妄想が激しい元?主人公
私達がゆっくりと近づいて行くとリリシアはわざとらしく声を張り上げた。
「あ~ら遅かったのね?動きの鈍いイメリアナのせいかしらぁ~」
つくづく嫌味な女に成長したよね!っていうかそれもイメリアナの台詞だと思うからね!
「ホーガンスレイさんは化粧崩れも、体操服が汚れたりもしてないんだぁ!俺らボロボロなのに、いつ着替えたのかなぁ?」
ハ…ハッチ!!
ニヒヒ…と笑いながら叫んだハッチの声に、周りにいた生徒達がリリシアを見てヒソヒソ…と囁き合っている。
誰が見ても、私達はサバイバルをしてきて、三日間お風呂に入っていない薄汚さなのに、同じ班のリリシアがメイクバッチリ、体操服は汚れ無しな状態はおかしいと思ったのだろう。
皆、リリシアの残念行動にすぐ気が付いたみたいだ。
「まあ…何もしないでふんぞり返ってらして…」
「内申点に響けば宜しいのに…」
リリシアは周りの囁き合う貴族子女を睨みつけて
「見てんじゃないわよっ!!」
と、またもイメリアナのゲーム内の名?台詞をパクっていた……ホントなんなの?
因みに…見てんじゃ~は、リリシアに意地悪して濡れた雑巾を投げつけようとして、リリシアの風魔法で自分の顔に投げ返されて、顔面に雑巾が乗っている状態のイメリアナの台詞です。
そんな細かな描写はいらない?そうですか……
「最終点呼、はじめるぞ~各組ごと整列~」
「桜組~並べ~」
中庭に入って来た先生達の声に生徒達は一斉に並び始めた。そして各クラスごとに点呼が開始された。
「桃組、A班…全員いるね…実技は完了だ…試験結果は三日後。今日から試験休みだ。体を休めるように」
ホマス先生は一切リリシアの方を見ないで淡々と連絡事項を話して、残りの班の方へ行ってしまった。
「あ~やれやれ終わったー!」
「疲れた~」
「お風呂に入りたい!」
皆と騒ぎながら馬車寄せまで歩いて来た。ミッチとハッチは男子寮の寮生なので中庭で別れた。
私の家の迎えは…と馬車寄せを見ていると、宵闇の中に佇むエルティルト君がいることに気が付いた。私と目が合うとエルティルト君は破顔した。
「イリィ…!お疲…」
「まあああっ!!お兄様ぁぁ!!私を迎えに来て下さったのね!」
後ろからドーーンと体に衝撃を受けて、たたらを踏んで堪えていたが隣に居たアトリが私の体を支えてくれた。
「イリィ、大丈夫?」
「危ないじゃない!」
ナーラとアンジーが私の背中を押し、エルティルト君に向かって走り出したリリシアに向かって怒ってくれた。
前を見ると、エルティルト君が駆け出しているのが見えた。リリシアが両手を広げているのも見える。もしかしてこのままリリシアとエルティルト君は抱き合っちゃうのかな…という思いがチラッと頭をかすめた。
しかしそれは杞憂だったようだ。エルティルト君はリリシアの横をダッシュで走り抜けると、真っ直ぐ私の所に飛び込んで来たからだ。
「おかえり、イリィお疲れ様。サバイバル実技は疲れるだろう?食事はちゃんと取れた?さあ、早く帰ってお風呂に入って一緒に夕食を食べようね?」
あ、甘――――――いぃぃ!!
昼に食べた川魚の塩焼きが口から戻ってきそうなほどの、デロデロの甘々だよ!
エルティルト君は蕩けるような笑顔を見せて私を見詰めている。しかもエルティルト君は私の周りでポカンとしている、アトリ、ナーラ、アンジーにも同様の蕩けるような笑みを見せた。
「皆も試験お疲れ様、休みの間は体をしっかり休めてね」
甘――――――いぃぃ!!
ナーラなんて顔を真っ赤にして憤死寸前みたいになっている。アンジーも男のアトリまでもが頬を染めてうっとりとエルティルト君を見ている。
エルティルト君は私の腰を支えるとグイグイ押しながら、私を馬車寄せまで移動させようとした。そんなに押さなくても移動はするよ?しますけど…あの?リリシアのことを丸無視してるんだけど、それ大丈夫なの?
エルティルト君の目線は私の方に固定されていて、リリシアなんて視界に入れてやるものかっ!みたいな気概のようなものを感じる。
私の視界の隅には鬼のような形相のリリシアがチラチラと見えている。
怖ええっ!ひたすらに怖ええっ!
