「丈留が降ろしたいのは私の方でしょー?」

 賭け点が二倍になり、駆け引きは続く。再び三人での騙し合いが始まった。


家入いえいり、降りてくれても良かったんたぞ?」

「レイズしたわりには弱気なこと言いますね」

「降りてくれないからレイズして駆け引きの場に引きずり込むんだよ。まあ──」


 俺はステイシーの方に目を向ける。こちらを見ていたステイシーと目が合った。


「──カモが降りなかったから賭け点増やして儲ける魂胆もあるんだがな」

「なかなか悪だね、丈留たける。でも降りないよ」


 もう腹は決まっているとでも言うのか、ステイシーは追加の100点を場に出した。


「断言しよっか。私のカードは絵札だね。丈留が降ろしたいのは私の方でしょー?」

「っ、強がりを。そう思うなら勝負するか?」

「いいよー。だって、ホントに勝ち目あると思うならさらに賭け点倍にするはずだから。でも今丈留は『勝負する』って言ったからね」


 俺を見てそう断言するステイシーから、思わず目を逸らしたくなった。

 しかしそこからの無言の圧力に耐えかねて、俺は家入に視線を移した。


「……家入はどうする?」

「私も勝負しますよ。降りる場合も200点払うんですよね? なら、ホントにKな可能性に賭けた方が期待値高いですし」


 残念ながらKではなく6なので、家入に関しては安心だ。

 ホッと胸をなで下ろしそうになったが、賭けの場でそんな危ういことをやるわけにはいかないと、寸前でこらえた。


「じゃあせーので出すぞ。……せーの!」


 俺の手札はクラブの7。家入がハートの6、ステイシーはクラブのJなので、ステイシーの勝ちである。


「ほらねー! でもJか、危なかったー」

「ぐぬぬ、やっぱりKじゃないじゃないですかー!」


 家入とステイシー、それぞれ結果を鑑みて口々に言う。

 文字通り賭に勝ったステイシーと負けた家入、その表情は天と地ほどの差だ。


「じゃ、この点数貰うねー」


 そう言ってステイシーは俺たち三人が場に出したチップを自分のもとに寄せる。

 そして勝ち誇った表情のままこう続けた。

「次は私が親だね。稼がせてもらうよー」


 先ほどのカード三枚を場から取り除いて、ステイシーは次のカードを配った。

 そして俺たちは再びカードを掲げる。今度は家入がスペードのA、ステイシーがダイヤの2。

 あまりの低さに思わずツッコミそうになり、なんとか我慢した。


「あはは、大夢たいむは降りた方がいいかもね」

「なっ、なんですかいきなり」

「え、だって……あれ、Aって一番上? 下?」

「下だな」

「ちょっと待ってくださいよ! また私が狙われる流れですか!?」


 さっきに続いて、恐らく家入が一番数字が小さい。ただ違うのは、今回ステイシーが言ったAという言葉が真実だということ。

 Kとあう嘘に惑わされていた家入には、これも嘘だと疑心を抱くだろう。


「丈留もだよ。二人仲良くAなんだから、一緒に降りた方がいいかもね」


 どうやらステイシーは俺もめようとしているようだ。

 しかしこれは嘘だろう。何故なら家入がステイシーの言葉で俺のカードに目を向けたからだ。

 きっとステイシーが違う数字を言ったものだから確認してしまったのだろう。


「忠告はありがたいが、そんな嘘には騙されないぞ。ホントに二人でAなら、下手なこと言わずに勝負の場に引きずり出せば良いからな。しかもお前が親だから、レイズしていくらでも賭け点を上乗せできるからな」

「じゃあ丈留は降りないね? 大夢はどうするのー?」

「……いいでしょう、勝負しますよ」

「じゃあ丈留のいうようにレイズで、改めて降りる人を募集するねー。どうするー?」


 やけに強気だ。自分が安手だと気付いていないのだろう。

 この二人に負ける気がしないので、このまま賭け点を増やしてもらうが吉だ。


「降りませんよ」

「俺もだ」

「じゃあまたレイズするね。これで400点だよ。降りないならさらに増やして800点にするけど?」


 何故ここまで煽る? もしや本当に俺もAなのか?

 ……いや、これはこの戦法はさっきの俺がやろうとしたことと同じじゃないか?

 強気にレイズして自分が低いのではと思わせること。だから俺の手は……いや、ならなぜ家入も強気に乗ってくる? 俺が本当にAなら納得は行く。


「お、降りる!」


 この戦いは無謀と感じ、400点を払って勝負を降りることに決めた。持っていたカードは一旦伏せたままテーブルに置く。

 俺の行動に対して二人は別段ホッとするような素振りも見せなかった。


「あら、残念。大夢はー?」

「降りませんよ」

「じゃあさらにレイズして募集なく勝負ね。せーの!」


 二人がカードを場に出す。繰り返しになるが家入がスペードのA、ステイシーがダイヤの2だ。

 この結果にまたも家入は落胆し、ステイシーは「あっぶなっ!」と声を震わせる。無理もない、まさかこんな低い手で強気に勝負してたとは思うまい。

 と思っていたら、家入が俺のカードを指さして「先輩、見てください」と声をかけてきた。

 言われたとおりカードをめくると、そこに描かれていたのはクラブの3、すなわちこの場では最強の数字だった。


「おいおい、降りなきゃ勝ててたのかよ」

「私の強運ハンパないねー。さ、親が勝ったから2倍で支払ってねー」


 これにより俺の残りは1000点。家入が200点でステイシーが4800点。圧倒的な差がたった2戦で出来てしまった。

 次は家入が親だが、200点までしか賭けられないのだから、そう易々とこの状況は覆せないだろう。


「どうする家入、まだ続けるか?」

「何言ってるんですか先輩。勝負はまだまだこれからですよ」


 そう告げる家入の目はまだ死んではいなかった。むしろ起死回生を図り、闘志に燃えているようにも俺は感じたのだった。

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