番外編 四季奏爛(夏) 雷が鳴る夜

『──今夜は広い範囲で雷雨となるでしょう』

 お米と焼き鮭、味噌汁そしてカット野菜の朝食を食べながら流していたニュース番組で天気予報士がそう告げた。

 それを聞いた水色のパジャマに身を包んだナナちゃんが箸で鮭の身を解しながら

「ケイちゃん、今日は夕礼が終わったら直ぐに帰って二人で遊びましょ?。雨が降りそうだし」

と言ったことで今日は学校でゆっくりせずに家へすぐ帰って二人で遊ぶ事が決まった。そして授業も終わり、担任のネネさんの号令で放課後を迎えた。すぐに騒がしくなる教室を見回せば部活に行く人たちは少し疲れた表情を浮かべながら部活に向かい、部活がない人たちはそのまま教室に残って仲が良い人たちと談笑を始めていた。いつもなら僕たちは委員長を交えてお話をしているのだけれど、委員長は家事とその買い物あるらしく直ぐに帰っていき、僕たちも雨が降る前に、と荷物を纏めて隣に座るナナちゃんと手を繋いで騒がしい教室を抜け出した。


 僕たちは普段は寄る喫茶店を通り過ぎて真っ直ぐ帰宅すると、いつもより早く二人だけの時間が始まった。二人で宿題を終わらせて夕飯の支度をする。それが終わればそれぞれがやりたいことをやる自由時間になるのだけれど、二人とも交遊関係が広くないから大抵二人で話しているかゲームをするかだ。今日はいつもより長く自由時間が取れることもあって、ナナちゃんが「レースゲームやりましょ?」といつも僕が使う青いコントローラを渡してきた。僕はコントローラを受け取ってナナちゃんの横に並んで座ると、ナナちゃんが「じゃあ始めるよ」とゲームを起動した。

ゲームの腕前は僕はアクション系が得意なのに対レしてナナちゃんはレース系が得意で、僕はレース系のゲームで1度も勝ったことがなかった。それでも一緒にやっているのは偏にナナちゃんが楽しそうにゲームしているのを見たいから、それに尽きる。


 二人で時間も忘れてゲームをしていると気が付けば空は暗くなり、遠くから雷鳴が聞こえてきた。稲妻が一瞬だけ部屋を照らし、さっきよりも近くなった雷鳴に僕は、恋愛小説でよく見る状況だと思い出した。そういえば、もう一緒に暮らし初めて暫く経つけれど、何かに怖がっている姿をあまり見たことがないな、とコントローラを置いてナナちゃんの方へ身体を向けた

「雷が怖いとか無いの?」

そう聞くと、丁度ステージをクリアしたナナちゃんは持っていた赤いコントローラを脇に置いて、呆れた表情で首を振った

「そんなアニメや小説みたいなことあるわけないじゃない。雷だってジェットコースターも、お化け屋敷だって大丈夫よ。外で『キャー怖い』なんてやっている奴らはただ可愛いとか、守られる私ステキって思ってもらいたいだけよ。」

女の子に幻想を持ちすぎよとナナちゃんは微笑んだ。たしかにそうかもしれない、そう納得したその時、家の近くに稲妻が落ち雷鳴が地鳴りのように響いた。

「キャッ!!」

ナナちゃんは飛びはねて抱きついてきた。胸の中で小さく震えるその姿が庇護欲を掻き立てて、とても可愛く見えた。思わず大丈夫?と頭を撫でると、ナナちゃんは身体の震えを止めてしてやったり顔で顔を上げた。

「ほら可愛く見えたでしょ?」

テレビの明かりが映すナナちゃんの顔はいたずら好きな天使のように可憐に笑っていて、僕はその可愛らしさに堪らず目を背ける、そんな僕を見てナナちゃんは僕の頬にキスをして可笑しそうに笑うのであった。

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ケイくんとナナちゃんの日常 ケイくんとナナさん或いは義鷹=gsgs @gsgs3412

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