第23話

 「マカオスたちはどうしたんだ!?」



 マリアはそう言って辺りを見回と、暗がりに倒れている男を見つける。



 「マカオス!!」



 マリアは周囲を警戒しながらマカオスに近づき、すぐに首の動脈に指を当て生きているか確認する。



 「大丈夫だ。息はある!」


 「そう、良かったわ」



 カルバンが安堵の息を漏らすが、危険な状況には変わりない。


 ローズとセレスティ、カルバンは最大限の警戒態勢を取りながら、マリアを囲むようにして蜘蛛たちを牽制する。



 「なにがあった、マカオス!? お前ほどの男が」



 マカオスは「うぅ……」と呻き声を上げながらも意識を取り戻した。



 「マリアか……、ダメだ……逃げろ。こいつらは強すぎる……」


 「動けるか?」


 「……毒を打ち込まれた……とても動けそうにない……」



 マカオスの弱々しい声に、不安が増幅してゆくマリア。恐怖を拭いさるように頭を振る。



 「他の奴らはどうした!? 〝アルバトロス″のメンバーは?」



 マリアがそう聞くと、マカオスは恐怖で塗りつぶされた目を、天井へと向ける。


 振り返ったマリアが上を見上げると、そこには糸で体を巻かれた男たちが天井から吊るされていた。ピクリとも動かない。



 「全員……やられたのか……」



 マリアは絶望的な表情を浮かべる。


 ――メンバー全員がBランクの〝アルバトロス″がやられたのであれば、ここにいる魔物はAランクの冒険者でなければ対処が難しいということ。しかもこの数……。


 マリアは即座に撤退すべきか、マカオスたちを助けるべきか一瞬迷う。


 その迷いが結果的に判断の遅れとなり、退路の上にある天井から一匹、また一匹と蜘蛛が下りてくる。


 〝水無月″の周りに十数匹の白い蜘蛛が降り立ち、威嚇するようにカチカチと口を鳴らす。



 「ローザ、ここから脱出する。前衛を頼む!」



 マリアは立ち上がり、ローザに指示を出しながら、ゆっくりと剣を抜く。



 「こいつらは置いていくのか?」


 「仕方ないよ。冒険者なんだから覚悟はできてるはずだよ! 私たちの命が最優先に決まってるじゃない!!」



 伏し目がちに呟くローザに、セレスティが言い放つ。冒険者に命の危機はつきもの、そのことは誰もが理解していた。



 「行くぞ!!」



 マリアが出口に向かって駆ける。それに合わせて三人も動き出す。


 セレスティは杖をかざし、光の魔法を発動した。杖から溢れた光はマリアの持つ剣に宿り、闇を切り裂く加護となる。


 カルバンも杖を掲げ、強力な魔力を集めた。


 マリアに向かって魔法を放つと、全身に魔力を浴びたマリアは『大地の加護』の力を得て、身体能力が向上する。


 ローザは盾を構えながら出口に向かって突進。その後をマリアたちも続くが、周りにいる蜘蛛たちが見逃してくれるはずもなく、一斉に襲い掛かってきた。


 マリアが目を見張ったのは、その速さ。


 あっと言う間にローザをかわし、マリアに向かってくる。今まで遭遇した蟲の魔物の比ではない。


 地面を蹴って飛び上がってきた蜘蛛に、マリアは剣を振り抜く。


 蜘蛛の背に当たった瞬間、火花が散り、カンッと高い音がして剣が弾かれる。



 「――なっ!?」



 信じられないといった表情でマリアは蜘蛛を見た。


 今の自分は身体強化の魔法を受け、剣には光の加護が宿っている。にもかかわらず剣が弾かれた。


 蜘蛛の異常なまでの硬さに呆気に取られていると、今度はローザに向かって二匹の蜘蛛が飛びかかる。


 ローザは盾で防ぐが、あまりの衝撃に耐えられずに後ろに吹っ飛ばされた。



 「な……んだ、こいつら!?」



 地面に尻もちをついたまま、ローザは驚愕の表情を浮かべる。



 「ローザ!」



 ――あのローザが押し負けた!? だとしたら硬いだけじゃなくパワーもあるってこと。



 「きゃあああああああっ!!」



 セレスティの悲鳴にマリアは慌てて振り返る。見るとセレスティが逆さまになり、上から吊るされていた。右足には白い蜘蛛の糸が巻きついている。



 「セレスティ!!」


 「助けて、マリア……!」



 絶叫するマリアに、涙声で助けを求めるセレスティ。


 気づけば周りを大量の蜘蛛に取り囲まれている。



 「なんなんだ。コイツら!」


 「とても普通の魔物には見えませんわね」



 背中合わせに立ち、絶望的な光景に青ざめるローザとカルバン。今までもパーティーの危機はあったが、これほど悪い状況は初めてだった。


 飛びかかって来る蜘蛛を何度も打ち払うマリア。だが切り裂くことができない。


 パワー、スピード、そして外皮の硬さ。どれを取っても並の魔物ではない。それが数百匹。


 今は周りにいる一部の蜘蛛しか襲ってこないが、この空間にいる蜘蛛が一斉に向かってくればひとたまりもない。


 何とか打開策を考えるマリアだが、その目の前で更に信じられない光景が広がる。


 蜘蛛の額に魔力が集まり、魔法陣が展開された。それは使ことを意味している。



 「あぶないっ!」



 手を伸ばして叫ぶマリアの声は届かず、蜘蛛から放たれた火の玉はローザとカルバンに襲いかかる。


 巻き上がる炎と轟音。


 マリアの目の前で火の玉は爆発し、仲間二人を飲み込んでいった。

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