第12話
公園の前を通ると村井先輩がいた。
1人でブランコに揺られていた。
「村井先輩。」
話しかけると、村井先輩はびっくりしたような顔をした。
真希は軽音部の人と話すのは久しぶりだと気付いた。
「っと、元気?」
「まあ、元気です。村井先輩は?」
「元気だよ。」
「そうですか。」
・・・。
「東京行くの、無理だった。」
村井先輩の声が風にかき消されていく。
「えっ」
「お父さんと喧嘩したんだ。結構激しい喧嘩。でも、だめだった。やっぱりお父さんには勝てないわ。」
「そっか。」
「悔しいはずなのに、ほっとしたんだ、俺。おかしいよね。夢を叶えるために頑張ってるのに。東京に行きたいはずなのに。反対されて、無理で。悔しいけど。心のどこかではほっとしているんだ。」
村井先輩は、ふう、とため息をついて続けた。
「だめだよね、こんなんじゃ。」
「分かります。」
自分の願いを叶えるのは、怖い。
叶いそうになると逃げだしたくなる、そんな気持ちが、真希には分かった。
真希は初めて村井先輩を見たときのことを思い出した。
村井先輩だけ他の人とは違って見えた。
「村井先輩は村井先輩らしく、頑張ってて、他の先輩たちとかと違ってても、なんていうか。村井先輩はいつも村井先輩で。そういうの見てると、元気貰えるんです。私。一人じゃないって思えるっていうか。だって村井先輩いつも頑張ってるじゃないですか。一人ぼっちみたいな顔をして。」
村井先輩のことはよく分かる。
ずっと見ていたから。
真希は気付かないうちに、村井先輩のことにとても詳しくなっていた。
「私、ずっと自分のことを一人だと思っていました。一人で頑張らなきゃいけないんだって。目の前に壁があったら、一人で乗り越えなきゃいけないんだって。でも、最近変わってきたんです。」
もしかしたら、村井先輩も同じなんじゃないか。
一人ぼっちだけど、一人じゃない。
「だから、一緒に頑張りませんか!」
「一緒に?」
村井先輩はポカンとした顔をした。
「えっと・・・私は私の人生を頑張るので。
村井先輩は村井先輩の人生を頑張るっていう。」
「それって別々ってことじゃ・・・」
と村井先輩は困ったように答えた。
うまく伝わっていない。
なぜか、村井先輩とはいつもこうなるような気がする。
ちぐはぐになる。
でも真希は晴れやかな気持ちだった。
これ、これが言いたかったんだと、自分の言葉に納得した。
終わり
軽音学部の村井くん 甘夏みかん @na_tsumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます