星渡しの鏡たち
どこか不思議な場所に来た。簡単に言えば、ファンタジーな森の中で、ファンタジーな村の中のような場所だ。
いくつか家があるうちの中に魔法使いの家のようなものが見える。なんとなく目についたので、入ってみることにしよう。
扉を叩くと年寄りのおじいさんが出てきた。
「これはこれは見ない顔だ。旅人さんかな?」
「あ、はい、そんな感じです。この辺りについて聞いてもいいですか?」
あまり状況がわからないから、とんでもないぼろを出す可能性もある。ただそれ以上に、最悪の場合ここで野垂れ死ぬのだ。
「うん、この辺りは迷いの森に守られていて普通は入ってこれないんじゃ。だから君のような人は珍しいが、龍によって入ってくるものも稀にいる。」
「守られている。とは、何を守っているのですか?」
「おや、おぬし知らずに来たのか。ここは冥界をつなぐ鏡の洞窟を守っているのじゃよ。死者に会うために無理して通る人が多くてな、疫病が流行ったときなんかは、疫病で死ぬ人より冥界に行く人の方が多かった。なんていわれるほどにな。」
愚かだと主思ったが、俺も同じようなものだ。
「おや?もしやその石、冥界の石か。」
おじいさんはポケットから見える光を見て、これが知っているものだと言った。
「この石はどういったものなんですか?」
「ある者が冥界から帰還した際に持ってきた石じゃ。まともな人間が使うとその石ごと冥界送りじゃが、何やら条件が満たされると、石と引き換えに命を授けてくれるそうじゃ。そして・・・」
不思議な話で合理性がまるでない。しかしながら、ファンタジーであることには初めからわかっていた。
「その石は、冥界への挑戦権ともいわれている。要は、助けたい人を助けるためのチケットじゃな。」
すごく知ってる感じになった。
「ここって地球のどこにあるんですか?」
「あー、どうじゃろ。衛星なんか飛ばせないからな、遠くから観測することはないが、地球の内側とか月の裏側とか言われているよ。」
なるほど、深く考えないでおこう。
「それで、鏡の洞窟ってどんな場所なんですか?」
「無限に鏡が貼られた洞窟じゃ。基本的に人間は精神に異常をきたして、冥界に着いた頃には壊れている。と、言われている。」
「ここまで来られる人の子なら大丈夫だろう。おぬしは何を媒介に来たのじゃ?鏡か月か、太陽か海か・・・。」
「・・・海に反射する月に向かいました。気付いたらここに。」
「なるほど、つまり全部か・・・。」
おじいさんは何か独り言をつぶやいてから。
「よし、鏡の洞窟に案内してやる。用意はある、この荷物たちを持っていけ。」
おじいさんが指をさした先にはいくつかのリュックサックが置いてある。
「えっと、どれです?」
「どれでもいい。中身はどれも同じだ。」
そういわれたので見てみると、一つだけ色の塗られていないリュックサックがあったのでそれにすることにした。
「じゃぁこれ借りますね。」
そう言ってリュックを持ち上げ、肩を通す。
「それじゃぁ行くぞ。早く行くに越したことはない。」
魔法使いさんはそう言って扉を開けてついてくるように促す。したがって進む。
リュックサックを持たせるから、どこに行くのかと思えば町の井戸。ここに何が?と思いながら魔法使いさんを見ると、何やら呪文を唱えている。気が付いたら石の光が強くなっていた。だんだんと強くなり、呪文が唱え終わるタイミングで井戸の下の方を示した。その時には井戸はなかった。
井戸があった場所には深くに続いていそうな洞窟があった。洞窟、のはずなのだが暗くない。よく見てみると、すべてが鏡でできていた。陽光がすべて反射されて、洞窟の中は明るいのだ。
「これを持っていけ。」
そう渡されたのはランタン。しかしこの洞窟には不必要では?
