それが実力でしょう?

エルティルト君は私と婚約することをリグリー殿下とクェード殿下に伝えた。お二人から


「いや~良かった!やっと決まったのか~安心したよ」


的な言葉をかけられた。


何なの?もしかして男子同士で恋愛相談みたいなのしていたの?


まあ、そんなことを言って遊んでいる時間は今は無いか…


そう…マラドレア魔術学院の中間試験が始まったのだ。人の事はさておき、この試験で赤点を取れば補習の上、再試験だ。再試験を受けて合格すれば。取り敢えずは首の皮一枚で退学は免れる。しかし筆記もダメ、そして内申点も極端に悪ければ、この時期で退学もあるとエルティルト君に聞いたのだが…


リリシアは取り敢えず、筆記試験は大人しく受けていた。


試験の前半は筆記、後半は実技に分かれている学院の中間試験は実技試験の方が単位を取るのが難しいとされている。


魔力値が高くても、運動神経と判断力…思考力、実技では総合的な力が求められるのだ。


「班に分かれてサバイバル…」


廊下に貼りだされた実技試験の日程表を見て、唖然とした。筆記試験は事前に時間割が知らされているが、実技試験の詳細は不正防止の観点から、筆記試験が終わった日に発表されることになっている。


実技は毎回、違う内容らしくトーナメント戦だったり、紅白に分かれて合戦形式だったり…一人一人実技を披露する発表会だったり…とさまざまだ。


今年はサバイバル生活か…そうか、思い出してきた。


ゲーム開始の最初の中間試験の実技はチームを組んでサバイバルだったんだ…え~と確か…チームメイトはランダムだったはずだが、ゲームの進行上攻略キャラと主人公と悪役令嬢であるイメリアナが同じ班になっていたはず…


班別けの一覧名簿を見ると…うん、間違いない。リリシアとイメリアナ(私)とミッチとハッチこと、ミファリバチス=ルーエス(兄)とハヴァリアチス=ルーエス(弟)の双子とアトリ=ウノウス伯爵子息がばっちり同じ班になっている。唯一の救いが伯爵家のナーラが同じ班だということだった。


「お~イメリアナと同じ班?」


「あ~よろしくねぇ」


実技試験の班別けを見ていたら、後ろから声をかけられた。振り向くとミッチとハッチの双子とアトリがニコニコと笑いながら立っていた。


廊下の向こうからナーラの姿が見えたので


「ナーラ!同じ班だよ~」


と声をかけた。ナーラは私の言葉に笑顔になった…が、隣にいた子爵家のアージニア…アンジーが、えぇ!?私は?と小さく叫び声をあげた。


「アンジーは別班なうえに、私達はリリシア=ミーガンレイが一緒なの…」


ナーラの言葉に頷き返すと、ナーラもアンジーも何とも言えない顔をしていた。気持ちは分かる…確実にリリシアあの子は足手まといになる可能性が高い。


というか、リリシアのことだから理不尽に怒ったり嫌味を言ったりしそうで、それを考えたら胃が痛くなりそうだ。


ところがだ。実技試験の当日…学院の中庭に集合した時はリリシアはいたのだが、点呼が終わり、いざ実技のサバイバルが始まったと同時に姿が見えなくなっていたのだ。


本当はリリシアを捜して回りたいところなのだが、このサバイバルでは魔獣の討伐数が決められている。最低でも5体…それがクリア条件なのだ。リリシアを捜すくらいなら魔獣を探したほうが良いに決まっている。


「ねえ…どうしよう」


ナーラがアトリ=ウノウス伯爵子息の方を見た。この班の班長は全員一致でアトリに決まったのだ。アトリは遠くの森の方を見て溜め息をついた。


「実技の合格判定は『班で魔獣を5体以上討伐すること』つまりは討伐さえ出来れば基本は何をしていても構わないということだし、戦闘自体に不参加でも班の誰かが討伐していれば自分も自動的に合格となる…だが」


「だが?」


皆が声を揃えて聞くとアトリは、困ったような顔をして私達を見回した。


「サバイバル実技試験の注意事項、第五項目その③を見てみろよ」


私達はアトリに言われて、一斉に背中に背負っていたナップザックから実技試験についてという冊子を取り出して第五項目のページを見た。


「実技試験中は、教師もしくは最上級生がランダムに点呼を取りに各班に接触します。その際、点呼に応じない生徒がいる班は総合点から二点を引きますぅぅ!?」


「やだぁ!?点数引かれちゃうの!?」


私とナーラが叫ぶと


「まあ待てよ、落ち着いてその続きを読んでよ」


アトリに促されてその文言の先を読むと…但し魔獣討伐5体以上の討伐実績を重ねた班は追加の一体につき三点をプラスして採点します。と書いてあった。


「お~つまりリリシア=ミーガンレイが行方が分からなくて点呼に応じなくても、それを上回る討伐実績を上げてればプラマイゼロってわけだね」


双子の弟のハッチの声に皆が笑顔になった。


「取り敢えず時間が勿体から討伐に行こうぜ~」


双子の兄のミッチが地図を広げたので、皆で覗き込んで作戦を立てた。


°˖✧ ✧˖° °˖✧ ✧˖°


「ぃよ~し!まずは一体!」


ミッチがあっさりと魔獣の腹に剣を突き刺した。


ミッチって強い…今更ながらにアトリもミッチとハッチもこの物語の攻略対象キャラなのだということを痛感した。魔獣の生息地を割り出して男三人で連携してあっという間に大型の魔獣を倒してしまった。


