リモート
水谷一志
第1話 リモート
一
また今日も授業だ。
でも、今どきの授業は一人で受けるもの。
そう、それは「リモート」の授業。
二
時代を先取り、いや時代最先端のこの形式で僕はいろんなことを学んでいる。
……とにかくいろいろやっている。外国語は必須だし、将来研究者になりたい僕は自分の直接の興味・関心がある分野以外にもいろいろ。
そしてたまたま今日は研究に使える(?)かもしれない数学をやっている。
ただし「リモート」で。
三
でも思えばこの形式、僕には合っているのかもしれない。
僕は小さい時から人と接するのが苦手な子どもだった。もちろん(?)勉強は抜群にできた。……できたのだが僕の「友達」はひたすら本、本、本。現実世界ではなく、本の世界、空想の世界と共に僕は生きてきた。
そしてそんな僕は学校では浮いていた。教室で受ける授業は、内容は面白かったので楽しいものであったが休み時間は地獄。僕は誰からも相手にされず独りでポツンと過ごす時間ばかりであった。
そんな時、僕は本という「友達」と逃げ込むように対話する。昼休みは毎回のように図書室に行く。そしてそこに「いる」大勢の「友達」と語り合う。……言っておくがこれは比喩だ。実際はそこにあった本を片っ端から読んでいるだけ。映画やドラマなんかでよくある、「図書室からの恋」なんて僕は経験したことがない。……ってか「恋」なんてリア充な言葉、僕には全く縁のない世界の言葉だ。
四
でも僕はやっぱり勉強は抜群にできた。成績は常に学年トップクラス。これは自慢にあたるかもしれない。……でも、それぐらい自慢したっていいじゃないか。僕は運動はできないし「人間」の友達もいないし、他に誇れることがない。だから勉強が心の拠り所。それは精神安定剤のようでもある。……そんなことでもないと、僕はやっていけない。
そんな中、僕にやりたいことができた。僕は小説を読むのも大好きだが、特に「宇宙」に興味を持ち始めるようになった。宇宙の起源はどうなっているのか?その成り立ちは?そんなことを書いた本を読んでいると心が和む。そして……、僕は宇宙の研究者になりたいと思うようになった。
五
そうとなると話は速い。僕はひたすらに勉強した。特に物理、数学、あと化学なんかも詳しく勉強した。それは学校での授業もさることながら、自分でも研究に役立ちそうな分野を選んで勉強。本という名の「友達」とのひたすらの対話。その「対話」はとても楽しく、それさえあれば他の嫌なことは忘れられる……、そんな気さえした。
六
そうやって、進学。僕はいわゆる「理系」だ。まあ新しい学校でも友達はいないがそれでも僕には新しい「友達」がいる。それは宇宙。「本」に加えて「宇宙」まで友達なんて、社交的でない僕にしてはやるじゃないか。僕は一人そんなことを思う。
そんな中のこのご時世。新型コロナウイルス。これは何かの暗示なのか?いやそんなわけはない。ただの神様の気まぐれ?……でもそんなことを言ったらお亡くなりになった人たちに申し訳ない。
ただ勉強の時は僕は授業の内容に集中する。今はとにかく数学、数学だ。この式が宇宙のどんな役に立つのか、今から楽しみだ。
授業終了。独りきりでパソコンに向かいながらのそれを僕は終える。
そして、【大学進学のための塾の個別ブース】を出て、僕は帰宅へと向かった。 (終)
リモート 水谷一志 @baker_km
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