第9話

帰り道


いつものように自転車で帰っていると、誰かが公園のブランコに座っていた。


よく見ると、村井くんだった。


「何してるんですか。」


ときくと、


「何も。」


と答えた。


そうですか、私はそう言って隣のブランコに座った。


「石川さんは、どうしても叶えたいこととか、欲しいものってある?」


ときいてきた。


「んー、ないかな、、」


私はそう言った。


「そっか。僕はミュージシャンになりたいって思ってた。真剣だった。でも、、たぶん無理なんだ。」


と言った。


なんで?


どうしてそう思うの?


ときけなかった。


村井先輩がそういうのならそうなんだろう、と思った。


ブランコに揺られている村井先輩を見た。


黒い髪がきれいで、とても絵になる。


MVなんかでありそうだ。


「私だったら、村井先輩の曲ききたいけどな。テレビにでてたらみたいと思うし、もちろんライブにも行きたい。知り合いだからとかじゃなくて。」


村井先輩は特別だから。


初めて見たときに思った。


村井先輩は誰よりもミュージシャンだった。


もうすでに、特別だった。


本人がそれに気付いてないのが悔しかった。


私にとって村井先輩は見るたびに色が変わる宝石のようだった。


村井先輩のノートに書いてある文書はとても美しくて、図書館にある本よりもずっと面白かった。


次はどんなことがかいてあるんだろうってわくわくして。


村井先輩のギターはものすごく上手って言うわけじゃないけど、なぜか目が離せなくて、つい見てしまう。


こんなに面白くて楽しい宝石が、誰にも知られないままなんて。


ずっと、ここに埋まったままなんて、そんなのあって良い訳がない。


「村井先輩、東京に行きませんか。」


村井先輩は黙った。


「でも、親が、反対するし。うちの母さん、厳しいんだよね。」


と呟いた。


私は立ち上がって、村井先輩の手を掴んだ。


「一緒にいきましょう」


村井先輩は、じっとこちらを見つめてきた。


人生で始めて男の子と手を繋いだ瞬間だった。


まさか、こんな風になるなんて思わなかった。


もっとロマンチックな雰囲気で向こうから、なんて考えてたのに。

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