第8話
「へんたい」
授業中、思い出して手が止まってしまう。
村井先輩に言われた言葉だ。
「人のノート見るとか変態じゃん。」
へんたい。。
心が鉛のように重くなる。
私は悔しくなって「村井先輩だって変な人じゃん。」と言い返した。
放課後、梨奈と、空き教室に行く。
先輩たちが楽器をならしたり、お喋りしたりしていた。
村井先輩を見た。他の先輩たちとギターを弾いている。
私はあることに気づいた。村井先輩は一見普通にみんなと仲良くしているように見えるが、そうではない。
自分から話しかけることは滅多にないのだ。特に、年下の一年生とは全くという程話さない。梨奈のようにぐいぐい話しかけられると、話す、という感じだった。
人見知りな人なのかな、それとも女子が苦手、、?
村井先輩と目があったが、すぐに逸らされた。
「へんたい」
私はもちろん村井先輩に近づかない。
話しかけたところで大きなダメージを受けてしまいそうだ。
香川先輩がドラムを叩いていたので、梨奈と一緒に近づいた。
梨奈がドラムやってみたい〜
と言った。
いいよ、やってみる?と言って、香川先輩が立ち上がった。
梨奈ちゃんかっこ良いじゃん。香川先輩はそう言って笑った。
真希ちゃんは、なんかやってみたい楽器とかないの?
と聞かれた。
私は、、そんなに。あ、でもギターとかかっこいいなあって。
と言った。
ギターかあ。。俺ギターは全然できないからなあ。そういって香川先輩は笑った。
あ、そうだ、村井とかどう?あいつ、2年の中で一番上手いからさ!教えてもらいなよ!
私は村井先輩の方を見た。
村井先輩は1人で練習していた。
いやあ、、
香川先輩は、遠慮することないって!先輩みんな優しいから。もしかして、照れてる?!と言ってニヤニヤしながらこちらを見た。
(そんなんじゃない)
私はなるべく普通ぶって、村井先輩のところに近づいた。
「わー、ギター上手ですねー!」
村井先輩は一瞬だけこちらをみると、さっきと同じようにギターを弾きはじめた。
私は、隣に座った。
村井先輩がギターを弾いているのを見ている。
村井先輩は、ボソッと「これ、オリジナル曲」といった。
横には私にとってはお馴染みのノートが置いてあった。
どうしてだろう。
なんでなんだろう。
いま、幸せ。
こんな変な人で、ギターも全然教えてくれないのに。
隣にいると、この空間だけ、別世界みたい。
村井先輩の言うように私はきっと変態なのかもしれない。
私は村井先輩なら本当にミュージシャンになれるだろうと思った。
村井先輩だけ、空気が違う。
きっと、みんな好きになるだろう。
「村井先輩の曲、もっとききたいです。」
そう言えたらかっこよかったのだろうが、私は言えなかった。
ただ黙ってきいているだけだった。
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