見上げる文芸部さん
桜野 叶う
1、空を見上げて Ⅰ
空はきれいだ。あの青を見ていると、清々しく気持ちがすっきりする。ただ、見上げているだけで、ちっちゃな悩みなんて、散り積もった
うらあたたかい季節。桜の花びらが空を舞う。ついにこのの季節がやってきた。一年の中で、一番、心地よい季節。夢や希望や期待が胸いっぱいに膨らむ季節。不安も入り混じる季節。美しい桃色でいっぱいになる季節。そんな季節が到来した中、小説家を目指すまろかは、昨日入学式を終えた
新しく文芸部に入部したまろかは、まず最初に部長の
「ようこそ、善美高校文芸部『
「はいっ!」
一年生のふたりは元気よく返事をした。その明るさと純粋な笑顔に、藤子も笑顔を見せた。
最初の挨拶が終わり、先輩部員たちの自己紹介が行われた。
「改めて紹介するけど、私が部長の花崎藤子。生徒役員もやっとるわ。男の子たちの甘酸っぱい恋や友情などを書くのがぶち好きなんよ」
水色のふち無しメガネをかけた、大人っぽい雰囲気の藤子は、頬に手を添えてうっとりしていた。
「私は、
焦げ茶色のミディアムヘアの四葉は、少し控えめなスマイルが印象的だ。
「僕は、
青色のメガネをかけた
「よろしくお願いします!」
一年生ふたりが明るく元気よく言うと、まろかは奥でぽつりといる先輩が目に入った。他の皆よりも
「彼は、
康次が言う。無造作な髪だが、狐のような細い目が彼の冷涼な感じを一層引き立たせる。
「へぇー」
「漱哉君の小説は、少し読んだだけでその世界に引きずり込まれて、ぶち悲しいものがほとんどじゃから、いつも泣いちゃうんよ」
「そうそう、ブラックホールみていな感じじゃ。ほんとすごいじゃよ」
藤子と四葉が口を揃えて彼を絶賛する。
そうなんだ。すごい方なんだな。私も読んでみたい。まろかは漱哉をじっと見つめた。
「うちは、
隣に座っているもうひとりの一年生が口を開いた。
「うちは小説は書かん。小説じゃなくて詩を書くんじゃ。明るくて楽しいのをよく書く」
ミルクティー色のポニーテールヘアが特徴的なタンポポのような陽気で
「ほうなんだ。えっと、うちは
「ほうか。まろかちゃん、よろしゅうの!」
「うちこそ、よろしゅうのぉ」
ふたりは互いにほほえみあった。まろかは町音とは仲良くなれそうな気がした。町音だけではない。上級生の先輩たちとも上手くやっていけそう。皆、優しくて活発で楽しい文芸部生活を送ることができそうだ。彼らと過ごすこれからの日々に期待を
皆の自己紹介もひと段落つくと、まろかは漱哉の隣に座った。町音もまろかの隣に座った。
「……えっと、漱哉さん」
漱哉はまろかたちに顔を向けた。硬く涼しい顔は一切変わっていない。しかし、漱哉は口を開こうとしなかった。無愛想のまま、こちらをじっと見つめているだけだった。向こうから返事が返ってこず、まろかは少し戸惑いを見せたが、すぐに立て直した。
「新しく入った一年生の西園まろかです」
「同じく一年の甲本町音です。よろしゅうお願いします」
「よろしゅうお願いします」
挨拶をするも、彼は黙ったままだ。まろかはまた困ってしまった。
「期待している」
話してくれた! 物足りない言葉だったが、まろかは漱哉の声が聞けただけで十分うれしかった。
「日々、精進を
「はい。頑張ります」
そこへ、部室の扉が開く音が聞こえた。誰かが入ってきた。入ってきたのは、若くてきれいな女性だ。大体、三十半ばを少し越えたくらいのところだろうか。白のワンピースに水色のロングカーディガン。左の肩には、結った髪は胸をも
「こんにちは、先生」
藤子を皮切りに、先輩部員たちは彼女に挨拶をした。
「うちの顧問の
「こんにちは」
善美高校文芸部の顧問を長く努めている、馬場
藤子が一年生に紹介した。一年生のふたりは、先生に挨拶をする。
「一年生ね。まろかちゃんと町音ちゃん。藤子ちゃん、最初の挨拶とかは終わった?」
「はい。自己紹介も全て終わりました」
「ありがとう。じゃあ、まろかちゃんから。いらっしゃい」
「は、はい」
空いている別室で、まろかは先生と二人きりになった。だが、お互いに向き合うことはなく。椅子を横に並べて、先生はまろかの隣に座った。
先生曰く、向かい合うよりも親近感が湧くという。
そう言う先生の座り方は美しい。同じ女子であるまろかでさえも
「西園まろかちゃんね」
「はい」
「文芸部は本の執筆をするのが主な活動だけど、そういったことって初めて?」
「いえ、中学のときも文芸部で、そこから書き始めました」
「そう、ある程度はかけるのね。どんな小説を書くことが多いのかしら」
「学校ものですね。青春系。恋愛とかファンタジー要素があったりとか」
「いいわね。私もそういうの好きだわ。結構、
先生は清楚に微笑んだ。
「楽しみにしてるわ。頑張りましょうね」
「はい! ありがとうございます。がんばります」
顧問の先生も、とても優しくて素敵な方だ。
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