エルティルト君に教えてもらった情報だと、サバイバル実技試験で討伐の課題が出た時は、生徒の皆は安全策を取って小型魔獣(リスっぽい)ばかりを集中して討伐するという現象がおこるらしい。


そりゃそうだよ、試験だとはいえ無謀に大型魔獣に挑んで怪我とかしたらシャレにならんしね。万が一の対策で生徒から見えない所に先生達と最上級生のお兄さんとお姉さんが待機してくれているらしいけど…


「次はオメロン狙おうっかな♪」


「おおっオメロンいいな!あの角がかっこいいんだよな!」


「オメロンの生息域はこっちのほうだぜ…」


いやいや、待て待て?女子そっちのけで更なる大型魔獣を狙うつもりか?アトリ、ミッチとハッチの三人は討伐した魔獣を魔法バック(無尽蔵貯蔵可、保冷、防腐完備)にしまうと、地図を広げてキャッキャしている。


私とナーラは完全に部外者だ。


「私達…何のためにいるんだろ?」


「点呼要員じゃない?」


私の返答にナーラは深く頷いていた。


基本的にサバイバル形式の実技試験なので、休憩してキャンプとかをしても問題はないらしい。大抵の生徒は先に討伐をできるだけやってしまって、後はのんびり…を狙っているらしい。


高魔力保持者で運動神経抜群の攻略対象キャラは、オメロンだか熟れたメロンとか言う魔獣をまたもあっさりと倒してしまった。


もう2体倒している、まだ試験開始から3時間しか経っていない。


あと残り3日…こんな怒涛の勢いで討伐してたら時間、余りに余るんじゃない?


「桃組A班、おつかれさま」


「!」


急に私達の背後から声がして…担任のユーラス=ホマス先生が草むらの陰から顔を出した。


「点呼の時間だよ~ええっと……A班は…リリシア=ミーガンレイがいないのか?」


眼鏡ホマス先生が眼鏡をキラリと光らせた。


皆の視線を受けてアトリが先生に話し出した。


「朝の点呼の後から姿が見えません」


ホマス先生は、小さく息を吐くと


「分かった…これは理事長に報告しておくよ」


理事長案件!?そんなに大事なの?私の驚愕する顔を見て、ホマス先生は眼鏡をクイッと押し上げた。


眼鏡クイッ、頂きました!


「A班の採点には響かないから、安心してくれ。くれぐれも加点を狙って無謀な討伐で怪我だけはしないように」


ありゃ、加点狙っているのご存じでしたか…私達が小さくなるとホマス先生は、微笑んだ。


「はい、ミーガンレイ以外はいるね、では残りの実技試験中、怪我の無いように」


「はいっ!」


とういう感じで私達は減点になることもなく、残り一日を残して5体の魔獣討伐を終えてのんびりと野外キャンプを楽しんでいた。


ミッチがナーラに話しかけている。二人はすっかり仲良くなったみたいだ。


「炙って焼いただけなのに、コレ旨いな!」


「ホントだね」


今日は皆で釣ってきた魚を焼いて食べた。最終点呼まで後、数時間だ。結局リリシアは一度も班に合流することもなく、点呼に訪れた先生や先輩方が溜め息と共に「君達に問題は無い」と言う発言で、リリシアの処遇はお察し案件だということが薄々分かって来た。


「あいつ…退学かな」


双子の弟ハッチが魚にかぶりつきながら私に聞いてきた。あいつ…とはリリシアのことだろう。


「エルティルトに聞いた感じだと、筆記と実技と内申点の総合で中間試験の成績の判断するみたいね、ホマス先生は内申点は零点とかにしてそうだし…状況はきびしいんじゃない?」


そんな感じで実技試験の最終点呼時間になったので、森を出て学院の中庭まで戻った。私達以外の桃組のクラスメイトもいる。


「アンジー!どうだった?」


アンジーのラベンダー色の髪が見えたので、前を歩く集団に声をかけた。


「イリィ、ナーラ!うちはなんとかギリギリよ~そっちは?」


アンジーが笑顔で私達に駆け寄って来た。ナーラが苦笑いを浮かべた。


「アトリ君達がサクサク片付けてくれて、出番無し」


「ナーラは治療魔法で活躍してたじゃない~私なんて釣って来た魚を捌いたり、鹿を捌いたり……これって調理師目指したほうがいいのかな?」


「まあ!イリィお料理出来たの!?」


「なんとか辛うじて…役に立てたわ」


アンジーに驚かれたが前世の記憶で何とか出来たのだ。そしてワイワイいいながら学院に戻ったのだが…


「…おい、あれリリシア=ミーガンレイじゃないか?」


アトリの指差す方を見ると、澄ました顔をしたリリシアが中庭に立っていた。

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