないままに、でも判定できるのは確かなので私は頷く。


 あ、急にミメイさんが黙り込んだ。何か考えている様子だ。

 私が黒鯛もどきとタコを一切れずつとるくらいの時間の後、ミメイさんは私の方を向く。


「それなら現在の私の魔法適性、判定できる? 出来るなら教えて欲しい」

「リディナ、いい?」


 リディナ以外にその辺の話をするのははじめてだ。だから一応リディナに判断して貰おう。


「大丈夫だと思うよ。それくらいなら」


 リディナはそう言ってくれた。ならいいだろう。ミメイさんのステータスを確認する。

 流石本業の魔法使い。私達とはレベルが違う。


「土属性がレベル7、水属性がレベル6。風属性、火属性、空属性がレベル1」


 レベル7とかレベル6なんて私からみれば遥かに先。

 一方でミメイさんは首を傾げる。


「土属性と水属性はあってる。でも風や火、空属性は私には使えない」


 いや、でも確かにステータスはそう表示されている。


「少し訓練してみればいい。レベル1程度なら1時間もあれば出来る」

「そうよね。私だって出来たんだし。差し当たっては火属性かな。灯火や温度上昇は便利だものね」


 そうそう。リディナの場合もそうだった。


「そんなに簡単?」

「魔法を全然使った事がない私でもね。2時間でほぼ全属性のレベル1までは憶えられたよ」


 あ。またミメイさんが考えこんでいる。そんなに変わった事を言ったつもりはないのだけれど。


「とりあえずご飯を食べたら試してみましょ。そうすれば出来るかどうかもわかるし。レポートも終わったって聞いたし、どうせ明日はゆっくり出て提出するんでしょ。なら少しくらい遅くなっても大丈夫じゃない。

 だからまずは2人ともご飯を食べる」


 確かにそうだな。私は鹿肉ソテーを1枚食べつつ頷いた。


 ◇◇◇


 夕食終了後。訓練は半時間30分も必要なかった。


「元々魔法を使える人は流石だよね。私はここまでで倍以上かかったのに」


 この短時間でミメイさんは風属性、火属性、空属性のレベル1の魔法を全部マスターしてしまった。

 やはり他の属性の魔法を使いこなしているからだろう。神様から貰った大事典と『魔法学概論 ~基本属性編~』を見ながら簡単に説明しただけなのに。

 

「こんなに簡単に出来るとは思わなかった」

「それは私も思ったなあ。自分は魔法が使えないと思っていたしね。それがあっという間に使えるようになるなんて信じられないと思った」

「でもこれは危険」


 ミメイさんがぼそっと言う。


「何故」


「魔法属性の適性があるのは代々魔法を持っている貴族もしくは元貴族だけ。元貴族でも平民に落ちた後は孫世代で魔法適性が出なくなる。

 また貴族でも持っている属性も通常は1つで多くても2つまで。3つなんて持っていたら天才や奇跡と言われる。

 更に魔法は持って生まれた素質が全て。年を取るとともに適性があがる事はあるが、それ以外で適性が変わる事はまずない。

 それがこの国での魔法の常識」

 

 リディナが首を傾げる。


「えっ? でも私も両親も貴族出身じゃないよ。それに訓練して3ヶ月もしないうちに風属性がレベル4になったし」

「魔法を使えるのは貴族または貴族出身者だけ。魔法を使えるという事が貴族の権威のひとつにもなっている。少なくとも貴族はそう思っている。だから婚姻等でも相手がどんな魔法属性を持っているか気にする。魔法の適性がない者は貴族家に生まれても貴族とみなされない」


 なるほど、そう言われると思い当たる事はある。

『魔法学概論 ~基本属性編~』には確かに『庶民は魔法適性が無いのが普通』なんて書いてあった。

 リディナは風属性のレベル3なんて適性を持っていたのに適性はないと判断された。


 この国は魔法を貴族の権威付けとしても使っている。少なくとも貴族にはそういった意識がある。それならばこのことは理解できる。

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