大喧嘩
明子と大喧嘩をした。結果として二人ともワアワアと泣いた。
実際には大喧嘩というより、奈緒が一方的に怒鳴り付けたに等しかったが、奈緒のなかでは大喧嘩もそれも大差のない、感情をそのままぶっつけるに過ぎない出来事にすぎなかった。
「でも、でも仕方がないの」
明子は呆然として、それからさめざめと泣き出した。思いもよらぬところからいじめつけられた、不意打ちを食らった顔をしていた。
そうして涙をしみじみ、さめざめと流しはじめ、呟いたのがその言葉であった。
「どうしても怖いんだもの」
しくしくと、本当にしくしくと泣く人間を奈緒はこの時初めて見た。そして、それが大層胸に堪えるものであることも知った。
奈緒の吐き尽くした胸のうちは、空洞になっていた。そこに明子の涙はさみしい響きで潜り抜けていった。
奈緒は明子の背をさすった。さまようような手つきであった。拒絶されなかったことにわずかな安堵を覚えた。
明子は全身がじっとりと濡れ湿っていた。全身は熱気球のようであるのに、表面は冷えた汗のために、わずかにひんやりとした心地を与えた。
気球の丸い背がひくひくとおこりのように上下するのを居心地の悪い思いで奈緒はさすり続けた。
こぼれでたのは、
「ごめん」
という、謝罪の言葉であった。すると本当に自分が申し訳ない気持ちになって、奈緒は余計にかなしくなった。
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