第19話

 ガルムは依頼書をギルドの受付へと持って行く。


 この手の依頼は定員に達すると閉め切られてしまうため、受け付けが終わっていないか確認しないといけない。



 「はい、大丈夫ですよ。みなさんが最後の応募になりますので問題はありません」


 「そうか! 良かった」



 承認が下りたことに、胸を撫でおろすガルム。


 危険度は高そうだが、報酬がいいので受けたかった。



 「決まったみたいだな」



 クレイが笑みを浮かべ、ガルムに近づいてくる。


 ガルムが受付で渡された資料を取り上げ、中身を確認すると――



 「いいじゃねーか! 魔物相手に大暴れしてやるよ」



 クレイはそう言って資料をヴァンに渡し、ギルドの入口へと歩いて行く。



 「俺はこれで帰るからよ。仕事の日にちが決まったら教えてくれ」



 そのまま出て行くクレイを見て、ガルムは一つ息を吐く。



 「やれやれ、相当嫌われちまったみたいだな」


 「すまないガルム。根はいい奴なんだが……」



 ガルムは改めて、持っている資料に目を落とす。


 ――この依頼であいつに認められないと追い出される訳か……また一からパーティーを探さないといけなくなるな。


 ガルムが思いつめた顔をしていることに気づき、ソフィアが声をかける。



 「大丈夫だよガルム! あんたの実力を見れば、クレイだって認めざる得ないよ。元気だしなって!」



 いつものように明るく励ましてくるソフィアに、ガルムも口元を緩める。



 「そうだな……いつも通りやるだけだ!」



 そう言って前を向きガルムたちもギルドから出ようとした時、後ろから唐突に声をかけられた。



 「よお、ガルムじゃねーか!」



 振り返ると、そこには四人の屈強な男たちが立っている。その内の一人に、ガルムは見覚えがあった。



 「マカオス……マカオスか!? 久しぶりだな」



 それはガルムと同時期に冒険者になったマカオスだった。高そうな青銅の鎧に身を包み、背中には巨大な斧を背負う。


 肩まで伸びたグレーの髪と、口髭。


 髪の生え際こそ後退しているが、筋骨隆々の体はガルムより二回りは大きい。


 ガルムより早くギルドランクを駆け上がっていたため、なにかにつけて高慢な態度でガルムを見下していた。


 ――嫌な奴に会っちまったな。



 「冒険者に復帰したってのは本当だったのか……最低のFランクからだろ?」



 マカオスはつかつかとガルムの元へ歩み寄り、見下すように話しかける。



 「いーや、情報が古いぜ! 今日の評価査定でEランクに上がったんだ。すごい早さだろう!!」


 「ほーう」



 マカオスはガルムの後ろにいる、ヴァンやソフィアに目を移す。



 「そいつらが新しいパーティーメンバーか? ずいぶん若い奴らの所に入ったな」


 「別にいいだろ、それより何か用か?」



 マカオスはフンッと鼻を鳴らし、ガルムが持っている資料を指さす。



 「お前ら、その依頼を受けるんだろ? 俺たちもその依頼を受けてんだよ」


 「お前らも!? お前らのパーティーって、確か……」



 マカオスはニヤッと笑って、自分の後ろにいる男たちを見る。



 「俺たちのパーティー〝アルバトロス″はBランク。今回依頼を受けた中では、もっとも高いランクってことだ」


 「う、それは……」



 ガルムはたじろぐ。複数のパーティーで依頼を受ける場合、もっともランクの高いパーティーの指示に従うのが冒険者の暗黙のルールだからだ。



 「せいぜい足を引っ張るなよ、ガルム! ただでさえブランクのあるお前は、役に立つのか立たないのか分からんからな!」



 ハハハッと高笑いを上げて去っていくマカオス。それを見て、ガルムはギリッと歯噛みする。


 実力では絶対に負けていない自信はあるが、ギルドからの信頼が厚いのはマカオスの方。文句の一つも言えなかった。



 「アルバトロスか……」



 ヴァンがマカオスの出て行った扉を見ながら呟く。



 「なんか感じの悪そうな奴だね。ガルムは仲がいいの?」


 「いいや全然、大嫌いな奴だよ!」



 不快そうな顔をするソフィアと、その隣にいるアンバーも眉間に皺が寄っていた。



 「何にせよ、Bランクの彼らを中心に討伐は行われるだろう。俺たちは万全の準備を整えるだけだ」



 ヴァンに促され、その日は解散となった。だがガルムは不安を覚える。


 ――クレイのことだけでも頭が一杯なのに、マカオスまで出てくんのか……無事に終わってくれればいいが。


 その後、坑道に出る魔物の討伐が三日後と決まった。


 ガルムたち〝大鷲″は集合日に遅れないため、早々に北の地へと出発する。



 ◇◇◇



 北西の街カンバラ。ランデル子爵が治める領内にある最大の街で、その北の山脈にアバライド鉱山がある。


 ガルムたちは翌日の討伐に向けて、このカンバラで宿を取ることにした。



 「明日は鉱山前に集合なんでしょう?」


 「ああ、レイド討伐の場合は現地集合、現地解散が基本だからな」



 ソフィアの問いに、ヴァンが答える。


 〝大鷲″のメンバーは、宿屋の近くにある酒場で夕食を取っていた。しかしクレイだけは『おっさんと一緒は嫌だね』と言って結局来なかった。



 「〝アルバトロス″以外のパーティーって、どこが来るのか分かってるのか?」



 ガルムが焼いた鳥の足を口に頬張り、酒を飲みながらヴァンに確認する



 「いや、分かってない。詳細を知っているのは〝アルバトロス″だけで、俺たちに情報は回ってきてないんだ」


 「ぜってー、マカオスの嫌がらせだな!」



 ガルムが飲んでた酒のグラスをテーブルに叩きつけ、腹立たし気に管を巻く。



 「嫌がらせかどうかは別にして、重要視されてないのは間違いないだろう」


 「ほんっとに感じ悪いよね! あのおっさん!!」


 「私も……あのおじさんは好きになれません……」



 ソフィアとアンバーも扱いに不満があるようだ。


 だが、『おっさん』や『おじさん』と言われる度に、少しづつ傷ついているのは気のせいだろうと、ガルムは自分に言い聞かせる。



 「なんにせよ、明日現地に行けば分かるさ。俺たちは役に立つと証明しようぜ!」


 「「「おおっ!!」」」



 ヴァンの鼓舞に高揚したガルムは、更に酒をあおる。


 だが明日は朝が早いため、メンバー全員から止められてしまった。

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