あんた誰?!

あれからエルティルト君との交流は、ずっと続いている。私もエルティルト君もお互いに大人しい性格であるので、老夫婦みたいなマッタリした付き合いだが、縁側(テラス)でお茶を飲んだり…菊人形て…失礼、季節の花々を愛でに植物園に出掛けたりしている。


逆にリリシアと会う頻度は減っている。一人で私を訪ねてくるエルティルト君に聞いても、リリシアは我儘だからね…と言うばかりで、お察しという感じなのだ。


もしかしたら我儘ガールのまま大きくなっていてある意味、公爵夫妻に苛められているというゲームのシナリオ通りにことが進んでいるのかも?


ただ、エルティルト君のこのしょっぱい反応から察するに、エルティルト君はリリシアに優しく接しているとは思えないのだよね。


エルティルト君は私に対してものすごく紳士的に、優しく穏やかに接しているのは分かるんだけど、リリシアの話題を出すと本当にしょっぱい顔をして、渋々リリシアの近況を話してくれる。


「リリシアは元気にしているの?」


「なんとか…」


なんとかってなんやねん!日本語で話せ!…あ、ここ異世界だった。


いわゆる、のらりくらりと会話をかわしてしまって、リリシアの事には触れて欲しくないみたいなんだよね。私はエルティルト君至上主義!なので…推しの言う事には絶対服従して、それ以上は話題に出さないようにしていた。


そんな感じで早いようなゆっくりと過ぎたような感じで、いよいよ十三才になりましたのでこのゲームの舞台である『国立マラドレア魔術学院』に入学ですぞ!


このマラドレア魔術学院は十三才から十八才までの貴賤問わず試験さえ通れば入学出来る学院だ。


細かい設定は忘れていたのだが、この学院で主人公と攻略キャラクター全員が出会うはずだ。


「おはようイメリアナ!入学式に相応しい晴天だね~」


あれ?どうして馬車でエルティルト君が侯爵家に迎えに来ているのかな?先輩として後輩である私を出迎えてくれるのかもしれないけど…リリシアはどうしたの?私と同じく入学よね?


エルティルト君にエスコートされて、馬車に押し込まれた。ええ…押し込まれましたとも。


「ちょっと?エル…どうして私の迎えに来…」


エルティルト君がズイイッと私に顔を寄せてきた。エル君、睫毛長ーーっ!いや、気にするのはそこじゃねぇ…


「今日からマラドレア魔術学院だろ?新入生のイリィが慣れなくて困ったりしないように俺が付き添ってあげるよ」


ドヤーーーッ!


いや?ドヤるのは主人公のリリシアの前でしなよ?どしたの、エルティルト君。あなたは主人公の側にいなきゃいけないはず…だよね?


私が怪訝な顔を向けても、満面の笑顔で交わしているエルティルト君。


まあエルティルト君は取り敢えず置いておいて…何とかこれから起こるゲームの場面を思い出していた。え〜と確か正門の所で、リリシアとオレ様キャラのリグリー殿下との絡みイベントがあった…と思う。


あれ?リグリー殿下だよね?


そういえば…リグリー殿下って…


「よっ!夫婦で登校かっ!」


エルティルト君の親友だった!しかも明るくて全然オレ様の気配ナシ!!


門扉の所で、私達を待っててくれたのか…手を降って出迎えてくれた、一応オレ様キャラ(予定)のリグリー殿下。


何度も言うが、エルティルト君の親友だ。その余波?で私とも仲が良い。すぐに私とエルティルト君を老夫婦、老夫婦と呼んで茶化してくるけれど、断じてオレ様キャラではない。


それにしても王子のキャラ設定どこ行った?


「新入生は歓迎式典とクラス分けがあるだけだろ?俺達も授業は午前中までだし、入学祝いも兼ねて市井に繰り出…あれ?」


馬車から降りてきた私を恰好良くエスコートしてくれたリグリー殿下が、私に話しかけていた言葉を急に止めたので、リグリー殿下の目線の先に私も目をやった。


目線の先には派手な集団が門扉に向かって歩いて来るのが見える。


あの集団に似たの……私、知っている。自分が学生の時にも居た…所謂、クラス…学年で目立つ子達で形成されたふた昔前で言うところの「不良」の集まりだ…ん?んんん?


その不良達の集団(見た所7、8人?)の中をよく見ると、小柄な女子がいる。その女子は濃いアイメイクに真っ赤な唇…マラドレア魔術学院の制服を独自改造していて、ジャケットの袖とスカートの裾にフリルがてんこ盛りに施されている。


ゴスロリ様か?


