プロローグ 新たな天地

第1話 新たな天地

 私はあたりを見回す。片側が岩場、もう片側が森。人の気配は無い。先程まであった神様の気配も。


 誰もいないなら問題無い。他人がいると落ち着けないのだ。思考回路も8割方速度が落ちてしまう。

 その辺は神様もわかってくれているようだ。だから説明も最低限にして私を解放してくれたのだろう。


 さて、まずは現在の状況を確認だ。森の樹木は広葉樹っぽい。葉がつやつやして厚めなのでおそらく常緑樹。


 本当は日本でも地球でもないのだから全く知らない木だ。しかしこの木が常緑広葉樹ならという事で気候の想像は出来る。


 おそらく日本の西日本と同じような気候だ。更に言うと葉の色や下草の感じから今は4月終わりから5月くらいと推定。四季があるならだけれども。


 少し開けた崖側にシソに似た形の葉の草が生えている。他にもよく見れば背の低い葉の広い草も。


 でも森の中は背の低いリュウノヒゲみたいな濃い青色のものと生えかけの木みたいなのしか無い。歩きやすそうなのはいいが貧相な感じだ。


 シダ類やコケ類にあたる物が見当たらない。という事は地面が湿気ていないという事だろうか。

 ならば水場は遠そうだ。せせらぎらしい音も聞こえないし。


 見知らぬ土地なら本来、真っ先に水場を探したい。しかし神様は確か最初はステータスを確認し、安全な場所を作って大事典を読めと言っていた。だから水場は後回しだ。


 耳を澄まして辺りに動物の気配が無いか探る。今のところ風が木々や枝葉を揺らす音しか聞こえない。取り敢えずいますぐ猛獣に襲われるという事は無さそうだ。


 身体のあちこちを曲げ伸ばし等してみる。異常は感じられない。五体満足ではあるようだ。

 服装は異世界に来る前に着ていた白いブラウス、ブレザー、スカート、ハイソックスで靴は運動靴。


 私自身の外見が同じなのかは確認出来ない。手鏡は校則違反だったので持ち歩いていないから。水場でもあればわかるのだろうけれど、これも後回しで。


 念の為持ち物を再確認。持っているのは中学校指定のデイパックだけ。中には教科書、副読本、辞書、ノート、筆箱。


 あと他に、見慣れない英和中辞典クラスの大きさの本が1冊入っている。これが神様の言っていた大事典だろう。それらを確認してまたデイパックの中へ。


 さて、それでは次の段階だ。


「ステータス」


 そう呟くとすっと半透明な字幕が視界に出現した。


『氏名:ツツイ・フミノ 14歳 女性 

 HP:130 MP:180 STR:63 VIT:63 DEX:63 AGI:63 INT:63

 職業:なし 装備武器:なし ATK:52 装備防具:なし DEF:48』


 なるほど、これがステータスという奴か。しかしこの数値が何を意味しているか、まだ私は知らない。

 悪い値ではない筈だ。でも詳細は大事典を読まないとわからない。


『使用可能魔法系統: 地:2 水:2 火:2 風:2 空:2 

 使用可能魔法:なし

 スキル:アイテムボックス(極1) 自然言語理解(5)』


 使用可能な魔法がまだ無いのはがっかりだ。しかしスキルは既に使えるものが2つある。


 このスキル2つのうち、アイテムボックスのスキルが私に付与された中での最大の目玉らしい。この能力についてだけは神様も『詳細は大事典を読むように』ではなくある程度の説明をしてくれた。


「生物以外なら何でも思い通りに収納できる能力だ。生物を入れようとした場合は魔力による抵抗を受ける。魔力が充分であれば死んだ状態で収納されるし、魔力が足りなければ収納できない。


 どんな物でも細菌等の微生物がついている。つまり全くの魔力消費無しで収納する事は不可能だ。ただし出す事は魔力消費無しで出来る。


 入れたものが他の収納物と混じったり汚染されたりする事はない。時間経過も受けない。容量はまあ、何をどれだけ入れても困る事はないと言っておこう。それ以上は自分で調べたり確かめたりしてみてくれ」


 これだけ別個に説明したという事は、きっとそれなりの意味がある。とりあえずそれを意識しておこう。


 さて、現状確認は終わりだ。それでは次の行動。神様によればまずやるべき事は、『安全な場所を作って大事典を読むこと』だそうだ。

 

 安全な場所か。頑丈なログハウスなんて出来ればいいのだが、今の私にはそんな技術も知識も工具も無い。


 きっとここで説明のあったアイテムボックスのスキルを使うのだろう。だから取り敢えず考えた事を試してみる。


 まず目の前の大きな樹木を見て、収納したいと念じる。さっと木が切り株になった。つまり樹木が切り倒された形でアイテムボックスに収納された訳だ。


 ステータスを確認してみると魔力が微妙に減っている。これは樹木そのものが植物ではあるが生命体であることと、樹木についていた虫とか細菌や地衣類等の生命による抵抗分だろう。


 この調子で木を集めて、枝を払って……そう思ってふと気づく。枝を払う道具なんて持ち合わせていない。


 ならどうしようか。更に考えてふと思いついた。樹木を切った状態で収納できるなら、思い通りの形で収納も出来るのではないかと。


 試しに枝を全て払って、皮も剥いだ状態をイメージしながら収納したいと念じてみる。バサバサバサバサバサ。枝だの樹皮だのが降ってきた。慌てて避ける。


 なるほど、そう言えば『何でも思い通りに収納できる能力』と言っていたな。ならこの方法をうまく使って何とか出来そうだ。私は考える。どうすれば一番簡単に安全な場所をつくれるかを。


 木を板や柱の形に収納して、というのはパスだ。時間がかかりすぎる。それに工具も無い。設計図も無いしそんな知識もない。もっと簡単な方法がある筈だ。なら……


 木から離れて考えると、あとここにあるのは崖だけ。崖か、そう考えてふと思いついた。穴を掘ろう。


 横穴状に土を収納すれば洞窟になるだろう。これなら簡単だし雨風をしのげる。万が一の際も入口を塞げば安全だ。


 作る前に少し考える。雨が降った時に内部に水が流れ込まないよう、入口から上向きの傾斜をつけた方がいいだろう。しかも高さは崖の下の地面より高めに。

 形は崩れないようにトンネル状で。広さはとりあえず最低限でいい。


 それではやってみよう。掘る穴の形を意識して、そして念じる。土を収納! よし、思い通りの形の横穴が空いた。少し待ってみたが崩れる様子は無い。


 よし完成だ。私は崩れないか注意しながら中へと入ってみる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る