ゴミ処理業者のおっさん、神話級の武具を拾う。
温泉カピバラ
第一章 拾ったもの
第1話
「晴れ渡る空!」
「清々しい新緑!」
「朝の澄み切った空気――!」
ガルムは目の前に広がる光景を見て「ハア―ッ」と溜息をつく。
「――そして、ゴミ、ゴミ、ゴミ! ゴミの山!!」
彼が居るのは街はずれにある
ガルムは街からゴミ処理を依頼されている、民間処理業者の一人だ。
「ガルム、早くやらねーと今日の作業が終わらねーぞ!」
「分かってるよ!」
同僚のニックから声を掛けられると、「仕方ないか」と言ってガルムはゴミの分別を始める。
彼の仕事は、ゴミを燃える物と燃えない物に分け、更に燃えない物の中から再利用できる物に分別し、それぞれを指定の場所まで運ぶことだった。
「ハアーッ、俺はいつまでこんな事しなきゃいけないのかな……?」
何度も愚痴をこぼしながら、ガルムは作業を進めていく。彼はこの仕事が好きではなかったし、できれば辞めたいと思っていた。
元々冒険者だったガルムは、派手に活躍し、金持ちになり、美人な妻をもらうことを夢に見ていたが、現実はそんなに甘くない。
たいした成果も残せないまま年を重ね、今年で三十四歳。
夢ばかり見る訳にもいかず、稼げない冒険者を辞め、安定して街から仕事がもらえるゴミ処理業者となった。
それほど高給な仕事ではないが、冒険者の頃よりは遥かにマシだ。
学がある訳でも、特別な才能がある訳でもないガルムにとっては採用してくれるだけでありがたかった。
何よりゴミが無くなることはないため、とても安定した仕事である。
だが一年近く続けたガルムは、どんどんやる気を無くしていた。心のどこかで冒険者への未練が残っていたせいかもしれない。
「おーい、そろそろ帰るぞー」
日が傾き始めた頃、この辺り一帯を取り仕切る班長から号令が掛かった。ガルムも手を止め、仕事を切り上げる。
分別するだけでも相当の時間がかかるため、とても一日では終わらない。作業を行っているガルム達も分かっているため、無理はしないで明日に備える。
ガルムが帰ろうとすると、指定されているゴミ置き場から少し離れた木の陰に何か置かれている事に気づく。
本来はゴミを置いてはいけない場所だが、適当にゴミが置かれるのは珍しくない。ガルムは指定された場所にゴミを運ぼうと木に近づいた。
「おい、ガルム。どうした? 早く帰ろうぜ」
「ああ、先に行ってくれ。適当な所にゴミが置かれてるから、片付けていくよ」
ガルムがそう言うと、ニックは「ほどほどにな」と返して帰って行った。
「さてと……」
落ちている〝ゴミ″に近づき確認すると、それは鉄クズのようだ。薄汚れていて、泥まみれになっている。
どうやら、いらなくなった剣や鎧を捨てたみたいだ。
「これは売れば金になるな……」
鉄製品は溶かせば再利用できる。特に今は世界中が魔族と戦争状態にあるため、鉄は高値で取引されている。
ガルムは自分で持って帰り、売ろうと考えた。
本来なら捨てられたゴミは街の所有物になる。
だが、ゴミ処理の仕事は成り手が少ないため、捨てられている物は持っていっても構わないという規約がある。
つまり価値のある物があれば、得をする仕事だとアピールしている訳だ。
明日の朝返せばいいだろうと考え、鎧などを荷車に乗せようとした。その時違和感に気づく、鎧や剣などが異常に軽いのだ。
「何だ? 鉄だと思ってたけど違うのか?」
ガルムは鎧をコンコンと叩く。硬さや音から金属であることは間違いない。
不思議に思いながらも、ガルムはその場に捨ててあった物を全て荷車に積み込み、家まで引いて行った。
帰宅すると荷車から汚い鉄クズなどを下ろし、家に運び入れる。
仕事場から、そう遠くない場所にある簡素な一軒家。借家だが、ガルム一人が暮らすには充分な家だ。
洗い場に鉄クズを運び、水で洗うことにした。
売るにしても汚すぎる。泥だらけの兜を金たわしを使ってゴシゴシと磨くと、少しづつ下地が見えて来た。
「あれ?」
それは鮮やかな青い金属だ。更に磨くと、赤や緑の宝石が付いていることにも気づいた。最初は錆びついた金属だと思っていたが、全然違う。
まるで元々綺麗な物を、無理矢理汚したような……。
「これ、ひょっとして掘り出し物なんじゃ?」
ガルムは他の汚れた剣や防具なども、一心不乱に磨き始める。汚れが落ち、目の前に並べた物を見て息を飲む。
「何だコレ……こんな物、街の武器屋でも見たことが無いぞ」
そこには煌めく鎧、高級な生地で作られたマント、王族が使いそうな剣や兜が輝きを放っている。とても捨てられるような品々ではない。
――どうして捨てられてたんだ?
ガルムは兜を手に取り、色々見回した後、
一瞬、キュッと頭に合わせて縮んだような気がしたが、そんなはずは無いと思い直す。顔が完全に隠れるフルフェイスの兜。目の部分が透明なガラスになっていた。
周りを見渡すと、何かの文字がガラスに映る。
「何だ? この文字?」
机を見ると、その材料や用途などが説明文のように机の近くに表示され、椅子を見れば同じような表示があった。
その時、ガルムはある事に気づく。
「これ……まさか、〝鑑定″なんじゃ!?」
鑑定という、人や物の情報を見るスキルは、教会の司祭しか使うことが出来ない特殊な能力だ。一般人が使えるはずがない。
その鑑定が、兜を通して再現できていることにガルムは衝撃を受けた。
「この兜の能力なのか? だとしたら、とんでもない物だそ……」
ガルムはそのまま視線を下に置いてある「剣」や「鎧」に向ける。鑑定によって映し出されたその表示に驚愕した。
【覇王龍エルドラドの魔剣】
・攻撃力SSS
・自己修復
・重量軽減
[
炎龍王の加護
海龍王の加護
天龍王の加護
雷龍王の加護
【英雄アトラスの鎧】
・防御力SSS
・自己修復
・重量軽減
[
状態異常無効
体力消費軽減
【巨神ギガンテスの盾】
・防御力SSS
・自己修復
・重量軽減
[
魔法防御結界
物理攻撃倍化反転
【鬼神ヴェデルネスの手甲】
・防御力SSS
・自己修復
・重量軽減
[
金剛夜叉
自動回復魔法
【天空神ヘルメスの足鎧】
・防御力SSS
・自己修復
・重量軽減
[
韋駄天
空中歩法
水面歩法
【太陽王ライモンドのマント】
・防御力SSS
・自己修復
・重量軽減
[
耐熱耐寒
飛行能力
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