第64話 いつもと違う夕方
お昼に図書館内のフリースペースで
やはりこの図書館、本が豊富だ。数も質も。だから読むだけでついつい時間が経ってしまう。
結果としてまた外が暗くなりかけた頃、リディナに肩をたたかれて気付く訳だ。
ただ今度は声をあげずに済んだ。成長したぞ、私。
「どう? 買う本は決まった?」
「とりあえずこれ」
今回はしっかり選ばせてもらった。小説4冊と魔法の本1冊。小説は今まで購入した本の続編や同じ作家のもの。魔法の本は空属性についてのもう少し詳しい本だ。
「それじゃ会計して帰ろう」
本の入った籠を持ってカウンターへ。なお籠には私が選んだ小説5冊の他に、リディナが選んだ本がやはり5冊入っている。小説2冊と植物図鑑上下2冊、絵本が1冊だ。
「貸出でしょうか、どれかお買い上げでしょうか」
「全部購入でお願いします」
「よろしいですか」
「ええ」
わざわざ確認されてしまった。でも確かに私もリディナも金持ちそうな恰好をしていない。そしてこの世界では本は貴重品でそこそこ高価。だから確認するのも当然かもしれない。
「それでは、ええと……」
うーむ。足し算の計算に時間がかかっている。でも考えてみればそれほど珍しい事ではないのだろう。なにせ識字率が2割、計算が出来る人はもっと少ない筈だ。こういった田舎なら足し算が出来るだけでも貴重な人材なのだろう。
計10冊の合計を出すのに2分くらい。さらに検算に同じくらいかかった。急ぐ用事も無いのでゆっくり待つ。
「お待たせしました。合計で
よしよし、計算はあっている。私達は会計を済ませて本を収納し、外へ。
「結構時間かかったね」
「そのうち慣れる」
その辺は温かい目で見てやってもいいと思うのだ。計算も間違わなかったし、ちゃんと検算もしていたし。
「あとは特に買うものはないよね。それじゃお家に帰って夕食かな。あと今日は3人分作るけれど、いい?」
ミメイさんの分だろう。
「かまわない。3人一緒で」
「フミノはミメイが一緒でも大丈夫?」
「多分」
その辺は勘だ。でも最初の頃のリディナより私にとって楽なタイプだと思う。
家に着いた頃には辺りはかなり暗くなっていた。ミメイさんの小屋の方を見ると、扉部分から光が漏れている。
「何ならミメイさんに先にお風呂に入って貰おうか。いつ寝るかもわからないし」
確かにそれがいいかもなと私も思う。そうすれば買ってきた小説をすぐ読めるからという個人的な理由もあるけれど。
「掃除だけしておく」
「わかった」
そんな訳で私はアイテムボックスを使って埃だの垢だのを収納、掃除をしておく。この辺のごみは外に捨てておいてと。
ついでに洗ったり拭いたりする為の布も出しておけば完了だ。
ひととおり終わったところでリディナとミメイさんがやってきた。
「お湯はいれていない。それ以外は準備済み」
「ありがとう」
使い方や何ならお湯を入れるのはリディナに任せれば大丈夫だろう。
それでは本でも読むとしようか。リディナが料理中だから個室に行って。
まずは本棚兼食器棚に今日買ってきた本を並べる。おお、ついに本が最後の棚に突入だ。
食器を仕舞って代わりに本を5冊並べる。食器の棚を1つ新たにアイテムボックスから取り出して並べる。ついに完全に本だけの棚が出来た。ふふふふふ、次はこっちの食器棚も……
ついでに本棚の本を見栄えと内容にあわせて並べかえていたらリディナが戻ってきた。
「火属性は使えないんだって。だからお湯は私が入れておいたよ。ただ風呂までついた家を持ち歩いているのに驚いていた。久しぶりだからゆっくり入ってくるって。
あと今日の夕食はパンでいいかな。とりあえずその方が一般的だから」
「その方がいいと思う」
そうだなと思ったので私も頷く。
ご飯を主食にするのは南部の方の一部を除いて一般的ではないらしい。だから最初はパンで、あとはミメイさんに聞いてからご飯を出すかどうか考えればいいだろう。
さて、それでは私もゆっくり本を読ませて貰おう。もっともリディナの調理は早い。20分もあれば出来てしまう。
それとも今日はミメイさんのお風呂にあわせてゆっくり作るのかな。
とりあえず並べた本棚から今日買ったうち1冊を手に取って個室へ。
この本は以前買った小説と同じシリーズ。1作目の『果実』、2作目の『迷宮』は既に読んだので今回は第3作目の『楽園』だ。
気に入ったシリーズ物はやはり全巻集めて持っておきたい。そんな訳でつい買ってしまったのだ。高いと言っても1冊あたりゴブリン4~5匹程度の値段だし。
そんな訳で本を開く。おっと、任務に失敗した主人公、いきなり商会こと組織に拘束か。そして……
トントントン。
姿を隠していた主人公の姉が出て来たシーンまで読んだところで個室の扉をノックする音がした。
「夕食出来たよ。ミメイさんももう来ている」
うう、仕方ない。もう少しだったのだけれど。諦めてベッドから出る。
今日の夕食は鹿肉ソテー、鹿すじ肉と豆と野菜のスープ、黒鯛もどきとタコのカルパッチョ、サラダだ。それにリディナが焼いたパンといつものラルドがつく。今日も文句なく美味しそう。
「それじゃ食べよう」
この国には特にいただきますに相当する挨拶や習慣はない。だから食べ始める。
「いいの、こんな豪華なの」
ミメイさんが少し遠慮している。
「気にしないで。2人分作るのも3人分作るのも手間や材料費はほとんど変わらないしね。それにお肉はフミノが狩ったものだし、香草は採取したものが多いし、パンはこの前自分で焼いたものだしね」
「いつも大体こんな感じ。今日が特別という訳ではない」
特別でないのはメニューについて。リディナと私以外がいるのは間違いなく特別だ。でもミメイさんの雰囲気なら私でも大丈夫。
「足りなければお代わりもあるからね」
自在袋かアイテムボックスに入れておけば時間経過を気にしなくて済む。
だから大体においてリディナはおかず類は多めに作る。リディナ曰く『沢山作った方が美味しく作れる』のだそうだ。
「苦手なものがあったら言ってね。今回は鹿肉のほか、生のお魚とタコという海の生き物を使っているから」
「わかった。でも美味しい」
静かに食べているけれど確かに苦手とかまずいとかという感じではない。まあリディナの料理をまずいと感じる人はいないだろうとは思うけれど。
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