「君が入ったらすぐに閉めるんだ。だからすぐ暗くなる。これがあれば明るいままさ。」
であればありがたく受け取る。そうしなければ鏡だとすら認識できない。鏡だと認識できないじゃん・・・。でもないとだめだな、見えなきゃ進めない。
「ありがとうございます。きっと戻ってきますね。」
「あぁ、頑張ってくれ。お土産は期待しないでおくよ。」
そう言ってから洞窟に突入した。
洞窟に入るとすぐに暗くなったので、ランタンを手で持つ。と言っても火は入っていない。この中にポケットの光る石(冥界の石)を入れるのだ。鏡の反射率が異常なのか、アタリは一瞬で明るくなった。鏡とはいえただの洞窟。鏡であることを気にせずに進むしかない。
しばらく歩いているが目立ったものはない。鍾乳洞が合ったりもしない。今進んでいる方向は本当に進めているのだろうか?大丈夫だ、もし戻っていたなら、再び反対側を歩けばいいだけだ。
またしばらく歩いていく。ここは本当に冥界への道なのか?魔法使いさんが部外者を入れるための罠じゃないのか?大丈夫だ。そんな罠なら生物の跡や行き止まり、トラップなどがあるはずだ。私を殺しに来るものは何もない。
本当にそうかな?
声が聞こえた気がした。
本当に殺す人は居ないのかな?
誰の声だ?
人がいれば人は殺せるだろう?
心地が悪い声だ、聴いていて恥ずかしい。
失礼だな。人の声を恥ずかしいなんて。
この恥は・・・私の声なのか。
そんな納得のされ方いやすぎるんだけど。
うるさい、もうしゃべるな。聞いてて心地が悪い。
そうか死にたくなったか。
恥ずかしいだけだ喋るな。あとその喋り方も中二病っぽくて恥ずかしいからやめろ!
「仕方ない。そんな返答する奴は初めてだよ。」
「本人の声になってくれて助かる。あのままじゃ俺はお前を殺しに行ってた。」
「本当に恐ろしいのは殺されそうな私なのよね。まぁいいわ、お前は無事に冥界に届いた。もちろん、生きたまま。資格を持って。だ、さぁ、誰を選ぶ。」
景色はいつの間にか灯篭の続く闇の国になっていた。
「正直、正気を保ったままここに来れる人間って、私を殺す資格も持ってるから怖いのよね。だからさっさと選んで帰ってくれると助かるのだけど・・・」
「もしかして、最初のうちは脅迫されてたの?」
「え?まぁ、そうだけど。そもそも死者を生き返らせるのはルール違反なんだけど、私が死んだら魂を管理する場所がなくなるからって理由で、ここに正気で来れる人間の願いはできる限り叶えるのがルールになったの。一度殺されかけたし。」
何ともまぁかわいそうな神様だ。
「あなた今私のこと神様だって思った⁉」
「え?うん、だって魂を操るなんて神様にしかできないでしょう?」
「そっかぁ、私もちゃんと神様に見えるのねぇ。」
明らかに機嫌がいい。さては本当にかわいそうな神様だな?
「ふふふ、機嫌がいいからある程度なら融通利かせてあげるわ。生き返る人数増やす?それもとも寿命でも伸ばす?それともそれとも、ここの石をたくさん持って行って犠牲者増やすとか?」
すごく楽しそうにおぞましいことを言った気がするが気のせいだろう。
「寿命は、なるようになると思ってるんだ。生き返る人数を増やしたりはできるのかい?」
「もちろんよ!まぁ、私がちょっと頑張らないといけないけど。でもせっかく信者が頼んでくれたことだもの。何とかするわ!」
なんだこのちょろかわ女神様。普通に友達になりたいな。
『ふうん、君は私よりもこの人の方がいいんだ?』
「寿⁉」
『ここに来るなんてとんだあほだと思ったけど、そういう理由だったかぁ。なら私は邪魔だよねぇ~。』
「ちょ、寿!変に不貞腐れないでくれ!どう対応すればいいか分からん!」
『じゃぁ、生き返ったら私を妻にしなさい。』
「ここまできてプロポーズ断られたら俺が死ぬわ。」
あぁ、数年ぶりの軽口がこんなにもうれしい。
「うん、一人は決まったみたいね。さて、もう一人は・・・?」
『なんで兄さんがここまで来てるんだ・・・?』
「そりゃ、寿を生き返らせるためさ。」
『相変わらずオタク気質なんだね。まぁ、兄さんらしいけど。』
「何年たってもかわんぇえよ。」
『そう、じゃあ僕は二人を見送るよ。』
「なに言ってんだおめぇも来るんだよ。」
『兄さんこそ何言ってるの、石一個しかないんだから一人しか無理に決まってるでしょ。』
「別に構わないわ。」
『・・・兄さん神様に何したの?』
「正直俺もよくわかってない。」
「なぁに、信者に力を見せるのは神様の仕事だもの、少しくらいなら頑張ってあげるわ!」
鼻高々に力を誇示する神様。可愛いな。
《あのさ、それ、我らにとんでもない負担がかかるの分かってる?》
「げぇ、なんでこっちに来られるんですか!ていうか何用ですか急に!」
また新しい神様かな?
