第3話
あまりにも簡単に倒せたことに驚くガルム。
――以前の自分なら負けてただろうな。
改めて剣の切れ味や、装備による身体能力の強化を実感する。
「ほんとに、スゲーな……これなら――」
気を良くしたガルムは、森の奥へ奥へと踏み入っていく。
その森は生ぬるい風が吹き、濃い瘴気によって淀んだ空気は、人の体を蝕む毒となる。だが、アトラスの鎧によって状態異常が無効化されているおかげで、ガルムは問題なく動き回れた。
羽を広げ向かってくる蝙蝠の怪物を一瞬で斬り伏せ。
突っ込んでくる猪の魔物は、盾の力で弾き飛ばす。
暴れる樹の化物は、全ての枝を切り払い、最後は根元から切り倒した。
「よし、よし、負ける気がしねーな。この剣なら何でも斬れるぞ」
ガルムは自分の手のひらを見る。フラウガンの兜の能力【鑑定】を発動すると、目の前に自分のステータスが表示された。
ガルム・オーランド Lv16
生命 20
魔法 11
筋力 23(230)
防御 16
俊敏 18(180)
「おお! レベルが上がってる。必死に努力しても14以上にはならなかったのに……この調子なら、もっと上げられるんじゃないか?」
装備の効果を試そうと〝ヴィーザルの森″に来たガルムだったが、いつの間にかレベルを上げることが目的となっていた。
「それにしても夜の真暗な森なのに視界が良好だ」
――これが【知将フラウガンの兜】の能力の一つ〝暗視″の能力か。
便利な力だと思いながら森を進むと、遭遇したのはブラッディ・ベア。
極めて危険とされる魔物が群れをなしている。人間がいることに気づくと、熊はのっそのっそと近づいてきた。
ガルムは剣の能力を試すため、覇王龍の魔剣を天にかかげる。
剣に付与されている四つの加護。
――
赤、青、黄色、緑の四つの宝玉のうち、赤い宝玉が輝く。
灼熱の炎が剣から噴き出した。ブラッディ・ベアに向かって振り下ろすと、大地が
後に残ったのは、広範囲にえぐり取られた森の大地だけだった。
ブラッディ・ベアの姿はどこにもない。全て死に絶え、跡形も無く吹き飛んでいた。
「おおお~~こんなこと出来んのか……」
ガルムはまじまじと剣を見て、その威力に驚嘆する。
「俺は、魔法が使えないからな……。これがあれば魔法の代わりとしちゃぁ、充分だろう」
赤い宝玉は魔力を失ったせいか、色を無くし透明になっていた。だが、しばらくすると赤い色が戻り始める。
これによって、一度魔力を使い切っても時間が経てば、また加護の魔法を使うことが出来るのだと理解する。
「これは、めちゃくちゃ便利だ!」
剣を見ながらご機嫌で歩くガルム。その頭上で動く影があった。
木の枝からぶら下がり、ゆっくりとうねる青黒い体表。鋭い牙がギラギラと輝き、細長い舌を出している。
猛毒を持った大蛇〝デスバイパー″。数々の冒険者を屠ってきた危険な魔物だ。
無防備なガルムの後頭部に狙いを定め、襲い掛かった。
だが、大蛇の牙は空を切る。そこに鎧を着こんだ男はいない。辺りをキョロキョロと見回していると、なぜかゴトリっと地面に落ちる。
デスバイパーの胴体は、しっかりと木の幹に巻き付いたままだ。
その時、大蛇は気づく。自分の首が斬り落とされたのだと。
「悪いな。この兜の【サーチ】のスキルで、どこに敵がいるかすぐに分かるんだ。俺に不意打ちは効かねーよ」
そう言って去って行く男を、大蛇は薄れゆく視界の端で捉えていた。
「さー、どんどん来やがれ! いくらでも相手になってやる」
その後も、数限りなく現れる魔物を打ち倒していく。青い宝玉の加護を使えば、凍える冷気が辺りに広がり、相手を氷漬けにした。
緑の宝玉が輝けば、風の刃が幾重にも巻き起こり敵を切り裂く。
黄色の宝玉は雷の力を宿し、周囲一帯に稲妻を轟き落す。
雷に撃たれた数十体の魔物は一撃で絶命したが、耐性の強い一部の魔物は生き残った。それでも体は痙攣し、虫の息といった様子。
ガルムは即座に、残った魔物の首を斬り落としてゆく。
かなりの魔物を倒していたガルムだが、それほど体力が無くなっている感覚はない。
「これも装備の力なのか……」
ガルムは改めて自分を【鑑定】してみる。
「おお! レベルが20を超えてるぞ!!」
レベル20越えは一流の冒険者として認められる。ガルムのような凡人では、本来到達できない領域だ。
そして、ガルムも考えを変えてゆく。
元々は、拾った剣や鎧を高値で売り払おうと思っていた。だが、想像以上に凄まじい武具の効果を実感し、簡単にレベルを上げることが分かった今では話が別だ。
――これなら売らずに冒険者になって大金を稼げる。
「もう一度、冒険者か……」
ずっと冒険者に未練を残していたガルムの心は揺れる。自分が凡庸な人間であることは、自分が一番よく分かっている。
歳も今年で34。冒険者を一から始めるなど、無謀もいい所。
――それでも、この装備があれば……。
ガルムは意を決するが、一つ問題があることも分かっていた。
装備を着けてさえいれば無敵だが、この格好で仕事をすれば、当然どこで手に入れたか知られることになる。
もちろん所有者はガルムだ。ゴミだったとはいえ、拾った者に所有権が認められることは国や自治体でも決まっている。
ガルムがこそこそと隠す必要はない。
だが、これほどの品だ。何かの
場合によっては国や自治体、あるいは貴族に没収されることもありえる。
そうなれば、平民のガルムに拒めるはずもない。
「せっかく拾ったのに……絶対に手放さねーからな!」
冒険者に戻ったとしても、大ぴらに使うのはやめよう。ガルムはそう決意するが、そのためにはレベルを大幅に上げておく必要がある。
――レベル20台の半ばくらいになれば、一流の冒険者としてやっていけるはずだ。
そう考え、意気揚々と魔物を探す。この時、ガルムは気づいていなかった。周りの空気が変わり始めていることに。
それは勝ち続けたことによる心の隙であり、この装備があれば大丈夫という慢心が招いた油断。
そのことを、ガルムは後に後悔することになる。
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