第21話

 「うらぁっ!!」



 大量に湧き出てくる魔物を斬り飛ばす〝アルバトロス″のメンバーたち。


 次から次に地面をはって向かってくるのは、多足で硬い甲殻を持つ〝蟲″の魔物。体長は四~五十センチはある。


 だが、どんなに硬い甲殻であろうとマカオスの持つ〝バトルアックス″の一撃は防ぐことができず、蹴散らされていった。


 マカオス以外のメンバーも大剣やハンマーなど、魔物の防御を粉砕する得物を使っている。彼らにとっては歯応えのない相手だった。



 「一匹、一匹は大したことねーが、すげー量だな」



 アルバトロスの一人、ゴラムが大きなハンマーを肩に乗せ、辟易したように呟く。


 後方では〝アルバトロス″が打ち漏らした蟲たちを〝水無月″のマリアが切り捨てていった。その剣筋には迷いがなく、一太刀で蟲の胴を両断する。


 彼女の鮮やかな剣捌きに、マカオスも目を見張った。



 「残った魔物はあいつらに任せて大丈夫だな」



 〝アルバトロス″と〝水無月″の活躍により、一行は予定通り坑道の最奥へと辿り着く。そこには壁の一部が崩れ、大きな穴が空いていた。



 「ここから迷宮のようだ……入るぞ、気をつけろよ」



 マカオスたちが穴の中へと入り、〝水無月″も続く。


 最後にガルムたち〝大鷲″が足を踏み入れる。



 「結局、俺たち何もしてないよな」



 ガルムが不満を漏らす。



 「別にいいんじゃない。成功すれば報酬は一緒だし、こっちの方が楽でいいよ」


 「そりゃそうだが……」



 淡々と言うソフィアに少し呆れるガルムだったが、まったく活躍できないのも問題がある。


 そもそも今回の依頼は、クレイに実力を認めてもらうことが目的だ。


 そうでなければパーティーから追い出される。それに馬鹿にしてくるマカオスを見返してやりたい。


 ――あと〝水無月″の前で格好つけたいんだよな。(これが一番大きい理由)


 だが、そんな華々しく活躍できる機会はなかなか巡ってこない。そう思っていた時、ガルムの前にカサカサと蟲の魔物が躍り出てきた。



 「お! 来やがったな」



 ガルムは持っていた松明を左手に持ち替え、右手で剣を抜く。この日のために買った新品の剣だ。



 「お前で試し斬りしてやるぜ!」



 ガルムは剣を振り上げる。今回、活躍するために【鬼神ヴェデルネスの手甲】と【天空神ヘルメスの足鎧】を身につけてきていた。


 ――戦闘において、一切の抜かりはない!


 思い切り剣を振り下ろすと、蟲の甲殻に当たりパキンッと高い音が鳴り響く。



 「え?」



 新品の剣は根元から折れて、空中に舞っている。ガルムはその様子を、呆気に取られながら見ていた。



 「危険だ、下がって!」



 マリアがガルムの元まで下がってきた。鞘から抜き放たれた剣は、鮮やかに蟲の胴を切り裂く。


 一瞬で魔物を絶命させ、剣を静かに鞘に納めた。その手際に〝大鷲″のメンバーも、「おぉー」と感嘆の声を上げる。



 「すまない。一匹打ち漏らしてしまった」



 ガルムの前に立ち、マリアが謝罪する。近くで見ると、その美しさがより一層際立って、ガルムは見とれてしまう。



 「マリア! 謝る必要なんてない、こいつらだって冒険者なんだ。自分の身ぐらい自分で守らせろ!」



 そう言ってマリアの近くに来たのは、盾を持つ背の高い女性。手足は長く、鎧を纏っているが、隙間から見える太ももや腹には筋肉が浮き出ている。



 「そうだよ! あんな蟲も倒せないなんて、なさけない!!」



 辛辣な言葉と視線を向けてきたのは、白いローブを着た子供のような少女。



 「あなたね、マカオスが言っていたEランクの冒険者って」



 そう声をかけてきたのは少し年上に見える妖艶な雰囲気の女性。黒いローブとつばの広い三角帽を身に付け、値踏みするようにガルムを見つめる。



 「い、いや、確かに今はEランクだが、元々はDランクだったんだ。ブランクがあって下がっただけだ!」


 「どっちにしても低いランクじゃない!」


 「う、それは……」



 幼く見える少女に突っ込まれ、ガルムが言葉に詰まっているとマリアが間に入る。



 「すまない、うちのメンバーは口が悪くて。改めて自己紹介するよ。私は〝水無月″のリーダー、マリアだ。そして――」



 そう言って、マリアは後ろにいるメンバーに視線を向ける。



 「背の高い子がローザ。屈強な戦士で、男にも負けることはない」



 ローザは腕を組み、フンッと鼻を鳴らす。



 「こっちは白魔導士のセレスティ。状態異常の治療や、魔物を祓う結界魔法を得意としている」



 セレスティと呼ばれた子供のような少女は、苦々しげにガルムを睨む。



 「カルバンは補助魔法の使い手。攻撃魔法こそ使えないが、このパーティーにはなくてはならない存在だ」


 「よろしくね」



 カルバンは手を振って、ニコやかな笑みを浮かべる。


 〝水無月″の自己紹介が終わった所で、ヴァンが一歩前にでる。



 「俺はヴァン。この〝大鷲″のリーダーだ。後ろにいるのが魔導士のアンバー、修道士のソフィア、戦士のクレイだ。そして――」



 ヴァンはガルムに目を向ける。



 「俺はガルムだ。十年以上冒険者をやってるベテランだからな。分からないことがあったら何でも聞いてくれ!」



 自信満々に名乗ったガルムに、セレスティが顔をしかめる。



 「あんたが一番弱いんでしょ! なに、偉そうに言ってんのよ!!」


 「え、偉そう!?」



 セレスティの一言に、ガルムは絶句する。

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