《君に出会うのは初めてだが、私が最古の神とも言われている。》
最古の神かぁ、またとんでもない力持ってそうな方が・・・。
《そんなとんでもない力をもってしても、二人を一度に生き返らせたことなんてないわい。》
「で、でも、私の信仰につながるものならできる限り協力するって言ったじゃないですか!」
《できる限りと言っただろう。やったこともないことを頼まれるとは思わなかったぞ。》
「で、でもぉ・・・。」
まぁ、それはそうか。
「神様、私たちにできることがあるとすれば何でしょうか?」
《まったく、神だというのに畏怖しないものだな。そんなに威厳がないか?》
「そうじゃないです。助けてもらうために、助けられやすくなるのは当然でしょう?」
《そういうことか、ではそうだな・・・形、もしくは、存在証明になるものが良いな。二人いなければできなかった。と言える記憶や出来事を今後に発生させろ。それが、人間にできる上限だろうな。》
二人である証明・・・。
《子を成すことが一番だが、その年では少し心配だな。100年前くらいであれば問題なかったんだが・・・。まぁゆったり考えるがよい。それができるまで、お前とお前の弟の思い人は、死者を妄想している手のつけようのない人間としてみられるが、まぁ問題ないだろう。》
俺はともかく、あっちは大丈夫かなぁ?
《そこは弟を信じてやるがよい。それと、冥界の石を四つほど持っていけ。まぁ、バランスを崩さないためだ。》
「どういうことです?」
《お前はまず冥界に入れる人間をもっと減らせ。》
「はいぃ・・・。」
《さぁ、おぬしらはさっさと帰るがよい。ここにいても、時間が無駄になるだけだ。》
「わかりました、それじゃぁ失礼しますね。それと女神様。ありがとうございます。また来ますね。」
「えぇ、死んだら会いましょう。」
そうして元の洞窟を登って行った。帰りの洞窟は水晶なのか銀なのか、自分の姿が大きくぼやけて映るのに、光はしっかりと反射するため、道自体は明るかった。もちろん、帰りの会話も明るかった。
『やっぱりあの女神さまが好きなんだ。あーゆー弱弱しくて保護良く掻き立てられるような女の子がいいんだー。』
「確かにかわいいけど、俺は君みたいに一途で必死で可愛い反応をする女の子が好きだなー。」
なんて言ってみると、もちろん寿は照れる。
《すまん、あと二つ渡すからおぬしの弟と思い人に渡しといてくれ。》
急に神様が石を渡してきた。そんですぐにいなくなった・・・。
「『なんだったんだろう・・・。』」
いつの間にか洞窟を抜けると、井戸の前にいた。
「おぉ、無事帰ってくるとは予想以上の男だったようだな。」
魔法使いさんがうれしそうなのか驚いてるのかわからない様子で近づいてきた。
「えぇ、いろいろありました。」
「そうか、しかし・・・。誰かの命とは交換しなかったようじゃな。」
「?」
何を言っているのか少しの間理解できなかったが、霊体では見えないのだろう。
「はい、まぁ、いろいろあったので…。」
そう言ってごまかすしかなかった。
「その井戸に飛び込めば元居た場所に戻れる。安心せい、冥界にシュートされることなんてないから。」
言われた通りにすることにした。とはいえ、井戸がどれくらい深いのかわからないので、何も見ないで飛び込む。二人も無言で付いてきてくれる。いつの間にか意識は飛んでいた。
気が付くと、山の中腹にいた。二人もいた。
『ここどこ?』
隣にいる寿(霊体)が疑問を投げる。
「きれいな場所でしょ?実体を持てたらまた来ようよ。」
『その時は俺と寿さんの妹も連れてきてよ。』
ずるいと言わんばかりに言ってきた。
「それじゃ、二つの家族旅行みたいじゃん。お前も自分で探して誘うと良い。」
『そうね、好きな人に素敵な場所に連れて行ってもらえるのはとっても嬉しい事よ。』
『じゃぁ、そうする。』
その後は山を下り、キャンプ場で腹ごしらえをしてから就寝した。霊体は食事も睡眠も必要としないらしいが、睡眠だけはとることにしたらしい。まぁ、真夜中起きてても暇だもんな。
翌朝、といってももう昼間だが、来た通りに電車や新幹線を乗り継いで、いったん自宅に帰る。残念ながら両親が霊体を認識することはなかったけれど、帰宅中の妹に遭遇した。
「え…えぇ?」
うれしさとかが出てくる前に混乱している。なぜ?
