パンケーキ


 お皿の上に横たわっている茶色の丸い存在たち。自分が主役であることを理解している堂々たる振る舞いながら、可憐さを決して失わず、はにかむようにこちらに微笑んでいるかのようで、皆まずスマートフォンのカメラを向ける。

 奈緒も例外ではなく、可憐に着飾ったそれらをカメラにおさめたのち、ナイフとフォークを持って、当たりをつけようと目を巡らせた。

 迷っていたが、クリームが溶け始めたので、結局一番端にいるものに決めた。たっぷりとしたその体にナイフをいれると、焼き目とクリームがさふりさふりたぷりたぷりと音を立てた。

 そうして、ふわふわもちもちと所在投げに、大きな塊とフォークに押さえられた小さな塊に切り分けられた。断面から熱々であることを示すように湯気が上がってきて、手のひらに熱が伝搬する。奈緒は、小さな塊の方に、たっぷりとクリームとメープルシロップをからませて、頬張った。


「おいしいね」


 対面で同じ動作をしていた明子が、大袈裟なほど感動した目で訴えてきた。実際は明子のサングラスは曇っているのでそう見えないのだが――見えなくても存外見えるのだと奈緒は最近学びつつあった。


「うん、おいしい」


 奈緒は笑い返した。

 休日、奈緒は明子とパンケーキを食べにきていた。隣の客は仕切りを作るように、明子と自分の間に鞄を置いていた。席と席の間隔は十分に広い。そんなもので陣地取りをしなくとも明子が向こうに食い込むこともないだろう。少し嫌な気分になった。

 それ以外は楽しいお出かけだった。このお店に来るまでも、お店に並んでいるときも、ずっと奈緒は明子とおしゃべりをしていた。いろんなことが話せまた聞けて、嬉しかった。ずっと手は繋いでいた。


 店内は涼しかった。焼きたてのパンケーキの熱で汗ばんだ肌がエアコンの冷気によりまた冷やされる。

 それでもまだ暑さが買った奈緒は、自身の長袖の袖をつまむと、パタパタと風を送りこんだ。

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