第3話 トイレは行けない状況だと行きたくなる
「で、セイさんは俺達に何をして欲しいんだ?」
アクスはミラを無視して話を進め始め、俺もミラを無視しているがアクスの横でまだ何か言っている様だ。容姿は可愛いが若干煩い。態度も口も悪いがアクスの方が疲れない。
「実は俺ほんの少し前まで他の場所に居たんだが、気付いたらこの洞窟?みたいな場所に居たんだ。だから近くの町まで連れて行って欲しいのとなんか飯奢ってくんね?あと、この国の常識とかその間に教えてくれ」
俺の話にアクスは訝しんだ様子で何やら考え込んでいる。
「・・・お前もしかして大食漢とかか?」
「いや?なんでだ?」
「あー・・・本当に金持ってないだけか。いやな?大抵詫びを求めるっつったらよ、ここぞとばかりに相手が痛い位求めるのが普通だからよ。あっ!!今の聞いて変更は無しだからな!!」
なるほど俺が大食漢で自分達に大金を支払わせようと企んでると思われたらしい。まぁ次いつまともに食えるか分からんから腹一杯食わせて貰うつもりだけど。つか気にするのそっちなんだな?この世界じゃいきなり移動って良くある事なの?不便じゃね?
「ーーじゃあ、取り敢えず外に案内してくれ。行くぞシロ」
ーーかぱんっかぱんっ
悪い奴らでは無さそうなので、売られる事も無いだろうと2人に案内を任せる。何も持っていないので戦利品の刃物を捨てるのは惜しい。しかし持って歩くには邪魔だと悩んだ結果、シロが
「ねぇ、ねぇ?セイさんはその宝箱になんで名前つけてるの?それ
「それ、俺も気になってたんだよ!
アホな子・・・もといミラが話しかけて来た。まともな質問だったのでその質問には答える事にした。どうやら宝箱に似ている魔物はミミックという名前で無く
「ーー何と言うか・・・魔法を掛けられたのかもさっぱり分からんが、本当に元は愛犬のシロなんだよ・・・。俺はこれからシロを元の姿に戻す方法を探す」
「・・・ソウナンダー・・・世の中には不思議が多いもんね・・・先輩」
「・・・俺に振るんじゃねぇ・・・ん?」
先頭を歩くアクスの歩みが止まったので、俺とミラも止まった。アクスが振り返り静かにする様に身振りで伝えて来た。アクスの後ろからそっと目線の先を追うと、通路の先は少し開けた場所がある。そこに灰色のボロボロマントを羽織って顔を隠した性別不明の人間が巨大な二本足で立つ牛の魔物の前に立っていた。
「(ミノタウロスか?)」
「・・・なんで・・・ほこうしている・・・!?」
「(まぁ確かになんで牛が二足歩行しているんだろうな。・・・あ、魔物だからじゃね?)」
後ろで呟いたミラの言葉に心の中で返事をする。
魔物の前にいた人間は杖で地面を叩くと男の足元に魔法陣が展開し、忽然と姿を消した。人間は消えたが巨大な魔物はそこに残されている。
「(え?一本道だったよね?俺らここ通らないと外に出られなくね?誰か来るまで待たなきゃなんねーの?やばない?)」
俺達は一旦道を戻って話し合う事にした。
「・・・アクスさん俺らあのミノタウロスの前通らないと外に出られないとか言いませんよね?」
「・・・とか言っちゃう感じだな・・・つかミノタウロス?」
「あの大きな怪物の事ですけど、名前違うんですか?」
「あれはダンジョンにだけ生まれる魔物で
ミラが言ってたのは魔物の名前だったんだと分かり、声に出して恥ずかしい思いしないで済んで良かったと1人安堵する。そしてすぐに出られない状況を作った謎の人物に怒りが湧いた。アイツが腹を下したらカバディでトイレのドア塞いでやろう。
「・・・セイって冒険者・・・じゃ無いよね・・・?」
「一般市民と愛宝箱」
「不味いですよ〜先輩ぃ〜・・・私達じゃ絶対一回攻撃で全滅ですよ〜」
ミラが小さい身体を更に小さく丸め震えている。
「え?アクスさんの火力でドカンと2、3発で倒せないんですか?」
「・・・お前が知りたくない話をする。・・・俺達2人はギリギリCランクだ」
「CとBってワンランク差じゃ無いですか。気合いでどうにかなるでしょ」
「お前な・・・。俺らが運悪くBに昇格出来なかったレベルなら可能だったかも知れねぇが、俺らのパーティーは
