第23話 そして夜……

 女神ロクナーゼに従って魔王を倒せば今いる人間は新たな人間によって滅ぼされる。しかしこのまま放っておけば魔王に人間は滅ぼされる。


 どうしようもなかった。


「このままじゃ……いずれにせよみんな殺されちゃうな」


 俺は諦めるように弱い声を吐く。


「にーには半魔人じゃ。能力も持っておる。弱者として殺されることはないじゃろ」

「いや、そうだとしても、他のみんなは殺されちゃうよ。それは嫌だ」


 普通の人間より強いティアや半魔人のナナちゃんは大丈夫かもしれない。しかし親父やファニーさん、その他の人間たちは殺されしまう。それを防げるものなら防ぎたいが……。


「あのさー」


 ティアに頭を踏まれながらロクナーゼが声を上げる。


「魔王を倒してくれないならもういいよ。面倒だけど裏技を使うから」

「裏技?」

「そー。だからこの前あげた勇者の剣を返してー」


 勇者の剣、とはティアだけ持てるやたら重い剣だろう。今も持ち主の肩に担ぎ上げられている。


「嫌だ。これ刃こぼれしないし錆びなくて軽いし便利だから返さない」

「そんなー。返してよー」

「嫌だ。そもそもこれは私がもらってマオ兄さんにあげて、それからまた私がもらったものだ。お前に返せと言われて返す理由は無い」

「なんじゃそりゃー!」


 確かにむちゃくちゃで、なんじゃそりゃーではある。

 しかしこの神のほうがよっぽどひどいのでなんとも言えない。


「剣返せー! それは私の一部と大量の血を使って作ったから、痛くて二度と作りたくない貴重な剣なんだぞー。返せー」

「それを聞くと気持ち悪いけど、どうせ嘘だろ」

「ほんとだしー!」

「本当なの?」


 俺はナナちゃんに聞く。


「本当じゃ。父上が魔人を血から作るように、ロクナーゼも血から武器などの無機物を作れると聞いた。あの剣もそうなのじゃろう」


 便利だ。

 いや、痛いって言ってるしそうでもないのかも。


「返せー!」

「うるさい」


 ティアが踏み抜くと、ロクナーゼの身体は土へと戻って崩れる。


「む……また別のものへ乗り移ったようじゃの」

「そうみたいだね。……ん?」


 周囲を飛び回るハエを目で追う。


「くっそー! 剣は絶対に返してもらうかんねー! すぐに返さなかったことを後悔させてやるー! あっかんべー、だ!」


 と言い残してハエは飛び去って行く。


 あんなのが神という事実を記憶から消し去りたかった。

 ……いろいろと考えたいことはあるが、ともかく今は畑の片付けを優先した。


 もしかして竜の肉は食べられるのでは?


 そう思ってナナちゃんに聞いたが、食べたことは無いので知らないと言う。

 腹を壊しても困るので、結局は肉塊を荷台に乗せて村の外へ捨てに行った。放っておけば動物か魔物が食べるだろう。


「はあ疲れた……」


 もう夕方だ。もうすぐ日が落ちて辺りは暗くなるだろう。

 なんとか明るいうちに片付けることができてよかった。


 ファニーさんの用意してくれた夕食を食べた俺は、食後のお茶を飲むとすぐに自室へ行ってベッドへ倒れた。食後すぐに寝るのは身体に悪いと聞くが、もう疲れて眠くてしかたがない。


 今日はもうこのまま寝てしまおう。


 そう思い、目を瞑った。


「にーに」


 ナナちゃんの声が聞こえる。


 そうか。ここはナナちゃんの部屋でもあるのだ。


「もう寝るのかの?」

「うん。眠くてね。ああ、俺のことは気にしないで好きにしてていいよ。すごく眠いからちょっとくらい騒がしくても大丈夫だよ」

「いや、わしも疲れて眠いのじゃ。じゃからもう寝る」

「そう」


 食後にすぐ寝ると身体に悪いよ。とは、それを無視して今から寝る俺が言えることではない。


 1日くらいいいだろう。


 明日からは俺も気を付けて、ナナちゃんにも注意しようと思った。


 俺はもぞりと動いてベッドの隣を空ける。

 するとすぐにナナちゃんの重みがベッドを軋ませた。


「にーに」

「うん……」


 隣を空けたにもかかわらず、ナナちゃんは俺に覆い被さってくる。

 その温もりが心地よく、俺の眠気はさらに増す。


「ナナちゃん……」


 左手がなにかを掴む。


 丸くて、暖かくて、やわらかい……なんだろう? これ?


 しっとり手に張りつく感触が気持ち良く、手の平でむにむにとそれを揉んでいると、不意にナナちゃんが熱い吐息を吐く。


「にーに、なんでナナのおしりをそんなにもみもみと揉むんじゃ?」

「……え? おしり?」


 布地の感触ではないが……。


 瞼を開くと、俺を見上げるナナちゃんの顔。その下に視線を持って行く……。


「……って!? ナナちゃん! なんで裸なの!?」


 全裸のナナちゃんが俺に覆い被さっていた。

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