空を彩った朝日は天高く昇り再び空を彩り山の向こうに帰る。

忘れられる訳がない。

あれは三年前の夏だった。

空は菫の色に染まり、雲は朱く燃えていた。

「綺麗だね。」

日向美は言った。

俺は怖かった。

屋上から見る夕焼けは、この世の終わりとも思わせる色で囁く。

『もうすぐだ』

日向美は続けて言う。

「花火みたい。」

「来週のお祭りで花火が上がるんだ、一緒に見ようよ。」

「私、見れるかな…花火。」

「大丈夫。そうだ、焼き鳥買ってくるね。」

「ほんと?焼き鳥大好きなんだ。」

「だから、楽しみにしててな。」

「わかった。」

病院を後にした裕人は、当日の最短ルートを調べ入念に準備をした。

日向美とささやかな"夏祭り"を楽しむために。




夏祭り決行前日の空が霞む頃。

いつも通り病室のドアを開けると日向美がこちらを見てニコッと微笑む。

「まーた来たの?フフっ、どんだけ好きなのさ!」

「大好きに決まってるじゃんか、俺の将来の嫁さんなんだ。」

「そんな事言ってー、何も出ないよ?」

「別にいらないよー、日向美がいればそれでいいもん。」

「あら、そんな事言われたら恋しちゃうじゃん。」

「今までしてなかったんかい」

口が達者でいつも笑って話していた日向美が、その日のうちに逝ってしまうなんて誰が思うだろうか。

家に帰って一時間程経って電話が鳴った。

日向美の親父さんから日向美が亡くなったと。

病院に急いで向かった。

涙がボロボロ溢れて最早前なんて見えていない。

病室のドアを開けると親父さんが俯いて肩を震わせている。

日向美は仰向けで寝ていた。

常に付けられていた電極や点滴は既に外されていた。


静かに、ただそこにあるだけのように、日向美は死んでいた───────


親父さんが俺に一言。

「裕人君、日向美を幸せにしてくれてありがとな。」

親父さんが来た時はまだ話せていたそうで、明日花火を見る事、焼き鳥を食べる事、嬉しそうに話していたそうだ。


「そうだったんですね、でも俺、約束守れなかったっす。ごめんな日向美、花火見られなかったな…」

返事は無く、病室にはやるせない空気が募った。


日向美の葬儀は家族葬で執り行われ、二十年という短い生涯に幕を閉じたのだった。

裕人はそれから自らの殻に閉じ篭り、夏が、霞が、花火が嫌いになった。


そして、全てを置いてきた────────


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