第6話 冒険者ギルドは世知辛い







 「それは本当ですか!?」



木製のカウンターから身を乗り出し、食い気味にアクスとミラに詰め寄るのは顔の所々に鱗のある美人なお姉さんだ。異世界って実感するわ。

ダンジョンを無事脱出出来た俺たちはダンジョンから1番近いインス町に着いた。2人に案内され1番先に冒険者ギルドに来た。2人がダンジョンで見た灰色のボロボロマントを羽織った顔を隠した人物が、矛牛テイルを出現するはずの無い足跡ダンジョンに召喚した可能性がある事を伝えると今度は応接室に通されギルド長に詳細を追加で説明する事になった。

時間も有り余っていて、ギルドの応接室にも興味があった俺はシロを抱えたまま喜び勇んでアクス達の後ろをついて行った。



 「君は初めて見るね?私はインス町のギルド長ジョシュア・ワードスだ。よろしく」

 「あ、俺はたまたま居合わせた一般人でセイと言います。こちらこそよろしくお願いします」



漫画の世界では大抵厳ついおっさんがギルド長だと相場が決まっているが、どうやらインス町は当てはまらないらしい。歳も俺と同じ位か若いし、穏やかな雰囲気で剣持ったことあるの?って思ってしまう。ちなみに俺は25歳。


 「おや?どうかされましたか?」


少しギルド長を見つめていたのがバレてしまった。


 「ギルド長が筋肉ムキムキじゃ無いから驚いてるんですよぉ」

 「あぁ!他の所のギルド長はみんな豪傑の様な人物が多いからね〜」


やはりここだけが例外であった様だ。やっぱいざという時戦いに出なきゃなんないもんな。


 「私は筋肉では無く魔力でギルド長になったのですよ」

 「ワードスさんはかなり凄い魔法使いなんだぜ」

 「あぁっ!!なるほど!!確かに剣術や武道以外で強い場合も確かにありますね!!あーそうかそうか、確かにそうだわ」


1人納得していると、ギルド長の目が俺の持っているシロを凝視していた。


 「あの、セイは何故大事に宝箱を抱えているんですか?」

 「ワードスさん受付では説明しにくく省いたんで俺から説明します。セイは別のとこから転移魔法陣の罠踏んだ様で他所からダンジョン地下16階に飛ばされたみたいっス。セイは一般人で矛牛テイル討伐後のレベルは5、恐らく討伐前は1か2、そんな奴と俺らじゃ矛牛テイルの討伐はありえねー。そこで活躍してくれたのが、このセイの愛宝箱であるシロです」


 「その宝箱が?」

 「はい、俺が変質者と思って捕まえようと雷魔弾で攻撃してしまったんすけど、それを宝箱の中に回収して他にセイが断魔ツマから得た戦利品の武器を収納していたんス。そんで、それをセイが矛牛テイルの尻尾を噛んでいたシロに吐き出す様に言ったら矛牛テイル目掛けてぶっ放して倒したって感じっス」


 「シロの本当の姿は犬らしいんスけど・・・実際見てねぇから俺からは何とも言えねぇってのが現状っス。もしかしたら犬と誤解した聖獣とかなんじゃって思うんすけど・・・」


ギルド長が手を顎に添え何やら考えている。中途半端に丁寧に喋るアクスが新鮮で心の中でニヤついているとギルド長が話しかけてきた。


 「セイとシロのステータス見ても良いかい?」


 「え?他人の見れるんですか?」


 「えぇ。私位の魔法使いでしたらほとんどの魔法使いが他人のステータスを強制的に可視化する事ができるんですよ。けれど了承のない場合は犯罪ですので捕まりますし、誰が介入したかすぐ分かるんですよ。それとパーティーメンバー同士でしたら見せ合う事は可能です」

 「へぇー勉強になります!どうぞ見て下さって構いませんよ」


するとギルド長は俺に手を翳した瞬間、ステータスウインドウが出現した。赤い字で『開示者:ジョー・ワードス』と出ている。すぐ分かるというのはこういう事かとまた1人で納得していた。そして俺のステータスウィンドウを見た後シロのステータスウィンドウを出した。


 「・・・ほう・・・面白いですね。宝箱であり生物でもあったシロ自体が異空間収納のスキルがあるとは・・・。生きているのは間違いないでしょう。そして魔物引食い箱びくいばこでも無い。セイ、この宝箱というスキルは何でしょうか?」


 「それ、まだ試してないんです」

 「ここで試して頂けませんか?」

 「良いですよ、攻撃っぽくないし。シロ、スキルで宝箱を発動してくれ」


シロがぱこんっと返事をし小刻みに揺れ、止まると口を開けた。みんなで覗いてみると中からニョキニョキとライフル型の魔法銃が出てきた。植物の成長を倍速で見ているみたいだな。


