カタチなき幸せ
「ねぇ、本当にどうしてこうなったの?」
そういう寿は同じ部屋の同じソファーで隣に座っている。
「そんなこと言われても、神様が言うには『生きていたらの延長線上に居させることしかできない。』らしいから、妥当といえば妥当なんじゃないかな?俺はうれしいし。」
「私もうれしいけど、年頃の男女を同じ大学に行くからって同棲させる親に少し不安を感じるのだけど。」
「昔から仲のいいままだったもんな。」
「親の前だったから問題行動も起こせなかったもんね。」
「・・・つまり寿にはそういう気があるってこと?」
「女子に言わせることじゃないと思いまーす。罰として今から格ゲーでぼこぼこにしまーす。」
という会話を格ゲーの最中にしているのだが、だんだんと冥界の記憶が薄れているように感じる。まぁ、本来なら行けるはずのない場所なのだから、出た瞬間に全て消されても仕方ないのだけれど。
それにしても寿、いつの間に格ゲーなんて練習してたんだ。全く歯が立たないぞ。そのままストレート負けしてしまった。
「へっへん、どうだ私の実力わぁ!」
「いつそんな練習したんだよ、俺だって多少はやってたのに、ハメコンめっちゃうまいじゃん。」
「調整が間に合ってない間はずっとやってたからね。」
調整というのは、実体が出来てから、歴史というよりも経緯と居たという事実の辻褄合わせの時間みたいなものだ。一か月くらいかかっていたが、神様が一か月頑張ってくれたと考えると、とんでもない重労働だと感じる。本当に感謝しかない。
「そりゃうまくなるわ。他になんかしてみたこととかるの?」
「小説は読んでみたけど、途中で飽きちゃったんだよね。でも、漫画ならいくらでも読めそう。あとそう、写真撮って投稿するあれ!めっちゃおいしそうじゃない⁉食べてみたいものたくさんあるんだけど!」
「それじゃぁいろんなところ行かないとな。まぁ、そのためにはバイトする必要があるし、それ以外にもいろいろ準備しないとな。」
こうして寿の世話を焼けるのも、なんだかうれしく感じる。
「・・・なんでそんなに色々してくれるの?」
不意に、予想してなかった質問が来た。
「なんでって、言われてもな・・・。」
「ううん、ごめんね、嫌だってわけじゃないんだよ。でもその、私はそんなに色々してもらってもいいのかなって・・・。」
一方的な提供による罪悪感?それとも無力感だろうか?
「いいもなにも、俺が好きでやってることだから。それに、今は俺が助けてるけど、そのうち俺が助けられるようになるから、その時はたくさん助けてくれ。今じゃなくていいし、何十年後でもいい、何なら死後でもいいんじゃないか?」
なんて少し茶化していってみるのだが、寿は少し黙った後に、顔を赤らめながら、
「それじゃぁ、一生恩返しをしないとね。」
という。言葉の真意こそわからなかったものの、その高揚した顔にその笑顔はとてつもない爆発力を秘めていたわけで、ほぼゼロ距離からそれを食らった俺は軽くフリーズしてしまった。
あとストレート負けした。
「この書類と、あと、これもお願い、私ひとりじゃ対処しきれなくって。」
「珍しいな、いつもだったら全部終わらせてそうなのに。」
「君がいない間の書類がたまりにたまっちゃってね。その分を手伝ってもらおうと思って。」
そういう私の顔はきっと笑顔なのだろう。彼と再びこうした事務作業ができることがとてもうれしく感じる。
私は生徒会長なのだが、幼馴染の男の子は副会長であり、今は書類整理の途中である。だけど、さすがに狭い部屋に二人きりの状況は、学校でもドキドキするものである。むしろ学校だからだろうか?
「どうした?」
急に声を掛けられた、それも優しい声だ。
「ひゃい。」
少し驚いて変な声が出たものの、ほかに人もいないから良しとしよう。
「な、なにかな?」
「なんか様子がおかしい気がして。」
そう言いながら顔を近づけてくるので、後ずさるのだが、部屋自体が狭いためあまり意味がない。
「そ、そんなことないよ?」
何とかそう言ってごまかすも、自分でも顔が赤いのがわかりきっている。
「へぇ、この狭い部屋に二人きりなのに何も感じてないと?」
「そ、そんなことないと思うけどなぁ・・・。」
そんなわけないのだが、自分がいちゃつきたいな。なんて思っていたことを見透かされているような気がして恥ずかしくなる。
「まぁいいけど、頬くらいならいいよね?」
まるで誰かに確認するかのように言い、私の頬にキスをしてきた。しばらくまともに顔を見れなかった。
「ねぇさとる。あの二人付き合うことになったんだって。」
「あぁ二人な。俺の方にも来たよ。『しってるだろうけど』だってさ、むしろまだ付き合ってなかったのか。」
「実は私も思ってたの。ところでプロポーズはまだなのかな?」
「さすがにまだでーす。あと数年は待ってくださーい。」
お互いにからかい気味で言ったものの、両者とも若干耳が赤くなってるのがわかる。
「自分から仕掛けたのに照れないでよ、俺まで恥ずかしくなるじゃん。」
「へへへ、意外と恥ずかしかったね。でもその、いいね。」
言葉にできない幸せを体現してくれるのはとてもありがたいのだが、心臓に悪い。
「そうだ寿、今度はどこに行く?」
