第30話

 その後、目を覚ましたマリアや〝水無月″のメンバーは、セレスティから事の顛末を聞くことになる。


 「そんなことが……」



 マリアは絶句する。自分たちよりランクの低いパーティーに命を救われるとは思っておらず、驚きを隠せない。



 「ヴァン、クレイ、そしてガルム。本当にありがとう、君たちがいなければ私たちは全員死んでいただろう。感謝してもしきれない」



 マリアは頭を下げ、率直に礼を言った。レイドとして依頼を受けたのだから、当然のことをしただけだとヴァンが言い、ガルムも同意する。



 「――に、してもガルム! お前、強いんだってな。セレスティから聞いたぜ!」



 〝水無月″の女戦士、ローザがガルムの肩をバンバン叩きながら話しかける。



 「う、おお、まあな。ベテラン舐めんなって言っただろ」


 「ほんと、いずれはAランク冒険者になりそうね。今のうちに手をつけておいた方がいいかしら?」



 妖艶な声と、甘い匂いのするカルバンが体を寄せてくる。ガルムは息を飲んで、わずかに覗く胸元に視線を向ける。



 「ちょっと! 近づき過ぎよ、おばさん!!」



 ソフィアが顔を真っ赤にして、カルバンを突き飛ばす。鼻息荒くローザやカルバンを睨みつけた。



 「おー、こえー! 気のつえー修道士だな」


 「うふふ、冗談よ。怒らない、怒らない」



 ローザとカルバンが笑いながらマリアの元へと戻っていく。マリアは微笑み、改めてヴァンの顔を見る。



 「我々はこれで失礼するが、受けた恩は必ず返すよ。いずれまた会おう――」



 そう言って〝水無月″は宿を後にする。ガルムもまた出会うことになるだろうと、そんな予感がしていた。


 そして洞窟に残してきたマカオスたち。


 ギルドに戻って状況を説明すると、ギルドの職員が救助のための冒険者を招集し、すぐに救出に向かった。


 無事に救助されたが、その費用は全額〝アルバトロス″持ちらしい。


 まあ、今回の依頼は成功扱いになるんだからプラマイゼロだろう。ガルムはそう思い、結果オーライと呑気に考える。



 ◇◇◇



 夜の街に繰り出した〝大鷲″の一行。


 依頼の達成を祝って、いつもの酒場『クリスタル』に全員で来ていた。



 「「「「かんぱーーーーい!!」」」」



 グラスに注がれた酒を一気飲みし、ガルムは「ぷはー」と息を吐く。


 ――うまい! この一杯のために生きてる気がするな。


 ガルムはご機嫌で、二杯目の酒を注文する。そんなガルムを見て、ヴァンが口を開いた。



 「ガルム……今回も助けられたな。改めて礼を言うよ」


 「いいってことよ! 同じパーティなんだから、助け合うのは当たり前だろう」



 二杯目を煽りながら、ガルムは当然とばかりに答える。



 「それにしても、前から不思議だったんだが……」ヴァンが飲み干したジョッキを置き、ガルムに目を向ける。


 「どうしてそれだけの実力があるのに、一度冒険者を辞めたんだ?」


 「う、それはだな……」



 ガルムは言葉に詰まる。実際はかなり弱かっただけなのだが、そんなことを言える訳がない。



 「ま、まあ、色々あるんだよ。諸事情ってやつだ」


 「……そうか、深く聞くのはやめることにしよう。ところで――」



 ヴァンはクレイに目を向ける。クレイは分厚いステーキをフォークで突き刺し、口に運ぶ寸前だったが、ヴァンの顔を見て動きを止めた。



 「ガルムの実力が本物なら、〝大鷲″への加入を認めると言っていたな……。で、どうなんだ? クレイ」


 「うぅ……いや」



 ソフィアはニヤニヤと笑い、アンバーは恨みがましい目でクレイを見る。



 「その、なんだ……思ったより実力はあるし……ランク以上に役に立って……」



 ガルムがクレイの顔を覗き込み、自慢げな顔をする。クレイも腹が立ったが、認めない訳にはいかなかった。



 「あーーっ! 分かったよ!! 俺が間違ってた。ガルムは役に立つし、〝大鷲″には必要だ! 認める、俺の負けだ!」



 潔く両手を上げたクレイに、他のメンバーは笑い合う。


 ガルムは仲間として認められたことに胸を撫で下ろし、素直に喜んだ。



 「では改めて〝新生大鷲″の門出を祝おう!」



 ヴァンがグラスをかかげる。ガルムやクレイ、ソフィアやアンバーもグラスを持ち上げ、ヴァンへと視線を向けた。



 「次に目指すのはBランクだ! 俺たちならできるし、それを越えてAランクの冒険者まで駆け上がろう。乾杯!!」


 「「「かんぱいっ!」」」



 その日も結局、朝まで飲み明かすことになった。



 ◇◇◇



 ブリテンド王国、王城。その一室に、国の要人と軍の関係者が集まっていた。


 中心にいるのはよわい60を越えて皺こそ増えたが、臣下からは厚い信頼を得ているラムセス・ブリテンド王。



 「それで、その後ヴィーダルの森の件は、どうなった?」



 王が将軍のヨハネに尋ねる。ヨハネは立ち上がり、一礼したあと口を開く。



 「捜索隊を送って調べましたが、魔物の死体が無数にあるだけで、何が起きたのかは未だに分かりません」


 「では〝殺戮の支配者″が仲間を殺して去っていったということか?」



 王の問いに、ヨハネは頷く。



 「その可能性は高いかと……元々、魔王以外では倒せないと言われていた魔物です。何者かに倒されるとは思えません」


 「そうか……」



 王を始め、大臣たちも溜息をつく。何にせよ、まともに戦えば勝てなかった相手。

どんな形であれ、危機を乗り越えたのだとホッとする。

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