春のおうち時間
青山えむ
第1話 春のおうち時間
あんなに積もっていた雪はどこに行ったんだろう。毎年そう思うのに毎年雪が消える瞬間を見逃す。気づくと白かった庭にはいつの間にか土が見えている。不思議。
雪片づけをしなくていいので嬉しいけれど、今まで雪に隠れていた土や葉っぱ、どこからか飛んで来たゴミがあわらになる。汚い。少し複雑な気分もある。
朝起きたら軽く軽くストレッチをしてから新聞を読む。コーヒーを
天気予報は欠かさず同じサイトから。今日から気温が少しずつ上がっていくみたい。もう春か。この時期しか着られないトレンチコートを風にあてておこう。
休日はいつもより長い時間パソコンを見ている。朝のこのルーティンが私の至福の時間。SNSをチェックして友達の近況を知る。アイドルの情報サイトを見てチェックする。
今日は天気が良いので早速ベランダにトレンチコートを干した。クリーニングのタグが付けっぱなしだった、忘れないうちに外しておこう。
このトレンチコートはアイドルのライブに着ていくために買ったもの。
私の推しているアイドルのツアーは毎年この時期に行われる。入場するまでに何時間か外で待機する。その間コートだと暑いしカーディガンだと寒い。パーカだとカジュアルすぎてなんか違う。トレンチコートが一番丁度よかった。実際周りもトレンチコートが多い。
着る回数は少ないけれども、そんな理由で買った服だからこのトレンチコートを見るとアイドルを連想して温かい気持ちになる。不思議。
ピンポーン。誰か来た。両親は居間でテレビを見ていてインターホンが聞こえないのはいつものこと。すぐに私が玄関に行く。
私はマスクを着用する。家族以外と接する時はマスクを欠かさない。そんな時代。部屋着のままだったので、せめてカーディガンを羽織る。黒色の部屋着なのでギリギリ私服のズボンに見えるかもしれない。
「えっ」
訪問者は、私の推しているアイドルだった。どうして? テレビ番組?
こんなにいきなり訪問するものなの? 寝起きだから部屋着のままだし顔も洗っていない。恥ずかしい。どうしよう。
「どどどうしたの?」
「雪が解けたら会おうって約束してたじゃん」
アイドルはいつもの調子で言う。いつもの調子。テレビや雑誌で私たちファンに向けて喋るように。そう、いつもの調子なのに私は初めての状況になっている。何が違うんだろう。不思議。
どうしよう、なんて言おう。顔を洗ってくるから待ってて? いや、その間にいなくなったら絶対後悔する。じゃあどうする。ごのご時世、触れる訳にはいかないので握手も駄目。
「好きです! ずっと応援してます!」
色々単語が巡ったけれどもそれが第一だった。私の言葉にアイドルはなんて返すだろう。
ピピピピピピ。目覚ましのアラームが鳴る。なんだ、夢か。そうか、夢か。まさに夢の人。でも幸せな夢。余韻が残っている。
今日は午後から出勤なので少し昼寝をしたんだ。これから仕事だけれども、だるくも辛くもない。春の気候は好きだし帰ったらお茶とお菓子とアイドルで私のおうち時間を過ごすのが決まっているから。
春のおうち時間 青山えむ @seenaemu
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