「とおると一緒ならどこでもいいけど、今度は夜景を見に行こうよ。夜はちょっと怖いけど、二人なら楽しいでしょ?」
「夜景か・・・。いいな、俺も全然見ないから言ってみたいよ。」
という事で次に行く場所は決まったのだが、
「寿、大学の友達とかはどうなんだ?一緒に遊びに行ったりとかしてないみたいだけど・・・。」
聞くと、どこか重そうな返事をした。
「あ~・・・。一回、とおるとラブラブな所見せてから、結構な頻度で断っちゃって、あんまり誘われなくなっちゃったんだよね。連絡はしてくれるから全然いいんだけど・・・。」
「それは、まぁ、俺も人のこと言えないな・・・。」
二人とも授業後は遊ぶことなく帰っているのだ、もちろん、恋人に会うために。
「・・・今度、ダブルデートでもしてみるか?」
「‼いいじゃんそれ!絶対行こうよ!」
喜んでる寿が可愛いなーなんて思いながら、少しだけ情緒不安定になる。これまでも少しそうだったのだが、しようとしていることを実行していいものかと悩んでいるのだ。
「あのさ、とおる。」
「な、なんでしょうか?」
「さすがに気づくよ?何隠してるの?」
さすが彼女、彼氏の違和感を問題なく察知しているらしい。それじゃ、観念して実行するしかない。
「わかった、観念するから目を瞑ってくれ。」
「?うん、わかった。」
素直にそうするものだから、少し揶揄ってみたいとは思うものの、こればかりはそうもいかない。
後ろ手に隠していたネックレスを寿の細い首にかける。いっそこのままキスでもしてやろうか。なんて思ったが、想像しただけで恥ずかしいので無理だ。
「終わったよ。プロポーズはできないし、婚約指輪なんて渡せないけど、その、何て言うか、一緒に居たいって証?みたいなもの。」
つくりはかなりシンプルなものを選んだつもりだ、あまりギラギラしたものをつけても質量的にも重いと思ってのことだ。
寿は驚いた表情だったけれど、すぐにロケットのごとく胸元に突っ込んできた。
「えへへ、えへへへへへ~。」
「顔、緩み切ってるけど?」
「だってぇ、だってぇ!」
抱き着いたまま顔を埋めて、足をバタバタとしている。そんなに喜ばれると俺もかなりうれしい。
「ね、とおる、こっち向いて。」
そういうので素直に顔を向ける。と、目の前には寿の顔があって、その顔を見た瞬間には互いの唇が触れあっていた。
ちょっとさすがに心臓が鳴りやまない。
寿は変わらずえへえへと緩み切った表情で笑っている。俺はというと、彼女の幸せな甘いにおいと質量、感触を感じつつも、当分鳴りやまなそうな心臓を鎮めるために、できる限り無心で天井を見上げていた。
「君は優しくて頼りがいがある、だから多少無理をして私を助けようとするし、きっと私のためなら何でもしてくれる。だけど私は君を助けるほど力が無いから・・・。ううん、身を挺しても君を守れないと思うから、私は君のものでありたいんだよ。」
「その、それはうれしいけど、大好きな寿だから大切にしたいのであって、その、なんだ、今はゆっくりでいいから、そういうことはまた責任を取れるようになってからにしよう。」
「責任?」
あ、これ俺が勘違いしてためちゃくちゃ恥ずかしいやつじゃん。理解したころには耳まで再び真っ赤である。
「あらあら?えっちなとおる君は何を想像、いや妄想してたのかしら?あらあらあら?」
ここぞとばかりにからかってくるが、キスをしてきたのは寿の方だ、俺はネックレスを首にかけただけで、やましいことは何もしてない、はずだ。
「別に嫌だとは言わないけど、今もこうしてるわけだし、私はこれだけでも十分すぎるほど幸せかなぁ。」
そう言いながら腕を俺の背中で合わせる。その動きに合わせながら。
「それは俺も同意見だ、こうしてるだけでも十分幸せだよ。」
「今十分幸せなら、しばらくはこのままでもいいかなぁ?」
俺にかぶさるように抱き着いている寿が甘く溶けたシロップのような声で問いかけてくる。
「今進む必要もないから、いつかでいいよね。」
「でも、死ぬ前にそのいつかが来なかったらどうする?」
「いろいろやりたいことも残ってるし、それまで死ぬつもりもなければ、死なせる気もないよ。」
「別にもうちょっとカッコつけてもよかったと思うんだけど。」
むぅ。といった様子で言ってくる。
「思い付きはしたけどさすがに恥ずかしいって、それに、伝わるから問題ないだろ?」
「いーけないだ。そういうのはダメなんだぞ。ちゃんと伝えなきゃ長続きしないってネットで言ってた。」
まったく、言い返す言葉がないじゃないか。
「わかったよ。ずっと一緒に居てほしいから、ずっと守るよ。」
言ってみたもののとても恥ずかしい、それに寿からの返事もない。言わせたんだからなんか返してくれよ。
「寿?言わせたのに無視はひどいぞ?」
「う、うん、ごめんね。その、さすがにプロポーズまでしてくるとは思わなくて・・・。」
そういう寿の顔は真っ赤だし、言われて気付いた俺も真っ赤になってしまった。二倍ぐらい恥ずかしいセリフはいたってことじゃん・・・。
「でも、ありがとう。私も一緒に居たいから、できることは少ないけど、そばに居させてね。」
星渡しシリーズ 埴輪モナカ @macaron0925
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