第4話 狂気はすぐそこに







八方塞がりの状況に3人とも冷たい地面に座り込み鬱々としている。こういう出られない時って便意催すよな?あー余計な事考えたわ。段々行きたくなって来たかも・・・、流石にの方はこの通路でやる勇気ないわ〜・・・。どうしたもんか・・・2人は行きたくなんねーのか?あぁ・・・考えれば考えるほど行きたいスパイラルに・・・。


ーーよし、別の事考えよう。



 「そういやアクスさんは魔法使うけど魔法使いじゃなく射手ガナーなんですよね?どうやって魔法使っているんですか?」

 「ん?あぁ、この殻の筒に魔法を込めて魔法銃にセットし充填。そして撃つとこの魔法銃にある仕掛けによって何十倍もの威力で放てる。俺の持ってるこの魔法銃は10倍位にはなる。もっとパーティーランクが上がって稼げる様になったら20倍位のやつ買いたいんだけどな・・・」

 「ギリギリCランクのパーティーじゃ、稼げないんですよねぇ・・・」




冒険者世知辛いなぁと思いながら話を聞いているとーーー



ーーガタンガタン!!



 「ん?どうしたシロ?・・・お、おいっ!シロそっちは危ないから行くなっ!」


ガタガタ宝箱本体を左右に揺らしながら、亀位のスピードで矛牛テイルのいる角を突き進んでいく。遅いわけでは無い、予想外に速いのが亀だ。足すらないのに思っている以上に速い速度で向かって行った為に、しゃがみ込んでいた俺は捕まえる事が出来ないままシロは矛牛テイルの前に出てしまった。

NOーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!




矛牛テイルが足元に現れた動く物を見逃すことはなかった。ギロリとシロを見下ろすと、矛の様に鋭く尖った尻尾をシロに向かって振り下ろす。

身体が勝手に動き矛牛テイルの前にいるシロの元に走った。




 「ーーシロっっっっ!!!」




ーーーボゴォンッッッッ!!!





シロにセイの手が届く前に矛牛テイルの尻尾がシロを直撃し、そのままセイは尻尾で壁に投げつけられた。頭から血を流すセイは意識を失いぴくりとも動かない。




 「ーーーセイさんっっっ!!」

 「クソっっ!!ミラ行くぞっっっ!!!」




アクスとミラは矛牛テイルを警戒しつつ急いでセイの元へ駆け付けた。ミラの回復魔法によってセイの傷はなんとか完治したが、絶望的な状況なのは変わらない。


 「・・・っ!」


 「気が付いたか!!セイ!!」

 「よがっだよぉぉぉぉ・・・」


後ろの抉れた壁を見る限り俺は死ぬ所だったんだろう。ミラがヒーラーと言っていたからミラが助けてくれたんだろう。アクスが風の魔法を込めた銃弾で俺たちのいる方に矛牛テイルが近付かない様にしていてくれる。お前ら弱いのに助けてくれるんだな。残念系だけどいい奴らだな・・・。




 「ミラ、アクス助けてくれて恩に着る」


 「やぐにだっでよがっだよぉぉぉ・・・シロちゃんはたずげられなぐでごめんなざいぃぃ」

 「・・・礼ならこれをどうにかした後にしてくれ」



ーーグモォォォォォォォォォッッッッッ!!!




未だアクスの攻撃に雄叫びを上げ何度もこちらに向かって来ようとする。離れていても威圧感を感じる。

シロはどうなったのだろうか・・・。

愛宝箱のシロは木であったから粉砕していたとしても、生物でない身体のシロはミラの回復魔法で助けることは不可能だろう。少し前までの愛犬の姿だったシロと愛宝箱の姿になったシロが頭に鮮明に蘇る。シロがどうなったか恐る恐るアクスが攻撃している矛牛テイルを意を決して見やる。




粉砕した宝箱を覚悟していたがーーーー





 「ーーあれ?尻尾に引っ付いているのシロじゃねっ!?」




矛牛テイルの尻尾の矛の様になっている部分に噛み付いている様で、矛牛テイルもこちらに顔を向けているがかなり気が散っていてチラチラ尻尾に視線が移っている。尻尾を振るも全く離れずイライラしてきているのが分かる。



 「あ!本当だ!シロちゃん生きてたんだぁ♪良かったねぇセイさん!!」

 「・・・あぁっ!!ありがとう!!」


ミラは顔を綻ばせ喜んでいる。シロ程じゃないがお前も可愛いよ、うん。



 「お前ら喜んでんじゃねーよ。シロが離れたら矛牛テイルは全力でこっちに来んだぞ」

 「先輩っ!!シロちゃんを取り戻す為に戦いましょう!!」

 「おうっっ!!俺の回復と補助は任せたぜぇっっっ!!!」

 「任せてっっ!!アイアン防御ガード!!」



アクスが大声でミラに伝えると、素早くライフル型の魔法銃に魔法を充填し構える。やばいアクスがかっこいい。俺の中の厨二病が疼くわ。

ミラが全員に防御魔法をかけてくれ、膜みたいなものが自分の身体に張られたのを感じた。


アクスが充填した魔弾は一度見た雷だった。大型の魔物に雷魔弾は相性が良く全体にヒットすると、雷で麻痺したのか動きが鈍くなった。



 「最大の武器である尻尾さえ封じたら結構戦いやすいじゃねーか!!お前の愛・・・宝箱?良い仕事してんなぁっっっ!!」



アクスはそう言いながら再び魔弾を充填し、今度は氷の魔弾をヒットさせた。腕に深い傷を負わせる事が出来た。確かに言うほど強くないからこのまま倒せそうだが、調子の良い時ほど足元を掬われるもんだ。気を引き締め直した時、矛牛テイルが四つん這いになり真っ赤になった。あっこれヤバいわと感じた瞬間矛牛テイルの俺の身長の3倍はある巨体が、異世界に飛ばされる前に見たトラックの様に眼前に迫っており次の瞬間には全員壁に弾き飛ばされていた。