あれ?でもあのヴィジュアルのキャラクタ―って確か………


イメリアナ=シュヴァリエじゃないかっ!いやいやっ!?本物はここっここにいるからっ!じゃあアレ誰だぁ?


濃い化粧の小柄な女子の顔をジッと見る。髪はピンクブロンドで…瞳は濃いめのピンク色……


「ちっ…」


私の隣にいる推しのエルティルト君から、舌打ちが打ち鳴らされました。綺麗な舌打ちですね、流石攻略キャラ。


思わずエルティルト君を仰ぎ見た。エルティルト君は私の方を見ずに苦々しい顔をしている。


「リリシアだよ…」


「嘘でしょう!?」


やっぱり!!あの髪色と瞳はそうだと思ったけど、制服とかメイクとか、まんま昔の私、いや…ゲーム内のイメリアナ=シュヴァリエそのままじゃない!


私が叫んだ声に気が付いたのか、リリシアがこちらに気が付いたようだ。唇をニィッと歪ませて微笑むと不良達を引き連れてこちらに向かって来た!?


なんだその笑い顔!それゲームの中のイメリアナ=シュヴァリエの標準装備の笑顔だからっ!


ひええっひええっ…怖いよっどうしよう!?


慌てていると、エルティルト君とリグリー殿下の二人が私を背後に庇ってくれた。


私は安心しながら、エルティルト君の背中越しに近付く一団を見詰めた。


「あ~ら、誰かと思えばエルお兄様とイメリアナじゃない?」


よ…呼び捨て?え?今、私を呼び捨てにしたのかい!?


ていうか、主人公のはずなのにリリシアがまるで悪役令嬢のような話しっぷりなんだけど…


リリシアは唇を歪ませたまま、リグリー殿下を見上げた。


「リグリー殿下…いつまで私を待たせますの?早く…」


リリシアが最後まで言い切る前にリグリー殿下が言葉をぶった切った。


「いくら急かされても、言い募られてもリリシア嬢…あなたを王族の妃候補に入れることは無いよ。陛下に話すにもまず現公爵閣下から話も来ていないし、前公爵のよく分からない推薦の書簡だけでは絶対に無理だ」


なんだってぇ!?リリシアってば妃候補に名乗りを上げていたのか!!うん?この表現で合ってるのか?


リリシアは目付きを鋭くすると、エルティルト君の背後にいる私を睨みつけてきた。


だから、何故私を睨む?


「イメリアナ、あなたが妃候補になったの?」


なんだってぇ!?そんな訳あるか!


「おいおいっ?冗談でもそれはエルの前で言わないでくれよ!?俺だって自分の身が可愛いのだよ~」


「?」


リグリー殿下が慌てたようにリリシアの言葉を遮っていたのだが、言っている意味が分からない…


リリシアは唇を噛み締めるとリグリー殿下を指差した。不敬です…それ…


「いずれ私のことを受け入れることになるわっ!そんな女より私をねっ」


「そ…れ…」


その台詞……イメリアナ=シュヴァリエがリリシアに言ってた台詞じゃないの…もしかしてリリシアは姿形だけでなく、シナリオでも悪役令嬢の設定を取り入れちゃったのぉ?


いやいや…落ち着け私。


たまたま、そうたまたま同じ言葉を使っちゃっただけだよ、リリシアは主人公だよ?今はあんな状態だけど、教室に入ったら“主人公モード”に入るって、ね!そうだよね?


°˖✧ ✧˖°°˖✧ ✧˖°


物語の都合上なのか、主人公のリリシアと同学年の攻略キャラは全員同じクラスに在籍していた。今、教室に入って思い出した。


因みにエルティルト君とリグリー殿下とお隣の国から留学中のクェード=ビュネフト皇太子殿下も皆、同じクラスに固まっている。


防犯上の理由で一か所に固められているのかもしれないが…ゲームの都合上とそういうことにしておこう。


さて…桃組にはぁぁ~ああっ!やっぱり!攻略キャラの双子がいる!!ミッチとハッチ(あだ名)が動いている~ああっ窓際には爽やかな伯爵家のご子息が!?


そして、担任の先生が入って来た。


眼鏡ーーー!優しさの塊、癒し攻略キャラの担任が微笑みながら私達を見ている。

しかし先生はある一点を見て、少し眉をひそめた。


先生、分かっているよ…それはアレだろう。


クラスの皆もチラチラ見ているので私もそちらの方向を見てみた。


勿論主人公のリリシアは私と同じクラスだ。だがしかし、リリシアとその仲間達は教室の窓際の隅に固まって…不良宜しく、周りを威嚇しているのだ。


こんなにオラつく主人公なんて女性向けゲームでは初めて見た…

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