第43話
町に入ったヴァンたちが目にしたのは、上空から剣を振り上げて降下してくる魔族の大群。
人間より魔法の扱いに長けているだけあり、剣に炎を宿す者もいれば、体に稲妻を纏う者もいた。
「来るぞ!!」
ヴァンの叫びにクレイは盾を構え、ソフィアとアンバーは杖をかかげる。
「死ね! こざかしい人間ども!!」
ヴァンの目の前で剣を振り上げた魔族の男。その剣身には黒い炎が走り、どす黒い殺意を宿す凶刃が振り下ろされた。
「くっ!」
ヴァンも剣で防ごうとするが、その圧力から止められないと直感する。
――ダメかっ! そう思った瞬間―― クレイが割って入り、盾で剣を受けた。
「ぐっ……あ!」盾がメリッと、悲鳴を上げる。
「クレイ!」
「今だ! やれ、ヴァン!!」
ヴァンはクレイの絶叫で、ハッとする。自分の前にいるクレイを目隠しに使い、魔族の死角から剣を突き出す。
喉元へ滑り込んだ剣は、首の動脈を貫いた。
「あが……っ!?」
魔族は呻き声を上げ、藻掻き苦しみ地面に倒れた。咄嗟だったが、クレイとの連携がうまくいったことに、ヴァンはホッと胸を撫で下ろす。
何年も共に戦ってきたからこその動きだった。
「やったな」
「ああ、だが――」
周りを見渡せば、冒険者たちが次々と魔族に襲われてゆく。剣で斬られ、魔法の炎で焼き尽くされていた。
冒険者も反撃しているが、相手が強いうえに数も上回っている。
「まずいな……このままじゃ」
ヴァンが悲壮な表情を浮かべた時、冒険者の中から大きな声が聞こえてくる。
「うらあああああああっ!!」
バトルアックスを振り回していたのはマカオスだ。周りを囲んでいる魔族を一刀の元に斬り伏せる。
筋骨隆々の仲間たちも、向かって来る魔族を叩きのめしていた。
「さすが〝アルバトロス″だな。Aランクに近い実力と言われるのも納得だ」
更に別の場所から魔族の悲鳴が聞こえてくる。
ヴァンたちが視線を移すと、そこにいたのはBランクパーティーの水無月。
女戦士のローザが相手の攻撃を防ぎ、セレスティとカルバンの
あっと言う間に三体の敵を倒し、沈黙させた。
やはり強いなと思ったヴァンは、戦場全体に目を移す。冒険者のほとんどがCからBランクだったが、Aランクの冒険者も数組いた。
その実力は折り紙付き。
Aランクパーティー〝グングニル″
ローブに身を包んだ魔道集団。強力な雷や氷の魔法を使い、飛び回る魔族を叩き落していった。
地面に落とされたが最後、盛り上がる土に足を取られ、動けなくなった所に炎の魔法で焼き尽くされていく。
Aランクパーティー〝暁の冒険者″
戦士、剣士、魔法使い、僧侶といったバランスのとれたパーティー構成で、それぞれが役割をはたし魔族を確実に倒していく。
数分で十体以上を屠り、周りにいる魔族は恐怖に震え上がる。
Aランクパーティー〝青き導き手″
召喚士二名を有する異質なパーティー。巨大な鳥の魔物を召喚し、上空を飛ぶ魔族に攻撃を仕掛ける。
地上から向かって来る魔族には、狼の魔物を複数召喚して迎撃した。
何体もの魔物を同時に召喚できるため、数の不利を補っている。
「さすがAランクパーティーだな」
感心するヴァンの横で、クレイが鞘から剣を抜き、倒した魔族の左耳を切り取っていた。
「おいヴァン! どうする? 俺たちも魔族の討伐に行くか!?」
「いや……軍の命令通り、住民の避難を優先しよう。その間に襲ってくる魔族は倒していく!」
ヴァンの言葉に〝大鷲″のメンバーは全員頷く。
戦場と化した町から逃げ出そうと、慌てふためき駆け出す住民たち。
「こっちです! こっちに来て下さい」
ヴァンたちが誘導し、町の外へと連れ出そうとする。だが人が集団で移動すれば、その分魔族の目に留まってしまう。
空から二体の魔族が、高速で滑空してきた。
悲鳴を上げながら逃げ出す人々を守ろうと、クレイが盾を構える。突っ込んでくる魔族が衝突し、「ぐっ!」とクレイが顔をしかめた。
それでも力負けすることなく、全力で押し返す。
魔族がグラリとよろめいた所に、クレイの後ろにいたヴァンが飛び出し、魔族の首を斬りつける。
一瞬の隙をついた攻撃。魔族は首から血を噴き出し、藻掻きながら地面に倒れる。
だが、もう一体の魔族がヴァンの背後に迫った。
よけられない! ヴァンがそう思った時、無数の火の玉が魔族に襲いかかる。
アンバーの火魔法。体が燃え上がる魔族は絶叫しながら、アンバーに向かって手を伸ばす。
ソフィアが前に出て、杖をかかげ強い光を放った。
視界を潰され、目を抑えて苦しむ魔族。ヴァンは踏み込んで、魔族の首を切り裂く。燃えながら倒れる魔族を横目に、ヴァンが指示を出す。
「これで三体、耳を切り落とすのを忘れるな! 行くぞ!」
住民を逃がしながら、ヴァンたちは町の奥へと入っていった。
◇◇◇
「ヨハネ将軍!」
「ああ、冒険者が間に合ったようだな」
目の前にいた魔族を斬り払いながら、後方から駆け上がってくる冒険者に目をやる。数に劣っているが、善戦しているとヨハネは感じていた。
そして大声を上げながら町に迫る集団がある――
「やっと来たな……」
ヨハネは笑みを浮かべる。遅れていた最大の戦力、国王軍の歩兵部隊三千が遂に町に入ってきた。
これで戦いになる……そう思ったヨハネの元に、一体の魔族が空から降りてくる。
「お前が、魔族の将か?」
ヨハネの問いかけに魔族は何も言わず、笑みを浮かべて剣を抜く。
「いいだろう!」
剣を握りしめ、手綱を持ちヨハネは魔族へと馬を走らせる。魔族も呼応するように羽を広げ、飛行しながら向かってきた。
二人の将がぶつかり合い、交差する剣から火花が散る。
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