第20話
翌日――
街の北に位置する山脈、その中腹にあるアバライド鉱山前。
ガルムたち、〝大鷲″のメンバーたちが到着すると、既にいたのはマカオス率いる〝アルバトロス″だ。
厳つい男たちが四人居並んでいる。全員が戦士系という、むさ苦しい布陣だ。
「もう一組は遅れてんのか?」
ガルムが辺りを見回すが、他には誰もいない。
「そのようだな、まあ、待っていればそのうち来るだろ」
ヴァンは岩に腰を下ろし、静かに待つようだ。
少し離れた場所にはクレイが腕を組み、ブスッとした表情で立っていた。相変わらず慣れあうつもりはないんだな、とガルムは思う。
しばらくすると、下から昇ってくる人影が見える。どうやら遅れていたパーティーが到着したようだ。
歩いて来るパーティーの姿に、ガルムは目を見張る。
全員女だ。しかも一人一人が、かなりの美人。
「お、おい! あれって……」
「ああ、Bランクパーティーの〝水無月″だな。会うのは久しぶりだ」
ヴァンは興奮するガルムを
「あれが水無月か……」
冒険者の間でも有名なパーティーを見て、ガルムはテンションが上がる。先頭と切って歩くのは水無月のリーダー、Bランクの剣士であるマリア。
赤く美しい髪は風になびき、その端麗な容貌は男たちの目を引いた。
マリアを始め、〝水無月″のメンバーは誰も美しく、その妖艶な姿にマカオスたちも色めき立つ。
ガルムは徐々に近づいてくる〝水無月″が気になってしょうがない。
「おお……噂通り美人だな。マリアって」
鼻の下を伸ばして眺めていると、背後から刺さるような気配を感じる。恐る恐る振り向くと、ソフィアとアンバーがゴミを見るような目でガルムを見ていた。
「い、いや、ほら! 水無月って有名だけど、見るの初めてだからさ! ちょっと、気になっただけだよ」
「別に、どうでもいいけど」
冷たく言い放つソフィアと、ガルムから目を背けるアンバー。
――うぅ……ヴァンだって見てたじゃねーか! なんで俺だけ……。
「申し訳ない、少し遅れてしまった」
坑道前に到着したマリアが謝罪する。その態度も凛々しく美しい。
「フンッ、やっと来たか。まあいい」
マカオスが文句を言いながら、坑道の入口の前に歩いて行く。
その時ヴァンが、思い出したように口を開いた。
「そういえば〝水無月″もBランクだから〝アルバトロス″と同じだな」
「え? じゃあ、マカオスたちがリーダーになるとは限らないってことか?」
できればマカオスの言うことを聞きたくなかったガルムだが……。
「いや、〝水無月″はBランク二人にCランクが二人。それに対して〝アルバトロス″は四人全員がBランク……やはりアルバトロスに従うしかないな」
「くそっ! 仕方ねえか」
渋々受け入れたガルム。全パーティーが揃ったことで、全員が坑道の前に集まる。居並ぶ冒険者の前に立ったマカオスが声を上げた。
「そろったな野郎ども! まあ、女もいるが、それはいい。俺は〝アルバトロス″のマカオスだ。坑道内で戦闘になった場合、俺たちの指示に従ってもらう。いいな」
冒険者の間から不満の声は上がらない。
レイド討伐において、ギルドランクはもっとも重要視されていたからだ。
「俺たち〝アルバトロス″が最初に入る。その後を〝水無月″一番後ろはEランクのメンバーがいる〝大鷲″だ。ガルム、足を引っ張るなよ」
マカオスはそう言って、笑いながら坑道に入って行く。
ガルムも「ぬぐぐぐ……」と唸りながら後をついていった。
◇◇◇
三組のパーティーは薄暗い坑道を進む。
通路は大人が数人通るには充分な広さが確保されており、
〝大鷲″は最後尾に配置され、前にガルムとヴァン。次にソフィアとアンバー。
一番後ろにクレイがいる。
魔法職や回復職を守る形だ。
「――に、しても何でこんな所に魔物が出たんだ? 今までは普通に採掘できてたんだろ?」
松明をかかげて進むガルムの疑問に、ヴァンが答える。
「坑道の奥が『迷宮』と繋がってたみたいだ」
「迷宮……。つまり未発見のものがあったってことか?」
「そういうことだ」
迷宮は古代の遺跡や洞窟などに魔物が住み着いたもので、国は危険と判断し一般人が近づくことを禁じていた。
だが通常では出会うことのできない希少な魔物や、お宝と呼ばれるような素材が取れることもあり、発見された迷宮に入ろうとする冒険者は多くいる。
「と、言うことは、今回は迷宮の最奥まで進むってことだろ?」
「ああ、依頼は鉱山の再開だからな。迷宮に通じる穴を塞ぐだけでは解決したことにならないだろう」
迷宮の魔物を全て討伐するには、その最奥で強力な魔素を放つ〝主″のような魔物を倒さなくてはならない。
〝主″の強さは迷宮によって異なる。
今回は坑道から出てきた魔物から、B~Cクラスの冒険者で討伐できるとギルドが判断していた。
「まあ、全員Bランクの〝アルバトロス″がいるのだから心配はないだろうが……気を付けるに越したことはない」
「確かにな」
慎重になるヴァンに、ガルムも同意する。
今まで調子に乗って痛い目にあってきただけに、今回は自制しようと心に誓っていた。
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