「今日はミーガンレイ家の方に泊まることはシュヴァリエ家には伝えているからね。デザートにはイリィの好きな木苺のムースを作ってもらったよ。お風呂に入る時に、母上お薦めの薔薇の香りの入浴剤を使ってね」
普段、割と寡黙でまったりとした話し口調なはずのエルティルト君が、活舌の良い早口のお兄さん状態になっている…
「お兄様っ!エルお兄様っ!?」
リリシアが絶叫しているが、エルティルト君は無視を貫いている。
しかしだね…ここまで拒絶する?
その原因はエルティルト君と乗り込んだ馬車の中で明かされた。
「リリシアとは魔力が合わない?」
私が問い掛けるとエルティルト君は自分の掌を見詰めている。
「リグリー殿下と俺は…遠縁だけど親戚なのは知ってる?」
「うん」
エルティルト君は大きく息を吐いた。
「母上は先々代の国王陛下の外孫…そして俺、リグリー殿下…皆リリシアに近付かれるだけで総毛立つくらいに魔力の相性が悪い」
「ええっ?そんなのあるの……ってあるって、授業で習ったね」
本人同士の性格が合わない…という次元の問題では無いらしい。魔力を感じる近さにくると、反発し合って精神的にも肉体的にも嫌悪感と倦怠感を伴うらしい。
「滅多に無いらしいんだよね、だから俺も母上も気が付かなった。ただリリシアと一緒にいると…イライラするとか、何か疲れるというか…それだけだと思ってた。きっかけはリグリー殿下だった」
「リグリー殿下…」
「うん、初めてリリシアと会ったリグリー殿下は、顔色を変えると『マホガンタの血族か!』て言ったんだ」
マホガンタ!!そうだ、その設定を忘れてた。というか、マホガンタとは数百年前に滅んだとされる魔族と契りを交わしたとされる一族で代々、暗黒の魔の力を受け継いでいるとされる。
でもね、もっと重要なことがあるんだよ。
そのマホガンタの血脈を受け継いでいるのは……ゲームの終盤で分かることなんだけど、イメリアナのはずなんだよ。
ホントうっかりしていたけど、今更だけど聞いてみちゃう?
「あのぉ…因みになんだけど、私はマホガンタの血を感じたりなんかする?」
エルティルト君はポカンとした顔をした後、何故だか大笑いをした。推しの大笑い初めてみました、ご馳走様です。
「イリィにマホガンタの血が入ってるなら、こんなにイリィのこと好きにならないよ?」
あ、甘―――――いぃぃ!!
今日はエルティルト君の大甘囁きデーの日なのか?
「えっとじゃあ…私はマホガンタの血は入って無いということ?」
「だね、そもそも直系の王族のリグリー殿下がイリィの側に近寄れるくらいなんだものね、そうだ、マホガンタとレオリエード王族が反発する血脈なのはどうしてだか分かる?」
え…と、近々歴史で習うはずだけど確か…
「王族の祖先が魔族を滅する事の出来る聖女様の血筋だから…?」
エルティルト君は満足げに頷いた。
「正解…魔族を滅する事の出来る血筋だからこそ、魔の眷属の匂いや気配に敏感で、魂の内からマホガンタに対する嫌悪感を抱いているからね。恐らくリリシアの先祖は…マホガンタの血筋なんだろう…直系でないから、俺や母上は嫌悪感程度で済んでいたけど、リグリー殿下はもっと酷くて『殺したくなる』ほど嫌な気配らしいよ」
「それであんなに嫌っているんですね…」
「リリシアがマホガンタの生き残りだと、公には出せないしね。この情報を公にしてしまうと反王制団体を勢いつかせてしまうかもだし」
なるほど…ただ嫌いなだけから、政治が絡む反目状態になるわけだ。リリシアが反政府勢力に加担してしまうと、ややこしい状態になるのは目に見えている。
リリシアがミーガンレイを名乗る限り、エルティルト君の立場が危険になる可能性もある。
「だから、近付きたくないんだよね。リリシアはそんなことお構いなしに俺とリグリー殿下に近付こうとしてくるけど…」
そうかリリシアには自覚がないのか…じゃなければリグリー殿下の妃候補に~なんて吞気なことを思っていないものね。殺されそうなほど、嫌われているのにね。
やっぱり、リリシアとイメリアナの設定逆転現象が起こってるね…もはやこれからどういう方向でシナリオが進んで行くのか分からなくなってきたよ。
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