第31話

 「それと――」



 ヨハネは少し言いにくそうに王に伝える。



 「捜索隊からヴィーダルの森で数名の〝魔族″を見かけたと報告がありました」


 「魔族!?」



 魔族は魔物と違い、人間と同じように高い知能を持つとされ、魔物より危険な存在と言われていた。



 「それは〝殺戮の支配者″の行方を捜していたということか?」


 「恐らく……それにヴィーダルの森以外でも、魔族の目撃例が増えております」



 王は顎に手を当て、怪訝な表情を浮かべる。



 「まさか、魔王軍の次の標的はこの国―― ブリテンド王国か!」


 「魔族を集めているのであれば、充分ありえるかと」



 会議に出席していた者は、誰もが唸り声を上げる。魔王軍が本気で攻めて来れば、ブリテンド一国では対抗できない。



 「もし、それが本当なら同盟国と連絡を取り、すぐにでも〝連合国″を動かさねばなるまい」



 語気を強める王に、ヨハネは冷静に答える。



 「おっしゃる通りです。しかし、の軍は人間側の守りの砦。不確かな情報で連合軍を動かす訳にはいきません」


 「うぅむ……確かにな」



 王は椅子に深く腰掛け、腕を組み思い悩む。



 「今後も情報収集に注力していきます。どうか私にお任せください!」



 自分がこの国を守らねば……。ヨハネは、改めてそんな決意を胸に抱いた。



 ◇◇◇



 自分の家に戻ってきたガルムは、床下をゴソゴソと漁っていた。取り出したのは【知将フラウガンの兜】だ。



 「こいつをつけて……」



 頭にすっぽりと被り、テーブルに置いていた黒い玉に目を移す。


 迷宮の戦利品として持ち帰ってきた物だが、〝大鷲″のメンバー全員で話合った結果、一番功績を上げたガルムが受け取るべきとの結論に至った。


 ――高い値段がつくなら売りたいけど、そもそもこれが何なのか分からないからな。


 ガルムは兜の能力である〝鑑定″で調べることにした。黒い玉を手に持ち、鑑定を発動する。


 黒い水晶のようだと思っていたが、鑑定で表示された文字に驚く。



 「……黒龍王の真核!?」



 よく分からなかったが、どうやら珍しい物のようだ。


 ――あの大蜘蛛から出てきたんだよな? あいつの強さと関係あるのか?


 ガルムは、この玉と似た物を知っていた。床下から、覇王龍の魔剣を取り出す。


 柄の部分を見ると、四色の宝玉が埋め込まれている。大きさや質感など、この黒い玉とそっくりだ。



 「やっぱり何かありそうだな……〝黒龍王″ってあるし」



 魔剣についている宝玉はいずれも龍王の加護を持つ。黒龍王の真核と関係があると思うのは当然だろう。


 ガルムは黒い玉を、剣の柄の部分に近づけて見比べてみる。すると不思議なことが起こった。持っている玉が、引っ張られるような感覚がある。


 一瞬困惑したガルムだったが、どうなるか興味があったため手を離した。


 玉は吸い込まれるように、「ちゃぽんっ」と四つ並ぶ宝玉の中心部に落ちてゆく。



 「え!?」



 ガルムは唖然とする。何が起きたのか分からなかったが、宝玉は柄の部分でくるりと回り、いつの間にか四つから五つの宝玉へと姿を変えていた。


 円状に並ぶ五色の宝玉を見ながら、ガルムは顔をしかめる。



 「なんなんだ……これは?」



 改めて鑑定を発動し、魔剣の能力アビリティを表示させた。



 【覇王龍エルドラドの魔剣】 

 ・攻撃力SSS

 ・自己修復

 ・重量軽減

 [能力アビリティ

  炎龍王の加護

  海龍王の加護

  天龍王の加護

  雷龍王の加護

  黒龍王の加護



 「おお! 加護が増えてるぞ」



 ――だとすると、この魔剣は能力を追加できるってことか。ただでさえ強いのに、えげつねーな!


 ガルムはそっと床下に魔剣を戻す。


 ――これを使えば、大抵の相手は倒せるだろーけど……使う機会は少なそうだ。


 黒い玉の鑑定が終わったのでフラウガンの兜を外そうとしたが、ついでなので自分のステータスも確認することにした。


 ――大量の蜘蛛を倒したしな……ひょっとしてレベルが上がってるかもしれない。


 手の平を見て、鑑定を発動する。表示された数字に、ガルムは目を見開いた。



 ガルム・オーランド Lv38

 生命力 43

 魔法力 26

 攻撃力 50

 防御力 36   

 俊敏性 43



 「おお! レベルが二つも上がってるぞ! やっぱり、あの蜘蛛すげー強かったてことか!?」



 レベル38の表記をまじまじと見る。


 40を超えれば、それは神話級の強さを表す。自分が有り得ない領域に近づいていることに、ガルムは感動すら覚えていた。



 「目指してみるか……レベル40!」



 ◇◇◇



 レイフォードの街はずれに〝大鷲″のリーダー、ヴァンの自宅があった。年代を感じさせるログハウスで、外壁には緑の植物が巻き付いている。


 日が沈み始めた街並みに、街灯が灯る。


 ヴァンも家のランプに火を灯し、開けていないワインを手に取ってダイニングに向かう。そこにはクレイの姿があった。


 二人は一枚板で出来たウッドテーブルを囲み、コルク栓を抜いたワインをグラスに注ぐ。グビグビと飲むクレイとは対照的に、ヴァンは静かにワインを傾けていた。



 「どう思う、ヴァン」


 「どう、とは?」



 クレイの言葉に、ヴァンは口元まで持ってきたグラスを止める。



 「ガルムのことだよ。あの強さは異常すぎる。お前だって分かってるだろう?」


 「ああ、確かにな……」



 ヴァンはグラスをテーブルの上に置き、何かを考えるようにまぶたを閉じる。



 「あれはA級どころじゃない。まさかと思うが、ガルムはギルドから指名されるっていう〝特級冒険者″なんじゃないのか!?」



 その言葉に、ヴァンはわずかに眉を動かす。

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