「予想してた反応と違うけど、どういう心情?」
「いや、何とも言えないって言うか・・・なんて言えばいいのかわかんない・・・。」
死んだはずの姉と好きな人が霊体になって好きな人の兄と居れば混乱するか。
「端的に言えば、取り戻した?」
「短くしすぎてなにも伝わらない。」
『この人、冥界まで着て、女神様脅迫して二人も生き返らせろって言ったの。』
『そうそう、そんでもって、「こんな脅しされてかわいそうだな。」なんて他人事みたいに言ってさ。』
「嘘じゃん!完璧な嘘じゃん!そこまでゲスイこと言ってないし、二人生き返らせてくれようとしたのは神様が優しかったからじゃん!」
どこかで喜んでる声が聞こえた気がした。
「先輩そんなことしたんですか・・・。」
「ほんとにしてないから!まぁそんなことはいいや、今は霊体だけど、実体に戻す方法。」
「そういえば浮いてますね。幽霊なんです?」
「現状は、二人にしか見えない幽霊状態だ。だから、今は二人でしゃべってるように見えるけど、片方づつになったときにはひとりでしゃべってるように見られる。」
「それで、実体にする方法とは?」
「二人いなければならない記憶や出来事を作る事。」
「つまり既成事実ですか、学生の私には少し荷が重いかも・・・。」
『妹になんてことを言わせてるのかなぁ?』
「怖いから笑顔で怒らないでください。あと今のは俺は悪くないよね?」
「ごめんなさい。揶揄ってみただけです。そっか、帰って来たんだ・・・。そっかぁ・・・。」
初めこそ元気に話せていたが、やっと心が追いついたのだろう、嬉しそうに、嬉しそうに泣いていた。
寿のおかげで結構早く落ち着きを取り戻した。(さすがお姉ちゃん)
「記憶や出来事って言っても、実際にはどういう事があるんですかね?」
「そこは俺も悩んでたけど、なんだかんだ過ごしてたらできるんじゃないかな?」
「せっかくなら早く実体にしてイチャイチャしたいんですけど・・・。」
『私の妹が私より強く育ってる・・・。』
姉がどこか感動してる、そこでいいのか?
『自分のことだと思うとさすがに恥ずかしいね。』
「喜んでろリア充。」
『「人のこと言えんのかバカップル」』
少し間が相手から、四人で吹き出してしまった。この幸せはいつぶりのものなのだろうか。最近のような気もするし、遥か昔な気もする。思い出のある川岸の草の上に寝転がる四人は、愉快そうに笑っていた。
「あ、そうだ、神様にこの石を渡せって言われてたんだ。」
「なんですこれ?」
「冥界の石だよ。」
「中二病ですか?大学生でしょう?」
「実際に冥界まで言ってきたのにその反応する?」
「でもこれ、十数年前の事件の石と同じですよね?」
・・・そうだった。
「どうするんです?これ見つかって警察に突き出されたら。」
みんなで悩み始めるタイミングかと思ったが。
「それなら私良いものあるよ!瓶が四本ある!」
「瓶?」
「そう!手袋したまま瓶に石と手紙を入れて、海に投げるの。そうすれば誰かの手に渡るだろうし、私たちだってバレないでしょう?」
「でも、石はたくさん触ったし・・・。」
「女神様曰く、『この石を顕微鏡やら虫眼鏡やらで細かく見ようとすると、焦点が強制的に帰られてみてる人の目を焼く』らしいよ。」
怖すぎるだろその石。
「それじゃぁとってくるね!」
寿はそう言って駆け出してしまうので、ついていく。
「俺もついてくよ。」
二人置いていかれた弟と妹は何を話すのだろうか。考えるのは無粋というものか。
「実体持ったばっかりだってのに元気だなぁ。」
「久々の体だから、少し慣れないし、前よりいろいろ成長してるから少し違和感あるけど、自分だって解るから、動き方もよくわかるの。だからね、今とっても楽しいの!」
嬉しそうにしてくれるせいで、こっちまでうれしくなって泣きそうになってきてしまう。
「ありがとうね。私をあきらめないでくれて、どこまでも追いかけてくれて。」
さすがに、堰き止めていたものが崩れる音がした。
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