おうち時間の宿題
入川 夏聞
本文
この宇宙には、とってもこわいところがあるみたいなのです。
そんなところが本当にあるのかと、僕ははじめギモンに思いました。だから、調べました。
すると、とてもこわいことが分かりました。
そして、それは最近、キチンと見つかった、と言うのです。
見つかったって、どこにあるのかな?
それって、実は近くにあるのかな、あったらとってもこわいな、と思うのです。もし、案外近くにあるのだとしたら、と考えると夜も眠れません。
そこには一度入ったら、もう出られないと言うのです。
とても強い重力の働く所で、宇宙船でもなんでも、光でさえも、あるところまで近づいてしまったら、絶対に出られないと言うのです。
こうしたお話をどんどん聞いていくと、僕はどんどんこわくなってしまいました。
例えば、もし偉い人たちなんかに、「そこに入れ!」なんて無理やりに命令されてしまったり、「そこで働いてろ!」なんて言われてしまったら、とても怖いことが起こるんじゃないでしょうか。
ましてや、「そこから外に出るな!」なんて言われてしまったら、もう普通のところへは帰れないかも知れないのです。
だって、一度入ってしまって、もちろんそこから出られるくらいの期間だったり短い距離だったりなら良いと思うけれど、下手をしたら、一生出られなくなってしまうんじゃないんでしょうか?
あ、いま思いました。もっとこわい。
そこで「しばらく暮らせ」なんて言われたら、どうすれば良いのでしょう。
しかも案外、住み心地が良かったり。
そこで「しばらく働け」なんて言われたら、どうすれば良いのでしょう。
さらに結構、働きやすかったり。
そこでは時間の流れも遅くなる、ということもあるらしいのです。
外の世界と時間の流れが違うなら、中にいた方が若くいられる、と言うことでしょうか?
僕にはまだこの辺がよくわかりません。
でも、もしも、そこからもう戻りたくない、なんて思えてしまったら、本当に僕らはどうなってしまうんでしょう?
いけない、いけない。そんなこわいことになったら、きっと元の世界には帰れないのだから、考えてはいけません。
はやく、偉い人から外に出ても良いよって、許してもらわなきゃいけませんね。
そのためにも、その中で一生懸命に働きます。あまり中心に行きすぎないようにして、間違って外に出ないようにも気をつけて、その中でサボらずにちゃんと働かなきゃいけません。
あ、でも、こうも思いました。
その中で働いてたら、偉い人は僕が本当に働いているかどうかなんて、よくわからないんじゃないのかな?
だって、偉い人もその中に入ったら、うまく出られない可能性があります。偉い人までそうなってしまったら、きっと外の世界の人がとても困ってしまいます。
それじゃ具合が悪いでしょうから、きっと偉い人は中には入らない。
すると、僕がどう働いてるかなんて、きっと外からじゃわからないのです。
適当に働いてるふりをして、ゲームなんかしちゃったりして、それで時々電話かなんかで「ちゃんとやってまーす」なんて報告しておけば大丈夫なんじゃないのかな?
あれ、それじゃあ意外とこわいところじゃないのかも知れません。
むしろ、快適なところなのかも――
◆
「あら。ケンちゃん、偉いわね。宿題?」
「うん、おうち時間で作文書けって」
「お母さんにも見せて」
「はい」
「……ふーん。面白いわね、これってもしかして、ブラックホールのこと?」
「うん」
「なるほど。『おうち時間の宿題』だから、このお家のことになぞらえて書いてるのね。すごい、すごい!」
「は? お母さん、なに言ってるの?」
「え?」
「僕はブラックホールのことしか書いてないけど」
「ええ、うそ」
「ホント」
「……」
「ねえ、お母さん。なんで、そう思っちゃったの?」
「……」
――――ねえ、なんで?
おうち時間の宿題 入川 夏聞 @jkl94992000
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