第3話 眠れない夜

 拠点の洞窟に帰ってきて気づく。入口がこのままでは不用心だよなと。夜、寝ている最中に猛獣が入ってきて……なんて可能性を排除しないと。


 勿論使うのはアイテムボックスだ。一番簡単なのは入口を土で塞ぐ方法。しかしこれでは寝ている間に窒息しそうで怖い。


 だから今まで収納した丸太を洞窟の前に積んで塞いでみようと考えた。しかし出してみたところ丸太が長すぎる。うまく入口を塞ぐ事が出来ない。


 ただこれなら対処出来る。一度適切な長さにカットした状態をイメージして丸太を再収納してやればいいのだ。


 もう一度出すと入口塞ぎにちょうどいい長さになった。これを積み上げればとりあえずは完成。


 丸太のサイズが不揃いで見栄えが悪い。また出入りのたびに丸太の出し入れが必要だ。


 でもその辺は今日のところはまあ勘弁という事で。どうせ見栄えなんて気にする奴はいない。気になったらまた後日作り直せばいいのだ。


 これで安心して料理が出来る。調味料は無いから焼くか煮るかだけだけれども。そう思ったら今度は皿も鍋も箸もスプーンも無いことに気づいた。


 仕方ないのでこれもアイテムボックス頼み。先程カットした丸太のうち、短いものを洞窟内に出す。

 これをじっと睨んで、まずは鍋の形をイメージして収納。取り出すとなんと、歪んだ鍋の形の木製食器が。


 歪んだのは私が収納した際のイメージがうまくなかったのだろう。でもいい、使えれば。同じ方法で深皿、浅い皿、おわん、スプーン、箸、まな板を作成。ついでに座卓も作成だ。


 座卓の上にまな板をのっける。私の為に犠牲になったネズミさんのうち、2番目に大きいのを出す。


 こうやって見るとネズミさん、思ったより可愛い。少しだけ罪悪感。でも仕方ない。君の命は無駄にしないよと祈って、そして調理開始だ。


 包丁もナイフも無い以上、やはり全てはアイテムボックスと魔法頼み。まずは皮だけを収納と念じる。なかなかエグい状態の肉塊が残された。あと出血もちょっと。


 血はどうしようか。少し考えて収納しておく。アイテムボックス内に入れた以上、細菌もウィルスも寄生虫も死んでいる筈だ。だから食用にしても問題無い筈。


 そして今、塩の持ち合わせはない。だから血で塩分を取る必要があるかもしれない。

 しかし今は生々しすぎる。だから飲むのは遠慮する方向で。


 次いで内臓と目玉、脳味噌等を収納。いよいよ骨と肉だけが残される。骨だけ収納と念じてみたがうまくいかない。肉と骨はアイテムボックスでも分離出来ないようだ。


 仕方ない。面倒そうな首から上だけはばっさり収納してしまおう。残ったのは首から下部分、大きさにして私の手のひら2つ分の肉塊。勿論骨付き。これを箸で大きめの平皿の上に置く。


 生でもアイテムボックスのおかげで食中毒になる事は無い筈。しかしこの形のものを生で食べるのは流石に元現代日本人としては抵抗が。だから焼く。魔法で焼く。


 この世界の火の魔法というのはいわゆる燃焼の事だけでは無いようだ。大事典でさっと読んだ限り、温度を上げる魔法も明るくする魔法も火の魔法らしい。


 つまり温度を上昇させるのも火の魔法。今回は温度上昇の魔法を使わせて貰う。


 肉をじっと睨んで念じる。温度よ上がれ。だいたい70度でいいかな。あまりやるとパサパサになるし。

 そんな事を念じていると肉の色が明らかに変わってくる。よしよし、いい感じだ。


 最後の仕上げで表面だけ250度。表面の脂肪部分がパリッとなった。これで完成だ。

 異世界最初の食事はネズミの首から下丸焼きです。さあ頂きましょう。


 肉は箸で一応崩せる程度のかたさ。そして中から肉汁がじわっと出てくる。うん、美味しそうだ。一口食べてみて思う。鶏肉、それも胸肉だな、味の雰囲気は。


 そこそこ美味しい。サラダチキンとはこういう感じだろうか。でも鶏肉よりは少しだけ旨味が濃いかな。そんな感想を抱きながらいただく。


 骨が結構あるし内臓を抜いた部分は空だしで、大きさの割に可食部分は少ない。あと本当は少し醤油が欲しいかな。塩味が薄いのだ。でも悪い味ではない、多分。


 骨のせいで食べるのに結構時間がかかる。しかし急いで食べる必要は無い。だからゆっくりと食べる。骨に肉が残らないよう、食べられる部分は全部食べるつもりで。


 この時間のかけ方だけは異世界にくる前よりは優雅だよな。家でも学校給食も他人が動き出す前にさっさと詰め込んでいたから。そうしないと実害あるなんて環境だったし。


 それにくらべればうん、充分に優雅。見た目は原始人だけれども。


 軟骨も骨にこびりついた肉も全て完全に食べてごちそうさま。うん、腹もほどよく膨れた。

 片付けは深く考えなくていい。ゴミとそれ以外を意識して収納すればそれで済む。


 さて、それでは寝るか。そう思ってまた気づいてしまった。布団もなければ寝袋も無い事に。

 あるのは作ったばかりの板の床。学校指定ディパックが枕になるかな……ならないか。


 少し考えたが解決策は思いつかない。巨大な箱に草や木の葉を敷き詰めてクッション代わりにするなんてのは出来そうだがもう外は暗い。やるなら昼間だ。


 仕方ない。今日はここのまま横になろう。下が固いし掛け布団どころか毛布も無いけれど。

 寒い分には魔法で気温を上げてと。うん、これで少しマシになったかな。


 灯火魔法を解除する。急に真っ暗になった。外の木々をゆする風の音が妙に大きく聞こえる。原始の不安とでもいうような感覚が私を襲う。


 大丈夫、この中には危険な大物は入ってこない。無茶苦茶重い丸太を何本も積んで入口を塞いでいるのだ。入れるのは子ネズミ程度まで。だから問題ない。きっと問題ない。


 そう思っても不安は消えない。おまけに寝にくい。でも寝なきゃ明日が辛いだろう。寝なきゃ。寝なきゃ……かなり頑張ったつもりだが、やはり眠れない。


 仕方ない。どうしようもなく眠くなるまで、大事典を読んでいよう。私は再び灯火魔法を起動した。

  

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