「うぅ・・・私達のパーティーは5年間Dランクメンバー4人で組んでやっとパーティーランクがCに上がったの・・・」
「ーーえ。Dランクのメンバー4人揃って5年ですか・・・平均的・・・じゃあ無いんですよね?」
「・・・俺らみたいなDランクのメンバー4人で組んだパーティーだと、遅くても1年半位でCランクに上がってんな・・・」
「まじっすか・・・。・・・助けっていつ頃来ますかね・・・?」
この2人に期待するのをやめて、助けがすぐ来る事を期待する事にした。するとミラが顔を青くし震えている。下痢か?行けないと思うと行きたくなるんだよな〜分かる分かる。
「ミラさん、どうかしたんですか?腹具合でも悪いなら行ってきて下さい。通路の真ん中はやめて下さいね」
真顔で伝えると青かった顔は赤くなった。二色信号機かよ。なんかぷりぷり怒り出したがめんどくさいので無視した。シロは可愛いなぁ。
「ーーで、ミラ。てめぇ何隠してやがる?」
アクスが眉間に皺を寄せミラに詰め寄る。さっきまで俺に腹を立てて真っ赤になっていたが、もう歩行出来る青に変わっている。この信号機は変わるの早いなぁ・・・。足悪かったら渡り切れないだろ。警察署に改善依頼送らんとな。
「ぜ・・・ぜんばいっっどうじよう゛・・・」
今度は泣き始めた。情緒不安定なんじゃねーのか?とちょっとコイツらと町まで行くのが不安になって来た。後の2人って一体どんな奴らが仲間なんだ?と気になるが会いたくは無い。
「ったく、ほら怒んねーから言ってみろ」
「ーーーギルドに言ってない」
「テメェッッッッッッッ!!!マジふざけてんじゃねーぞぉぉぉっっっっっ!!!!クソがぁぁぁーーーーっっっっっ!!!!ーーー取り敢えずミラ・・・テメェを1発殴らせろ・・・」
怒らないと言ったアクスはフルスロットルでキレてしまった。うん。怒る事やらかしてんだろうなとは薄々気付いてたよ・・・。あ、シロに土が付いてるキレイキレイしような?
「怒らないっていっだじゃんかぁぁぁぁぁっっっっ!!!だずげで殺されるぅぅぅセイさんだずげでぇぇぇっっっっっ!!!」
愛宝箱のシロの表面をハンカチタオルで拭いていると、ミラが俺の背中に隠れた。邪魔すんな。
「アクスさん、ギルドに言って無いってなんかあるんですか?」
凄まじい怒りのオーラを出していたアクスは、俺の質問に怒りのゲージを下げた様だ。
「ダンジョンに潜る奴は当日に申告するんだよ。申告しねーとそいつが帰って来なかったら分かるから救助に行けるだろ?大抵1日って決まってんだけど、長く潜るパーティーはその日数と持っていくアイテムを申告して許可が降りて始めて潜る。勿論、申告していない場合は誰も助けにはこねぇ」
登山届けみたいなもんかと納得した。アクスはイケメンヤンキーの割には説明が丁寧だ。どっかの信号女とはえらい違いだな・・・アクス絶対パーティーで苦労人ポジションだろ。段々イケメンヤンキーが哀れに見えてきた。
「ここダンジョンなら冒険者来るんじゃないのか?」
「うぅ・・・ここは初心者向けダンジョンで、私達ギリギリCランク・・・」
「?」
「セイさん、あぁっっ!もうめんどくせぇ!!ーーセイ、初心者向けダンジョンは大抵Eランクの冒険者が利用するんだ。けど地下15階からは初心者には厳しくなるし出口から遠い。リスク高いからこの階と同じレベルの魔物が入り口付近で出るここより少し強いダンジョンに大抵の冒険者が移動する。・・・そして、ここの階は地下16階だ」
「つ、つまりここまで降りて来る冒険者はほとんど居ないって事か!?」
2人が神妙に頷く。頷いてるけどどうすんの?あんたら。
「一応道をずっと引き返したら、下の階に降りる階段があるんだ。ここまで来るのに俺はかなり魔力使っちまったから、入り口まで戻るゲートのある30階へ降りるのは流石に無理だ。下に行けば行くほど魔物は強くなるからな。だからといって矛牛テイルは益々無理だし・・・」
八方塞がりの状況に3人は大きなため息を吐いた。
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