第2章 2人の王女
第27話 平凡な俺
――目が覚めて最初に見えたのは、俺に覆い被さって静かに寝息を立てるナナちゃんの寝顔だった。
「……朝か」
いつの間に寝入ったのか。
確か裸のナナちゃんにキスをされてそれで……。
「あ……」
自分の左手が柔らかいものを掴んでいることに気付く。
「っと……」
そこからゆっくりと手を離す。
寝ているあいだずっと掴んでいたんだろうか。ナナちゃんのおしりを……。
「ん……なんで離すんじゃ?」
「えっ? あ……お、起きてたの?」
「たった今の」
寝惚け眼が俺をじっと見つめる。
「にーにはおしりを揉むのが好きなんじゃろ。もっと揉んだらよい」
「そ、そういうわけじゃないよ」
感触は気持ちよかったけど……。
「遠慮などせんでよい。にーにが喜んでくれればナナは嬉しいのじゃ」
「いや、遠慮とかじゃなくて、ね」
「にーに……」
「あ……んっ」
顔を近づけてきたナナちゃんの舌先が俺の唇を舐め、そのままかぶりつくように吸いついてくる。
「ん、んんっ……ナ、ナナちゃんっ」
俺は身体を起こすと同時にナナちゃんの身体を離す。
きょとんとした顔が、俺を見上げていた。
「なんじゃ?」
「こういうのは……ダメだって。君はまだ子供なんだし、それに俺たちは義理でも兄妹なんだからさ」
「構わん」
「いや、構わんとかじゃなくて……」
「なんじゃろうな、他の誰にもしたいとは思わんけど、にーにには口づけをしたくてたまらんのじゃ。なんじゃろ? 大人の愛とは不思議じゃ」
「君はまだ子供だろう……」
ませているにもほどがある。
「もう起きるからナナちゃんは服着て」
「うむ。続きはまた夜じゃな」
んしょとナナちゃんは俺の身体を離れてベッドを降り、タンスの上に畳んである黒いドレスを手に取って裸に頭からすっぽりと被った。
続きは夜って、寝るときにまた口づけをしてくる気だろうか。
しかし今度はちゃんと拒否しよう。こういうことはダメだとしっかり教えてあげなきゃ。兄として。大人として。
「ナナちゃん、こういうエッチなことは小さい子がしちゃいけないんだよ」
ベッドのふちに座った俺はナナちゃんにそう声をかける。ちょっと厳しめの声で。
「エッチとはなんじゃ?」
「えっ?」
無表情に問いかけてきたナナちゃんが俺の前に背を向けて立つ。
その問いに戸惑いつつ、目下で解けているドレスの紐を結ぶ。
「のうにーに、エッチとはなんじゃ?」
「え、えっと……口づけとか、おしりを揉んだりとか……」
「そうなのかの? なんでそれを子供がしてはいけないのじゃ?」
「それはその……エッチなことは愛し合う男女がね……」
「愛とは好きってことじゃろ? ナナはにーにのことが好きじゃ。それにおしりを揉んだのはにーにじゃ。にーにもナナのことが好きなんじゃ。なにも問題はないの」
「あうう……」
言い負かされてしまった。
……
「……いや、まいったまいった」
井戸で顔を洗ってくるとナナちゃんに言って家の外へ出た俺は、8歳の子を言い聞かせることもできない自分の情けなさを少し嘆いていた。
あの子は8つも年下だが、俺よりずっとかしこい。
感情の起伏に乏しいので、口下手のようだが実は舌がよく回って俺程度の頭ではあっさりと言い負かされてしまう。まったく情けないことだ。
「けれどあのおしりは柔らかかったな」
感触を思い出し、左手が熱くなる。
「いかん。癖になりそう」
「誰の尻が柔らかいって?」
「うあっ!?」
背後から声をかけられ驚いて振り返ると、そこにいたのは幼馴染のティアだった。
ティアは肩に剣を担ぎ、厳しい目で俺を見ている。
「な、なんだお前か。驚かすなよ」
「ごめん。で、誰の尻が柔らかいって?」
「だ、誰って……いやその……」
「まさかあのガキ女の尻じゃ……」
「そんな……寝ながらナナちゃんのおしりを揉んだりなんか……あ」
寝起きで頭がボケていたのか。それともナナちゃんのおしりのことしか頭になかったのか、俺の口は言わなくていいことを吐き出していた。
「ね、寝ながら……あのガキと一緒に寝てんのっ!」
「えっ? あ、まあ……俺の部屋はナナちゃんの部屋でもあるから……」
「この浮気者ーっ!」
「う、浮気? はがんっ!?」
思いっきり平手打ちをされた俺の身体は横にぐるりと1回転して、地面に倒れた。
「うう……マオ兄さんの浮気者。本当ならこのまま連れ去って無理やり私と一緒にベッドで寝かせるところだけど、今は薪になる木を採ってこいってママにおつかいを頼まれてるから続きはあとだかんねっ!」
そう言い残してティアは走り去って行く。
「いたた……なんなんだ一体」
叩かれた頬を押さえて立ち上がった俺は、とぼとぼと歩いて井戸へ向かう。
朝から散々だ。
しかし相手がティアとはいえ、女の子に殴られて倒れるなんて情けないな。
「はあ……俺ってまったく……」
頭は弱いし力も弱い。秀でたところなんてひとつもないダメな男だ。よくもこれで勇者パーティのひとりとして旅をできていたものだと思う。
「けど……」
そんな俺でも実は強い力を持っているらしい。
魔人の能力『ガーディアン』
誰かを守りたいという思いを高めるほど身体能力が無限に上がるというその力を使って、俺は魔人のひとりである魔王の息子、ドラゴドーラを倒した。記憶にはまったく無いのだが。
ナナちゃんが言うにはこれは俺の母親で、魔王の長女であるキーラキルの能力であって、俺自身の能力ではないらしい。
ならば俺の能力とはなんなのか?
それは今だはっきりしない。母親の能力を使うことから、相手の能力を奪うようなものではないかとナナちゃんは言っていたが、そうなのかは不明である。
「でもやっぱりそんなの信じられないなぁ」
だって普段の俺はこんなに平凡だ。
力も頭も弱い。顔も背丈も普通だし、まだ16なのにちょっと額が広くて将来はハゲそうで女の子にはモテない。ついでに少し天パで足が短くて胸毛が生えてて……いや、外見は別にいいか。うん。
そんな身体的特徴を自分で卑下してちょっと落ち込んだ。
やがて庭の井戸に来ると、そこには先客がいた。
パンツ1枚でそこに立ち、桶に入ったいっぱいの水を頭から被る男。朗らかでおとなしい顔からは想像できないほど逞しい肉体をしたその男は、俺の親父のヘイカーであった。
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