宅配便
リュウ
第1話 宅配便
新型コロナウイルスの感染拡大を防止するための外出自粛要請が続いていた。
直にお客様と触れ合う人やそれをサポートしている人たちの職業が多くな打撃を受けているようだ。
今の僕の仕事は、ゲームキャラの作成をしている。
作成と言っても、色々と作業が分かれていて、まだまだ修行中の身だ。
新入社員に、カッコイイ仕事を任されるはずも無かった。
いつの間にか、自宅での作業、テレワークってヤツになってしまい、直接、先輩たちに色々教えてもらうチャンスが無くなった。
大きな夢を抱えて上京してきたが、コロナのせいで後ろ襟を捕まれて前に進めない状態だ。
僕の少ないスキルを補うのは、時間をかけて勉強し練習するしかなく、故郷の記憶も忙しさの為、薄れていく毎日だった。
このテレワークってヤツは中々難しい。
朝と夕の遠隔会議で連絡する時間以外は、自己管理だ。
一生懸命仕事をしていようが、ゴロゴロしていようが、絵が描けていればいい。
作品が出来たら会社のサーバーにアップロードするだけ。
全て自宅で出来てしまう。
昨日、徹夜して仕上げてアップロードしたので、これからはお休みだ。
時計は、九時を指している。
『おうち時間』を楽しもうか……。
僕は、熱いコーヒーを入れ、パソコンの前に座った。
「さて、みんな、何してるかな」
SNSを開くと、皆、何かやってる。
部屋の中にテントを張って『おうちキャンプ』とか、『おうち花見』とか。
動物園や水族館のライブ配信やオンライン美術館。
体験型は、自炊やデリバリー、DIY、大掃除とかしてる。
ショッピングも楽しそうだ。
僕は、ショッピングサイトが好きだった。
綺麗なモノやカッコイイモノを見るだけでも心がワクワクする。
限られた友達とプレゼントを送りあう『プレゼントごっこ』が好きだった。
ある日、突然、送られてきた箱を開けるのが楽しかった。
「そうだ、ホワイトディーのプレゼントを贈らないと」
チョコレートをくれた娘の顔を思い出しながら、ショッピングサイトを開いた。
インターホンが鳴った。
段ボールが届いた。それは、母からだった。
開けてみると、色々入っていた。
食料が多い、たまに子供の頃よくねだって買って貰ったオヤツが入っていた。
手紙が入っていた。
『元気ですか?誕生日、おめでとう。色々、送ってます』と、書いてあった。
「そうだ、僕の誕生日だったんだ」
また、インターホンが鳴った。
春物の服が届いた。
いつまで経っても、親からみれば子どもなのだろう。
僕は、故郷ことを思い出していた。
まだ、雪が残っているだろうな。白い雪が……。
僕は、本棚の隅に置いてあったアルバムを取り出して、眺めていた。
懐かしい顔が並ぶ。笑い声が聞こえそうだ。
故郷の愛する人たちがそこにいた。
御届け物は、これからも続いていった。
宅配業者は、全て支払い済と言い、置いていった。
鍋のセット。
食器のセット。
タオル。
日常雑貨。
一番、大きいものは羽毛布団だった。
さすがにこれは、多すぎだ。
僕は、母に電話した。
「おれ、母さん」
「ああ、元気かい?」
「誕生日のお祝い、ありがとう。送りすぎだよ。布団までいらないよ」
「布団?送ってないよ」
「ええ、送ってないの。わかった。ありがとね。また電話する」
僕は、送り状を見ようとした時、インターホンが鳴った。
インターフォンの画面を見て、それが誰かすぐにわかった。
僕は、ドアを開けた。声が出ない。
そこには、うつむいた女性が立っていた。
「来ちゃった……。お布団、着いてる?」
びっくりしている僕を見上げてた。
僕は、彼女の手を引いて、部屋に入れると抱きしめた。
「会いたかったよ」
「誕生日、おめでとう」
開いて置かれたアルバムに、楽しそうに笑う二人の写真があった。
宅配便 リュウ @ryu_labo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます