第2話

 「おいおい、嘘だろ! 何だよコレ?」



 そこに表示された武器や防具についている名前は、子供のころ親から聞かされていた御伽噺おとぎばなしに出てくる英雄や怪物の名だ。


 実在するのかどうかも分からない伝説の名を冠する装備。


 

 「まあ、名前が付いてるだけでハッタリって可能性もあるし、そもそも鑑定が正しいか分からないけど……」



 ガルムは恐る恐る剣を手に取る。鞘から抜くと、鮮やかな両刃の剣が妖しく煌めきながら、その姿を現す。



 「ビックリするほど綺麗だな……」



 ガルムは何気なく剣先を机に当てると、紙のようにスッと切り裂く。



 「おおっ!?」



 驚いて手を離し、剣を床に落としてしまう。だが、床に刺ささるとスルスルと剣が食い込み、つばの部分まで止まらなかった。


 ――何なんだよ、一体。


 ガルムはハッとし、家の中にあるタンスから手鏡を取り出しす。自分が今かぶっている兜を映すと、やはり鑑定の文字が出た。



 【知将フラウガンの兜】

  ・防御力SSS

  ・自己修復

  ・重量軽減

  [能力アビリティ

   鑑定

   暗視

   サーチ



 知将フラウガン……かつて七大陸を統一した帝国の将軍。伝説の大英雄だ。


 ――これ全部、本物なのか!?


 戸惑うガルムだが、同時に興奮もしていた。本当に凄い装備なら、高額で売ることが出来るかもしれない。


 ガルムは全ての装備を着てみようと考えた。売るにしても、本当に性能が高いか確かめなきゃいけない。一つ一つを慎重に装着していく。



 「これ、ピッタリだな」



 その鎧などはガルムに合わせて作られたかのように、サイズが合っていた。


 手鏡しか持っていないため、全身像は見ることが出来ないが、中々似合ってるんじゃないかとガルムはご満悦になる。


 外は日が沈み、暗闇が辺りを覆っているので人目にはつかない。



 「行ってみるか……」



 夕食も食べず、ガルムは目立たないように外に出た。さすがに全身鎧をご近所さんに見られると恥ずかしいと思い、駆け足で家から離れる。


 ――体が軽い……。足が物凄い速度で回転して、軽やかに大地を蹴っている。まるで鳥になったみたいだ。


 ガルムは猛スピードで街を走り抜ける。


 今行こうとしている場所は、歩けば数時間はかかるが、この速度であればアッと言う間に着いてしまう。ガルムは更に走る速度を上げた。


 気づけば空気を蹴り上げ、空中を駆けている。上空十メートルの地点に至って、恐怖が込み上げ、ガルムは走るのをやめてしまう。


  

 「うわああああああああ!」



 そのまま落下するかと思った瞬間、ガルムの体はフワリと空中に浮き上がる。「えっ!?」素っ頓狂な声を上げたまま、空に浮かぶ自分に驚いていた。


 ――本当に飛んでる!? あの鑑定で見たマントの能力だ。


 ガルムは確信し始めていた。自分が付けている装備が途轍もない物であることに、空中でフワフワとバランスを取りながら、飛ぶコツを掴み始める。



 「うわ、スゲー! 俺、空を飛んでるぞ!!」



 ガルムは大空を気持ちよさそうに飛びながら、目的地の【魔境】へと向かった。

 


 ◇◇◇



 〝ヴィーザルの森″ガルムの住む街から北に三里ほど行った場所にある広大で深い森。数多くの魔物が跋扈ばっこし、人の侵入を堅く拒んでいる。


 冒険者であれば知らない者はおらず、中級者以上の強者なら魔物の素材を採取するため、あえて森に足を踏み入れる者もいた。


 しかし、そのまま森に飲まれ、帰らない人間も毎年かなりの数になる。


 故にこのヴィーザルの森を【魔境】と呼ぶ冒険者は少なくはなかった。そんな森に降り立ったガルムは、辺りを見渡しながら森の奥へと進んでいく。



 「この装備があれば大丈夫だと思うが……」



 本来、ガルムの実力では絶対に入らないであろう森に、やや不安になっていた。自分の手を見て〝鑑定″を発動する。


 ある程度自分の意思で鑑定をコントロールできるようになってきたガルムは、自分自身のステータスを確認してみた。


 ガルム・オーランド Lv14

 生命 18

 魔力 10

 筋力 21(210)

 防御 14   

 俊敏 15(150)


 ――レベル14……これが今の俺の強さ。必死で努力してもこれが限界だった。


 この鑑定で見えるステータスは、神からの啓示だと言われている。その人物の強さを数値化して示しているのだと、鑑定を行う教会は説明していた。


 本当に正確な強さを表しているのかは誰も知らないが、冒険者の間では重視されている。ギルドで受けられる仕事は、冒険者が登録しているギルドランクで決まるが、レベルが高くなければ受けられない依頼もあった。


 レベル1~10までが一般人、11~20が普通の冒険者、21~30が一流の冒険者、31~39は伝説級の冒険者や軍人など。


 確認されているレベル31以上は、数人しかいない。


 そしてレベル40以上は神話の世界にしかおらず、実在するかどうかも分からなかった。そしてその一人が――



 「英雄アトラス……」



 自分が身に付けている鎧の名前だ。もっとも本当にいたかどうかなど調べようがないが、ガルムは身に纏った装備の力を信じようとしていた。



 「取りあえず、このヴィーザルの森で剣や鎧の性能を試すか」



 そう思ったガルムだが、ステータスに気になるものがある。筋力と俊敏の横にカッコで表示された項目だ。


 今までそんな数字は見たことが無い。



 「何だろう……(210)と(150)って、ちょうど筋力と俊敏の十倍だ」

 


 ――ひょっとして……。


 ガルムは手甲に目を移す。この【鬼神ヴェデルネスの手甲】にある能力アビリティ、金剛夜叉を更に〝鑑定″してみる。


 [筋力を十倍に上げる]



 「やっぱり、これの影響か……だとしたらこっちは――」



 【韋駄天】[俊敏を十倍に上げる]



 「とんでもないぞ。ステータスの数値を十倍なんて、これが本当なら……」



 ガルムは驚愕する。ステータス数値の平均は、一般男性で10前後と言われていた。その15~20倍である。


 能力アビリティは他にも色々あったが、早く試してみたと剣を抜いた。


 ――細かいことは使いながら確認する。


 暗い夜の森をしばらく歩くと、草陰から二体の白い狼が姿を現す。ガルムの心に緊張が走る。


 ――ダイア・ウルフ……結構強い魔物だぞ。二匹か……。


 舌なめずりする獣は一斉に駆け出し、迫って来た。その時、ガルムは不思議な感覚に陥る。恐怖より先に「あれ、遅い!」と口にした。


 二匹の狼が、ゆっくりと飛び掛かってくる。これが【韋駄天】の効果かと驚きながら、持っていた剣を構える。


 スローモーションに見える獣の攻撃をかわし、振り向きざま剣を一閃。


 剣術を習った事のない、素人に毛が生えたような剣は、凄まじい速度で二匹のダイア・ウルフの首を同時に斬り落とした。


 ガルムが見下ろす先には、動くことの無いむくろが転がっている。



 「ハハ……本当に勝っちまった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る