第15話

 その後ブレナスに連れられ、全員でボナル家の邸宅に向かう。客間に通されると、そこにはボナル商会の主人カルロ・ボナルの姿があった。


 ガルムたちは対面する形でソファーに座り、カルロと向かい合う。


 カルロは40代後半ぐらいで、整えられたブラウンの髪と口髭を蓄える。大きな商会の主人らしく、品と威厳を感じさせるとガルムは思った。


 少し緊張気味のガルムたちだったが――



 「今回は、本当にすまなかった」



 深々と頭を下げるカルロ。急な謝罪に、ガルムを始めヴァンたちも困惑する。



 「商会の者が賊を手引きして襲わせるなど、あってはならないことだ。君たちにも迷惑をかけた」


 「い、いえ。こちらこそ従業員の方々を守ることができませんでした。申し訳ありません」



 ヴァンが頭を下げると、カルロは首を横に振った。



 「話は聞いている。君たちは大怪我をしながらも、荷を守ってくれたそうだね。それで充分だ」


 「そ、それじゃあ今回の仕事は……」


 「もちろん、依頼は達成したとギルドには報告しておくよ」


 

 ガルムたち全員の顔がパァっと明るくなる。依頼が成功したか失敗したかは、天と地ほどの差がある。


 失敗すればギルドからの評価がつかないどころか、報酬も貰えない。


 ガルムたちが喜んでいるのを見て、カルロも顔を綻ばせた。



 「今回のことは本当に感謝している。どうやら荷を狙ったのは商売敵のようでね。奪われていたら、商会の経営が傾くところだった」


 「荷の中身は、何だったんですか?」



 ヴァンが率直に質問する。


 ずっと教えてもらえなかったため、ガルムも耳を傾けた。



 「ああ、高純度の『魔鉱石』だよ。売り出し価格で20億リラほどだ」


 「「「20億リラ!?」」」



 全員の声が揃う。4000万リラもあれば豪邸が建つと言われているのに、その50倍……。確かに『魔鉱石』はエネルギー源として、ありとあらゆる所で使われているので高値で取引されている。


 高純度の物となれば尚更だ。


 有るところには有るんだな、とガルムが感心していると、



 「今後、何かギルドに依頼する時は、君たちを指名するよ。その時はよろしく頼む」


 「は、はい!」



 ヴァンが嬉しそうに声を弾ませる。冒険者にとって直接指名は信頼の証だ。喜ばずにはいられない。


 カルロにお礼を言い、四人は屋敷を後にした。



 ◇◇◇

 

 

 「「「「かんぱーーーい!」」」」



 レイフォードの酒場『クリスタル』に、酒盛りをするガルムやヴァンたちの姿があった。



 「ガルム、遠慮なく飲んでくれ! 酒代はパーティーの資金から出すから、気にしなくていいぞ」


 「そ、そうか……じゃあ遠慮なく」



 元々酒好きのガルムは喜び、次々と杯を空けてゆく。



 「今回はガルムの功績が大きかった。成功報酬の分配も四分の一にしようと思う。受け取ってくれ」


 「え? いいのか?」


 「いいに決まってんじゃん! ガルムのおかげで助かったんだから!」



 ソフィアが怒ったように顔を近づけてくる。



 「わ、私も……それでいいです……いえ! むしろ、それがいいです」



 酒に弱いのか、アンバーは顔を赤くしていた。



 「本来は、もっと取り分を多くしてやりたいんだが、俺たちにも生活があるからな」


 「そーそー、クレイの分も稼がなきゃいけないからねー」



 リキュールを飲んでいたガルムは、初めて聞く名前に反応する。



 「クレイって誰だ?」


 「今休んでる前衛のパーティーメンバーだよ。みんなで話し合って、戻ってくるまで報酬はクレイの分も分けようって決めてたんだよねー」


 「そうなのか? お前ら意外といいとこあるんだな」


 「ちょっと! どういう意味!? 意外って何よ、意外って」



 ガルムの言葉にソフィアが憤慨する。



 「ハハハ、悪い悪い。じゃあ最初に俺の取り分を少なくするって言ったのは……」


 「ああ、本当は五等分にしてクレイにも渡そうとしてたんだ。黙っていて悪かった」



 ヴァンたちの仲間思いな所に、ガルムは少し感動していた。



 「だったら俺も貰いにくいな。苦しいが五等分して、そいつに渡してやってくれ」


 「いや、そんな訳にはいかない。それにガルムには頼みもある」


 「頼み? なんだよ」



 酒を飲む手を止め、三人を見ると、全員真剣な眼差しをしてガルムを見つめていた。意を決したようにヴァンが口を切る。



 「これからも俺たちと一緒に仕事をしないか? 正式にパーティーに入ってほしい」



 ガルムは急な誘いに、少々戸惑う。



 「でもクレイってメンバーがいるんだろ?」


 「もちろん、クレイが戻ってくるまででもかまわないし、戻ってきてもパーティーが五人いたらダメな訳でもない。どうだろう考えてくれないか?」



 ソフィアやアンバーも、頷きながらガルムを見つめる。ガルムも必要とされて悪い気はしない。


 ――確かに今の俺は最低ランクだしな……。パーティーに入っていた方が、ランクを上げる効率がいい。



 「分かった。世話になることにするよ。よろしくな」


 「そうか! 良かった。そうと決まれば祝杯だ。今日は朝まで飲み明かすぞ」



 ヴァンは顔を綻ばせ、ジョッキをかかげる。ソフィアやアンバー、ガルムも自分たちのグラスをかかげてカチンッと合わせた。

 

 新たな仲間ができたことを、全員で喜びあう。


 結局、その日は本当に朝まで飲み明かすこととなった。

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