第2話 大事典の言う通り
掘っただけの穴だと落ち着けない。下が土だから座れないし、ましてや寝っ転がるなんて事も出来やしない。
だから一度外に出た後、
① 先程収納した丸太を取り出す
② 板状にカットした状態をイメージして収納
③ 完成した板を穴に敷く
なんて事をして床を作る。これでそこそこの居心地を確保。
ただ蚊がいるのが気になる。どうやら私がいる事でいつの間にか寄ってきてしまったらしい。
これって収納して退治できないかな。ただ念じてみたが出来ない模様。だから必死に奴を探す。
いた。一瞬見えた際に収納と念じる。羽音が聞こえなくなると同時に魔力が少しだけ減少。どうやら退治に成功したようだ。
確認すると蚊の死骸が収納されている。後で捨てよう。
さて、次はいよいよ大事典を読む作業だ。神様は私に確かこう言ったのだった。
『君は会話を非常に苦手としている。しかし代わりに本が好きなようだ。だからここで僕が詳細を説明するよりは、本という形にして自分で読んで貰った方が頭に入るだろう』
その辺は流石神様、私の事をよくわかっている。そんな訳で洞窟入口からの光を頼りに大事典を読みはじめる。
『まずはじめに~早急に覚えるべきこと』
大事典というよりは入門書だな。何もわからずとも最初から読めば問題無いように出来ている模様。とりあえず今はこの方がありがたい。
『その1 まずは生活及び自衛のため、基礎的な魔法を覚えましょう』
いきなり魔法か。これは無茶苦茶楽しみだ。ぼっち故にこじらせた過去の記憶が蘇る。
ふっ、邪気眼を持たぬ者にはわかるまい。静まれ私の腕よ。闇なる氷よ全てを覆い尽くせ、エターナルフォースブリザード!
『この世界では『地』、『水』、『火』、『風』、『空』の五大元素が全ての基本です。全てのものはこれら五大元素、もしくは発展形、あるいは複合形で成り立っています。魔法もまた同様です。
それではまず、すぐに必要となるだろう五大元素の基本魔法を覚えましょう』
流石にいきなりエターナルフォースブリザードは無理のようだ。しかし魔法を使えるだけでもありがたい。
オラ、なんだかワクワクしてきたぞ。そう思いながら文章を追っていく。
最初の例題付き説明は火の基礎魔法のひとつ、灯火魔法。暗いところを明るくする魔法だ。
確かにこの洞窟は本を読むには少し暗い。きっと神様もその辺を想定して最初にこの魔法を載せたのだろう。
ふむふむ。魔法の要点はイメージを形成することと魔力の流れを意識する事か。手を伸ばしたり曲げたりしながら私は教本、いや大事典で魔法を学ぶ事に集中する……
◇◇◇
魔法を幾つか覚えて洞窟の外に出る。いつの間にか空が赤みを帯び始めていた。
さて弱った。基本的な魔法を使えるようになったのはいいがお腹が空いた。しかし食料なんて持っていない。どうしよう。
わからない時は大事典だ。さっと目次を見るとあるある。『食糧確保の基本』なんて項目が。
『この世界で自力採取できる食糧は次のようなものがあります……』
なるほど。この季節でこの場所だと木の実などは期待薄。だから葉っぱ関係以外は魚や獣を狩る必要がある訳か。
そしてこの付近で出会える獲物というと鳥類、山ネズミ、リス、ヘビ、イタチ、鹿、カモシカ、猪、山猫、狼、熊。
あとはそれらが魔獣進化したものと、オーク等の魔物。
魔物と言えば定番のゴブリンもいるようだ。だが肉が少ない上臭くて不味くて食えたものではないらしい。少なくとも大事典にはそう記載されている。
それを知っているという事はだ。神様はゴブリンを食べた事があるのだろか。それとも神様だからそんな事をしなくてもわかるのだろうか。
そんな疑問はともかくとしてだ。今から狩れそうなのは鳥類かネズミ、リスの類。もっと大物もいるらしいがそれはとりあえず後回しにしておこう。
なら急いで狩りだ。暗くなっても一応灯火魔法は使える。しかし使えば間違いなく目立つだろう。獣に対しても魔物に対しても人間に対しても。
その辺は私の望むところでは無い。特に人間には会いたくない。せめてこの世界で落ち着くまでは。
私は洞窟の外に出る。空の基本魔法『監視』で周囲の気配を探る。山ネズミらしい気配を確認。気配の方へと歩き出す。
体感で3分程度歩いた場所にある木の根元だった。私の握りこぶし程度の穴が空いている。監視魔法によるとこの穴の中にいるようだ。
さてどうやって捕えるか。おそらくここ以外にも穴がある。水攻めをしてもその穴から逃げ出すだろう。少しだけ考えて、そして思いつく。
アイテムボックススキルでまずは木を収納! 今回は板材にせず切り株の上側はそのままの状態で。これは既にやった事だから簡単だ。
目の前にはネズミさんの巣穴と切り株。この状態でもう一回アイテムボックススキルを起動する。今度は土を収納だ。この時ミミズだの小動物は収納しないよう強く意識する。
巣穴があった木の根元の土がばっさりとなくなり大穴があいた。木の根がゆっくり落ちる。そして穴の下でちょろちょろする気配。
さて、いよいよ魔法の出番だ。
「哀れなネズミよ、我が糧となるがいい。ウォーターハザード!」
いかにもそれっぽく呪文を唱える。なおこの呪文に意味は無い。単なる自己満足。
だがそこはやっぱり様式美という奴だろう。たとえ使用した魔法が実際は水の基本魔法、大水であってもだ。
穴の中に水が溜まっていく。おっとまだ邪魔物があった。アイテムボックス魔法で木の根も収納。これでネズミさんも隠れる場所が無くなった。
空の基本魔法『監視』でネズミさんの気配を確認。うん、生命反応が弱くなっていっている。都合10匹、順調に溺れているようだ。
我が糧となる命に感謝を。両手を合わせて祈りを捧げる真似をしてみたりしているうちに、ネズミさん達は溺死した。
「アーメン」
一応そう唱えておこう。私はキリスト教徒では無いけれど、他に手ごろな言葉を知らないから。神がいる世界で南無阿弥陀仏と唱えるのも変だし。
さて、それでは仕上げだ。アイテムボックスに水を収納。この際、泥とかゴミとか生物類が混じらず水だけが収納されるよう強く意識。そうすると穴の中にはゴミと死骸が残る。
穴の中が暗いので灯火魔法を起動。外に光が広がらないように灯かりの位置を低くして確認。いたいた。でも思ったより大きい奴がいる。家猫程度のサイズが2匹、いかにもネズミさんというサイズが8匹だ。
ありがたくアイテムボックスに収納する。毛皮や肉にわけるのは洞窟でやろう。
穴をどうしようか考え、とりあえずそのままにしておく。理由は無い。単に面倒だったからだ。
さて、拠点に帰ろう。これらネズミさんを調理しなくてはならない。かなり腹も減ってきたし、狩りについては今日はこの辺で勘弁してやろう。
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