全身を強打した上に肋骨が何本か折れているのか起き上がる事が出来ない。しかし矛牛テイルの巨体に弾き飛ばされてこの程度で済んでいるのは、ミラがかけてくれた防御魔法のお陰だろう。顔だけを動かしアクスとミラを目で捜すと崩れ落ちた壁の瓦礫から手や足が見えた。ピクリとも動かない。


 「(あぁーぁ・・・。異世界来てもどっちみち死にオチじゃん・・・。シロ今のうちに尻尾から離れて逃げろよ・・・シロならこのダンジョンで生きていけるだろう・・・あぁー・・・最後に一矢報いたかったなぁ・・・武器でも有ればーーーーあれ?そういやゴブリンみたいな奴からゲットした武器ってまだシロが持ってたんだっけ?)」


あれが有っても勝てない事は分かりきっていたが、投げつければ擦り傷位は負わせただろうなと考える。こっちに投げてくんねーかな・・・?でも尻尾噛んでるし無理だよなぁ・・・。


その間にもまた矛牛テイルは真っ赤になると、四つん這いになり後ろ脚で地面を掻きまだ動いている俺に標準を定めている。



 「・・・し、シロっっっ!!・・・ぅぐっっっ!!・・・お、お口から食べた物吐き出しなさいっっっ!!」


肉を刺す様な激しい痛みを堪え、どうせ死ぬならばと大声でシロに叫んだ。シロは賢いからきっと俺の言葉を理解していると信じた。





ーーー無常にも矛牛テイルは地面を蹴った。










矛牛テイルは次の瞬間に大爆発した。





爆煙から姿を現したのは、首の落ちた矛牛テイルだった。確認しようにも身体は動かない。結局どうしようもないと肩を落とした。


シロはガタガタと身体を揺らしこちらに向かって来る。やはり飼い主の元に来るとは宝箱になっても可愛いなぁと思っていたが、方向を変えミラの方に向かって行った。


最期はシロに見捨てられたのかと絶望していると、ミラの上に覆い被さった瓦礫を宝箱内に入れ取り除いている。入れるばかりで吐き出さないので、シロの口の中は異空間収納ボックスの様になっているのかも知れない。どんどん取り除かれあっという間にミラの姿が現れた。シロは次にアクスの埋まった瓦礫の元へ向かい再び瓦礫を宝箱内に入れ始めた。最早食べていると言ってもいいのかも知れない。そうこうするうちにアクスの身体も姿を現した。


マジうちの子出来る子だわ〜。天使じゃね?



 「ん・・・んん・・・っっう」



どうやらアクスは気が付いた様だ。


 「ーーアクス!大丈夫かっ!?」


 「セイ・・・?俺が不甲斐ねぇばかりに・・・すまねぇっ」

 「そんな事より、多分魔物死んだっぽいからミラが生きているか確認してくれ」


俺の言葉に驚いた様でアクスは顔を上げた。その視線の先には矛牛テイルの死骸がある。


 「・・・どうやって倒したんだ?」

 「ーーそれよりミラが動いて無いから、頼む」

 「っ!!あぁっ!!そうだな!!」


慌ててミラの元へ行き生存確認をしたアクスはほっとした様に生きている事を教えてくれた。流石ギリギリでもCランクの冒険者だ。俺は全く動けないのに動きは遅いものの問題なく行動が出来ている。ミラも脚に怪我をしている程度だという。俺もレベル上げないと流石にシロを戻す旅どころでは無い事を自覚した。



 「えぇぇっっっっ!?矛牛テイル倒したんですかぁぁぁっっっ!?ーー討伐部位どこでしたっけ?」


ミラは目覚めると早速矛牛テイルの死骸を前にテンション高めである。


・・・先に治療しろやと段々痛みで意識朦朧となりつつ思っていると、アクスはミラの頭を鷲掴みにし俺の方に顔を向けさせた。


 「あ・・・か、回復魔法ですよね〜分かってますっ!分かってましたからあぁ!!」


どうやら鷲掴みにした手に思いっきり力を込められている様だ。俺の回復忘れて討伐部位の事考えていたんだからしょうがない。イケメンヤンキーなのにアクスは本当に気配りが出来る凄い奴だな、ありがとう!お前のお陰でやっと痛みから解放されるよ。お前が居なかったらこの狂気のドジっ子に見殺しにされてたよ・・・お前が居て本当に良かった・・・。


アクスの存在に感謝しながら、ミラに治して貰うと治して貰ったので一応ミラに礼は伝えた。アクスには手を取って感謝を伝える。その間に再びミラは魔物の死骸に夢中になっていた。もう掛ける言葉も出らんよ・・・。



俺は可愛い少女が首の落ちた魔物に夢中という狂気に異世界である事を再確認した。






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