怒り
どうして明子はこうなのか!?
明子のもとへ歩いていくときの、自分の気持ちを明子は考えてくれたことがあるだろうか?
奈緒は二十メートル向こうの明子の、遠近法の狂った姿に、いつも足がすくみ、怯んでしまう。その怯みを感じなかったことにして、時に恥じ入ったりもして、気だるまの友人の元へなに食わぬ顔で
「待った?」
と聞くのだ。
すると、相手はドロドロと伝い落ちる汗、もうもうと上がる湯気、汗の滴る唇で
「おはよう」または「ううん」と言うのだ。明子は最近、サングラスまでかけ始めた。暗色のそれは、ほの白い蒸気に呼吸のたびに覆われてはは引き、覆われては引きを繰り返すのだ。
そこ満ち引きを、奈緒は暗澹たる気持ちで見つめるのである。本当に明子はわからないのだろうか?自分のこの愛と気遣いに!
奈緒は悔しい気持ちで一杯だった。こちらがこうして気をもんでいる間も、明子はまた何処かで、そしらぬ顔で、着だるまになって闊歩しているのだ。奈緒の知らないところでも!どこでも、あの姿で!歩いているのだ!
ふと、それは奈緒のなかでひどく許しがたいことに思えた。酷く自分に対して身勝手で、思いやりのない行動に感じた。
そうだ。私がここまで気をもんでいるのに。
明子は自分ばかり気にかけている。自分のことばかりで一生懸命なのだ。
それまではそれでいい、そう思っていた。思い通せると思っていたが奈緒はそれが
大層不思議になってきていた。
どうしてどうして、こちらの気まずさを明子は少しも考えないのであろうか?
いっそそれは悪意ではないか。悪意といってもいいのではないだろうか。
しかし、はっきり形にするのを恐れる。 なぜなら一度奈緒のなかで、感情を悪意と定義付けてしまえば、もはやそれは悪意にしかならなかった。それをひどくおそれた。恐れたからこそら今まで明子の行動に意味も定義もつけないよう努力してきたのだ。考えることを放棄したのだ。
明子の傍にいたかったから。
それだというのに、明子は、明子は…………
どうして明子はこうなのか!
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