 「魔法銃ですか・・・。これは・・・ふむ、矛牛テイルの尻尾で造られている様ですね」


ギルド長が性能を可視化してくれ皆がそれを見る。


     【魔法銃】材料:矛牛テイルの尻尾

     【攻撃力】200

     【性能】

      ・魔弾の威力を20倍にする。


 「うわっっ!!これ超性能良いじゃん!!セイこれ売ってくれ!!ーー値段は融通してくれると助かるんだが・・・」

 「えーズルくないですかぁ?先輩の魔法銃って攻撃力、カスで10倍じゃないですかぁー!これだったら先輩1人でBランク取れますよね〜?駄目ですよ?・・・逃しませんよ先輩ーーー私達運命共同体ですよね?」


ミラはやはり狂気のドジっ子らしい。色んな狂気の詰め合わせ、怖すぎるな・・・。アクス本当なんでこんなのと組んじまったんだ?自ら苦労を背負い込んでんな・・・若いうちの苦労は買ってでもしろとは言うけど爆買いが過ぎるだろ。なんか前世で悪行でもしたの?それとも全ての人に手を差し伸べる聖人的な魂の生まれ変わりなの??お前が何でヒーラーじゃ無いの?ヒーラーって闇抱えた奴でもなれんの?ミラも本当の職業呪術士とかなんじゃねーの?ギルド長一回みんなの職業嘘ついてないか調べた方がいいっすよ。



 「兄貴が使ってくれた方がシロも喜ぶと思うんであげますよ」

 「いっ良いのか!?!?い、いや・・・けど流石にこれは・・・」

 「セイさんダメですよぉ!!20倍の魔法銃って金貨30枚はするんですよ!!この町なら少なくとも一軒家10 軒は建てられますよ!?攻撃力200もあるんだからもっと高いです!!数年楽しく遊んで暮らせるんですよ!?」



どうもアクスと違ってミラが俺の不利益に怒るのみると、下心がある様にしか見えないのは何故なのだろう?人徳か?



 「売りましょっ売りましょっ!!ねっ?ねっ?」


 「うーん・・・」

 「確かにこれを売れば遊んで暮らせるでしょうね」

 「セイ、俺は自分で金貯めて買うから気にしないでくれ」

 「ほらぁ〜先輩もあぁ言ってますしぃ」

 「うーん・・・・・・」

 「セイさぁんっねぇ?売りましょうよ?」



コイツしつこいな・・・。これはもう黒、真っ黒だ。100パーこの金当てにしてんだろ。ヒーラーって教会の教えとか学ば無いの?コイツは一回道徳とか善行について学んだ方がいいんじゃ無いだろうか。



 「いや、やっぱ兄貴に使って欲しい」

 「ーーーっ!ーー後生大事にする」



魔法銃をアクスに渡すと、アクスはそれを仰々しく受け取った。ミラは未だに不貞腐れている。コイツは俺に何を買って貰おうと思ってたんだ?ミラって金にがめつくね?それとも教会自体ががめつい集団なの??この世界の教会は悪魔崇拝なの?女神とかいないの??

この世界の宗教的なものを懐疑的に感じているとギルド長が咳払いをした。



 「アクス、良かったですね?ミラ、男の友情に口を挟むものは無粋ですよ。そう言えばセイさんはこれからどうされるんですか?」

 「んーシロを元の姿取り戻す手段を探す為に旅に出ようと思っているんですが、今の俺のレベルが低すぎてすぐ死にそうなんでこの町で少し鍛えようと思っています。・・・冒険者登録って俺でも出来ますかね?」

 「おや?うちで登録してくれるんですか?有難いですね〜。この町は初心者向けダンジョンが近いせいで名を馳せる様な冒険者が出ないんですよ。キミならきっと有名な冒険者になれますよ」


どうやら有名になる位強い冒険者は、基本強いから初心者向けダンジョンのある町まで来て登録せず強いダンジョンのある町で登録するらしい。んでそいつが有名になれば、登録したギルドも名声が上がるらしい。芸能事務所みたいなもんかもな。小さい事務所からビックスター生まれりゃ確かに事務所も有名になるし、その人に憧れて芸能人目指す奴は同じ事務所に入る可能性高いもんな。で、事務所が有名になれば大きい仕事も舞い込むと。

・・・冒険者ってやっぱ世知辛いな・・・。自由な様で圧迫感が・・・。しかもここのギルドはミラみたいな問題児抱えているんだからな・・・。ギルド長、禿げない様に祈っとくな・・・。



ーーこの後、再び恥ずかしい勘違いをしている事を気付かされる事になる。








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