第4話 少し慣れた

 異世界原始人生活も10日くらい続けていると慣れてくる。


 洞窟の入口は引き戸もどきになった。引き戸なのは実用に値する蝶番を作れなかったからだ。何回か試してみたが木製では数度の使用で蝶番部分が壊れてしまう。


 だから引き戸に方針を変更。これは何とか作れた。ただ木枠の組み合わせ方法や戸部分のサイズ調整が難しかった。

 結果、大量に出た失敗作は加工しなおして床材に転用した。


 トイレも風呂も作った。うちトイレは専用の横穴を掘って部屋を造り、深い深い穴の上に板で踏ん張る場所をつけただけ。


 しかしボットン部分の穴は深くしたし中に臭い消し用の葉っぱも敷いた。換気用の横穴も3カ所空けてある。

 だから私1人で使う分には臭わない。今のところはだけれども。


 風呂も部屋と浴槽だけ。洗い場は今のところなし。こちらはかなり手間取った。


 浴槽は木で作るつもりだった。しかし浴槽を丸ごと作り出せるような巨大な樹木は付近には無かった。組み合わせて水が漏れないようにするなんて構造は不可能だ。私には知識も工具も無い。


 考えた末、

  ① 浴槽の大きさに土を盛って

  ② 盛った土の内側を収納して浴槽の形にして

  ③ 土製の浴槽を水の魔法で脱水というか乾燥させた後

  ④ 全体を魔法で高熱にして素焼きに近い状態に焼いて

  ⑤ 草の灰を釉薬代わりにしてもう一度高熱で表面処理

という手順で作成した。つまり巨大な陶器だ。


 この浴槽は私がゆったり横になって足を伸ばせるサイズになっている。頭を浴槽の片側につけ、両手肘を浴槽の両側に置いて身体を思い切り伸ばせばもう最高に快適。今の私のお気に入りのひとつだ。


 寝場所だって少しましになった。木の板で作った箱状の場所に、少し離れた場所にある草原の草を乾燥して敷き詰めたものだ。つまりは藁の寝床。


 家畜みたいだが所持している布は服とハンカチしかない。そして布を作る方法は思いつかない。

 現状はこれで我慢するしかない。これでも木の床よりは遥かにましだし。


 食料は充分に確保した。雨で外出できない日が10日くらい続いても大丈夫なくらいには。


 植物は食べられる草とか吸うと蜜の味がする花などを確保。キイチゴっぽいのも採りまくった。


 大事典で見て一度覚えたら、あとは見つけて収納すればいいだけ。収納すればいつまでも新鮮だし虫なんかがいても死ぬし。


 魚や川エビもそこそこ獲った。

 漁法は、

  ① 収納魔法で川の迂回路を作って 

  ② 土で迂回路を作った部分を塞いで、

  ③ 塞いだ内側の水を収納して

  ③ 水がなくなった水路で跳ねている魚や小エビを収納

  ④ ②で塞いだ部分をもとに戻し、迂回路を塞げば完了

という手順。


 しかし一番食料として大きいのは肉だ。当分食べ切れない程のストックがある。この世界に来て3日目に狩った鹿2頭のおかげだ。


 これもアイテムボックス頼りである。

 ① 鹿を発見したのでいる場所の下の土をごっそり収納。

 ② 鹿が落ちたらすぐに上から収納した土を出してかぶせて

 ③ 生命反応がなくなったら土をまた収納して取り出して

 ④ 死んだ鹿を収納

こんな感じでGET。


 2頭の鹿は解体済み。肉は私の体重くらい残っている。内臓は猛獣狩りの餌として活用した。骨は今のところ用途がなく収納したまま。


 鹿の毛皮は現在、頑張ってなめしている。大事典にやり方がのっていた。具体的には、

  ① 平らな板の上でしっかり伸ばして固定して

  ② 魔法で表面から水が出ない程度まで脱水したら

  ③ 木槌でとにかく叩きまくり

  ④ 乾いて固くなったら油と水を適度にしみ込ませて

  ⑤ ③と④をとにかく乾いても柔らかくなるまで繰り返す

という方法だ。


 小さい皮なら口の中でかみかみしてやればなめす事が出来るらしい。しかし今回の鹿の毛皮はそうするには大きすぎる。だから毎日こつこつ木槌で叩きまくるのだ。


 叩き作業が終わったらアイテムボックスに収納。そうすればカビも細菌も死滅するので腐らないし臭わない。


 皮が柔らかくなったら、この辺の木に実るドングリからとれる成分に浸した後、魔法で乾燥してやる。こうすれば出したままでも腐りにくくなるし完璧だそうだ。


 大事典によるとドングリの苦み成分により腐りにくくなるらしい。また苦みを水で抜いたドングリは食べられる。まさに一石二鳥だ。


 ドングリが実るのは秋。だからこの作業は当分先。周りの草木の様子からして今は初夏だろうから。


 この毛皮が完成すれば天然の毛布にもなるだろう。そうすれば睡眠環境も劇的に向上するに違いない。

 その日を夢見て毎日ある程度は叩きまくっている。秋までには柔らかい毛皮になるようにと念じながら。


 食器も作った。焼き物の食器だ。粘土を手びねりで成形して魔法で脱水乾燥。魔法で一度焼いた後、草木の灰を溶かした水を塗りたくり、もう一度焼いて完成。


 色は緑がかった灰色。形は味があると言えば聞こえはいいが正直いまいち。でも一応本格的な陶器と同じような艶がある。


 そんな感じで衣食住の最低限が揃い始めた。そうなると欲も出てくる。ご飯やパンを食べたいとか、調味料が欲しいとか、服の替えが欲しいとか。

 布団も欲しいとか、ナイフとか包丁とか鍋とかも欲しいなとか。


 ただその辺を入手するには人里に出なければならない。でも人に会うのは怖い。言葉は一応通じる筈。しかし私は極度の対人恐怖症なのだ。


 相手が女性でも怖い。男性の大人なんて前にしたらダッシュで逃げてしまう。いやしゃがみ込んで動けなくなるだろうか。それくらい私は他人が苦手。


 この辺はいわゆるPTSDという奴だ。今更治療できるものでもない。魔法で治療できないか大事典で調べたが無理な模様。


 だが治療できなくとも何とかできる可能性がある。恐怖滅却という魔法が大事典にあった。これを発動中は恐怖を感じないで済むそうだ。


 しかし恐怖滅却魔法、練習したのだが習得できない。実際に恐怖して、それを克服しようと強く念じる機会がないと習得できないようだ。夜が怖いとか程度の恐怖では足りない模様。


 そんな恐怖なんて味わいたくない。これは私じゃなくても同じだと思う。結果、習得できないままだ。


 そんな訳で人里に出る計画はずるずると延期している。早く行った方がいいとはわかっているのだけれども。

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