第24話
「様子がおかしいぞ、なにかあったのか?」
パーティーの先頭を歩いていたヴァンが怪訝な表情をする。魔素が濃くなってきたかと思えば、先の方から爆発音が聞こえてきた。
「ガルムとクレイが喧嘩ばっかしてるから遅れちゃったんだよ!」
「人のせいにすんなよ! ソフィアだって出てきた蟲に驚いて、逃げ回ってただろうが! そのせいで、すげー遅れたんだぞ!!」
「なによ! 私が悪いって言いたいの!?」
「なんだよ!」
「やめろ! それどころじゃない」
ガルムとソフィアの口論に、ヴァンが割って入る。
「あの二組のパーティーがいれば大丈夫だと思うが、嫌な予感がする。急ごう!」
ヴァンに促されて、駆け足で洞窟の奥へと進む。そこで見たのは信じられない光景だった。
「なんだよ……コレ」
ガルムは絶句する。
開けた空間に光が灯り、天井には山のように蜘蛛が張り付いていた。地面には膝をつき、
その前は火の海になっている。
ガルムは他のメンバーも探したが、目に入ったのは倒れているマカオスとローザ、カルバンの三人だけだった。
「全員、やられたのか……?」
誰もが呆然とし、ガルムの質問に答える者はいない。
「と、とにかく! マリアの援護に行くぞ」
ヴァンの言葉に、ようやく我に返るメンバーたち。それぞれの役割を果たそうと、行動を開始した。
「大丈夫? 今、傷を治すから!」
地面にへたり込むマリアに回復魔法をかけるソフィア。剣を抜き、周りにいる蜘蛛を牽制するヴァン。
盾を構え、マリアとソフィアを守りながら状況を分析するクレイ。
アンバーも杖に魔力を流し、いつでも魔法を使える態勢を整える。
ただ一人だけ――
「おー、なんか知らんが、一杯いるな! 俺が全部ぶちのめすから心配するな!」
のん気な発言をするガルム。一歩踏み出すと、すぐ近くに白い蜘蛛がいた。
一発で倒そうとガルムは拳を振り上げるが、蜘蛛が吐き出した糸が足にくっつく。
「あっ!」
糸を引きはがそうとするも、強力な粘着力で足と地面が離れなくなる。その隙に蜘蛛は次々と糸を吐き出しガルムにかけてゆく。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」
あっと言う間に、体中が糸だらけになり動けなくなった。
なんとかしようと藻掻くが、余計に絡まって地面に倒れてしまう。それでも剥がそうとゴロゴロ転がっていると、糸が繭のようになり体の自由がきかなくなる。
「あ~~~~~!! ダメだあ~~~全然、動けない!」
「ああ!? なにやってんだ! 全然役に立たねえじゃねーか!!」
クレイがイラ立ち、ガルムを睨みつける。
「アンバ~~、助けて~~!」
「わ、分かった! 今、助けるよ……」
情けない声を上げて助けを求めるガルム。アンバーが火魔法で、糸を焼こうとした瞬間、蜘蛛が一斉に糸を吐き出してくる。
ヴァンやクレイの足や腕につき、剥がすことができない。
「アンバー、そんなおっさんほっとけ!! それより、こっちの糸を頼む!」
「う、うん!」
ヴァンとクレイの体についた糸に向かって火魔法を放つ。糸はチリチリと燃えていき、粘着力を失った。
「やっぱり、この糸の弱点は〝火″だな!」
焼け落ちていく糸を見ながら、ヴァンは確信する。
「火魔法が使えるのはアンバーだけだ。糸を出してきたら、焼き払ってくれ!」
「うん……や、やってみる!」
ヴァンはしゃがみ込んでいるマリアの腕を取り、強引に立たせる。全員に合図を送り、出口に向かって駆け出した。
「クレイ! ガルムを頼む!!」
「ちっ! しょうがねーな!!」
クレイは体が繭になって蜘蛛の攻撃を転がりながらかわしているガルムに近づき、思い切り蹴飛ばす。
「ぎゃ~~~~!? なにすんだ! この野郎!!」
ガルムはボンッボンッと跳ね、出口付近まで転がって行った。
「助けてやってるんだから文句言うんじゃねー!!」
ヴァンや〝大鷲″のメンバーも出口に向かって走る。だが、天井から大量の蜘蛛が下りてきた。
出口直前でヴァンたちは足を止める。
「くそっ!!」
クレイが顔をしかめ躊躇していると、蜘蛛はカチカチと口を鳴らして威嚇してきた。
その時、わずかに地面が揺れる。
「なんだ……」
ヴァンが見上げると、開けた空間のさらに奥から何かがやってくる。
体を揺らし、暗がりから、ゆっくりとその姿を現す。
ヴァン、ソフィア、アンバー、クレイ、そしてマリアも、その『化物』を目の当たりにする。
「嘘だろ」
クレイが目を見開く、それは白い蜘蛛の魔物。だが周りにいる蜘蛛とは大きさの桁が違う。違いすぎる。
他の蜘蛛の数百倍の大きさ。体高は10メートル以上あり、全身に紋様のような物が浮かんでいる。
巨大な蜘蛛は口を開き、超音波のような咆哮を上げた。洞窟全体が揺れ、天井からパラパラと岩の破片が落ちてくる。
あまりに絶望的な光景に、その場にいた冒険者たちは言葉を失う。
「くっ!」
クレイは唇を噛みながら、現状を打開できないか辺りを見回す。
「ヴァン! どうする!? このままじゃ全滅するぞ!!」
「あ、ああ……そうだな、なんとか脱出しないと……」
誰も巨大な蜘蛛と戦おうなどとは考えない。それは巨大な蜘蛛が規格外の化物であることを肌で感じていたからだ。
ヴァンたちは全員で出口に向かって走り出す。
「アンバー! ガルムに火魔法を!!」
「うん!」
ヴァンの叫びにアンバーが答えた。
ガルムに杖を向け火魔法を放とうとする。だが、正面にいた数十匹の蜘蛛の
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