ズル休み時々ブラック!!〜ズル休みって本当に贅沢な時間ですよね♪〜

GK506

ズル休み時々ブラック

 僕は今日、会社をズル休みしている。


 だって今日は、僕の大好きなラブコメ漫画の最新刊の発売日なんだ。


 会社なんて行ってる場合じゃないだろう?


 僕は会社ではとても安い給料で使い潰されている。


 総支給額が23万円程で、手取りが19万程度。


 そんな薄給なのに始発で出社し終電で帰社(もちろんサービス残業)する、絵に描いた様な社畜としての日々を送っている。


 この会社は、所謂いわゆるブラック企業というやつなのであろうか?


 僕は、この会社にしか務めた事がないから分からないけれども、他の会社に勤める友人達も同じ様な状態らしいので、もしかしたらこの国にはホワイト企業なんて存在しないのかもしれない。


 とにかく、僕は、いつも身を粉にして働いているのだから、今日くらいは伸び伸び大好きな漫画を読みながら休日を謳歌おうかする所存なのであります。


 あぁ~、なんかズル休みした日って小学生の頃にかえったみたいにワクワクするんだよなぁ。


 まずはカルディで買ってきたハンドドリップ用のコーヒーをれる事から僕のズル休みは始まる。


 お湯の温度は95度。沸騰したお湯を注いでしまうと、せっかくのコーヒー豆本来の芳醇ほうじゅんな香りが死んでしまうからね。


 ハンドドリップ用のポットから細い糸状のお湯を垂らしてコーヒー豆に注ぐ。


 まさに至福。これぞズル休みである。


 豆が膨らみ、プクップクッとまるで呼吸をしている様だ、この瞬間、僕は最高に生を実感する。


 『あぁ~、生きている!!』


 ヤバい、ちょっと大きめの声を出してしまった。


 ドンッ!!


 隣の住人が壁をドンッと叩いてくる。


 僕は低所得者がパンパンに詰め込まれた木造アパートに住んでいるから、少し大きめの声を出すとたちどころに隣の部屋に響き渡ってしまうのだ。


 まぁ良いか。そんな事より、今日も上手にれる事の出来たコーヒーをゆっくり味わう事としよう。


 コロンビア南西部ナリーニョ地区の香りが僕の鼻腔びこうに広がる。


 次に舌先に感じられるのは、ライムやアップルを思わせる爽やかな甘み。


 『エクセレントッ!!』


 ドンッ!!


 隣の住人は、こんな平日の真昼間に家にこもって何をしているのだろうか?


 あれだな、きっと社会不適合者ってやつだな。


 うん。きっとそうに違いない。


 その時、スマホに着信が入った。


 嫌な予感しかしないのだけれど、僕は渋々スマホを手に取った。


 画面を見ると、そこには課長ばかの名前が映し出されている。


 『ハァ~』

 僕の口からは自然と溜息が漏れる。


 もちろん課長ばかの電話など無視だ。


 だって僕は、今コーヒーを味わうのに忙しいんだもん。


 コーヒーを飲む時は全身全霊をコーヒーに傾ける。


 コーヒーを育んだ大地に思いを馳せ、コーヒー農家の方々への感謝の気持ちを抱きながら、心行くまでコーヒーを楽しむ。


 そこに、課長ばかの入り込む余地などは1mmもない。


 着信を無視した僕に、すかさず課長ばかからLINEのメッセージが入る。


 【体調を崩している所すまんが、事務所のネットワークが落ちた、どうすれば良いんだ?】


 自分でググレカス。もしくは経営企画に電話で問い合わせろ。なんでもかんでも僕に聞くなよ課長ばか


 『本当にカスだなっ!!』


 ドンッ!!


 うん。大丈夫。ちゃんと君もカスだよ。


 僕はコーヒーを飲み終えてシャワーを浴びると、歯を磨いて書店へ向かう準備を始めた。


 まだまだ休日は始まったばかりである。


 あぁ、今日は、なんて贅沢な一日なのであろうか。


 『ズル休み最高っ!!』


 ドンッ!!


 僕はお気に入りのスニーカーに足を通した。



        おわり


 

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