「ぶっちゃけ私の数字いくつですか?」

 とまあ昼のようないざこざの末に、今俺の部屋には家入いえいりとステイシーの姿がある。


「あっ、そのコップ私のなんですけど」

「そうなんだー。じゃあ丈留たけるの使うねー」

「むっ、それなら私のを使って良いですよ」

「今さら遅ーい」


 今さらではあるが、広くもない部屋に三人集まるのはどうなのか。密だぞ密。……最近あんまり聞かなくなった言葉な気がするけど。

 今後この部屋の定員は三人としようと心に誓ったところで、二人が手洗いを済ませてテーブルを囲んだ。


「で、何の集まりだこれ」

「特に何も考えてないかなー」


 遊びに来ただけで、特にそれ以外の目的もない様子。なら早速お帰り願おうと思ったのだが、家入の言葉でそれは叶わなくなる。


「とりあえずゲームでもしましょうか」

「ゲーム? どんなソフトやるのー?」

「ふっふっふっ、テレビゲームだけがゲームじゃないですよ。例えばトランプ。二人で七並べや大富豪しても、相手が何持ってるか判ってつまらないじゃないですか。でもステイシー先輩がいれば遊びの幅が広がるんですよ」


 などと雄弁に語るものだから、ステイシーも「確かに楽しそうだねー」と乗り気になった。


「というわけで先輩、トランプありましたよね? 前にインディアンポーカーやった」

「ああ」

「ちょっと待って、インディアンポーカーって何?」

「ふふん、インディアンポーカーっていうのはですね──」


 家入は得意げに語るが、自分もついこの間まで知らなかったわけだし、中途半端に二人でやった所為もあってか少し間違えた説明もしている。

 なので俺からもその間違いを訂正してステイシーへの説明を終えた。ステイシーはそれを聞いた上で「試しにやろっか」とやる気を見せる。


「どうせやるなら賭けよっか」

「流石に賭博はNGだろ」

「ゲームの得点としてならどう? チップ1枚100点で20枚スタートするの」

「面白そうですね、先輩どうですか?」

「まあそれなら……」

「じゃあ決まりだね」


 ということで、まずは二人が紙を切ってチップを作り、その間俺はトランプを取り出してシャッフルする。


「じゃあまず俺が親やるからな」

「はーい」


 そして親の俺がカードを配る。次に全員が参加料100点を払う。最期にかけ声と共に各々がカードを額に掲げればゲームが始まる。

 家入はハートの6、ステイシーはクラブのJだ。親の俺としてはステイシーには降りてもらいたいところだ。


「家入に比べればステイシーには勝てそうだな」

「先輩、そんな手でよく慢心できますね」


 家入よりは低いと思わせる作戦に出たが、ステイシーの手が見えている家入からそんなツッコミが入る。

 家入からは俺の手も見えているから、その言い方は俺よりステイシーの方が高い手だと言うようなものだ。

 三人居るからインディアンポーカーとしては成立するとは言え、やはり他二人の大小関係を語るしか出来ないので、会話での誘導も難しいし、もう一人が簡単にそれを潰せてしまうのが厳しい。


「安心して丈留。大夢とは僅差だよ」

「安心しろってことは家入より上か? じゃあこの勝負余裕だな」

「それはどうかなー?」


 ステイシーははぐらかす。慌てた様子でもないので、どちらなのか読めない。

 と、ここで家入が一石を投じる。


「お二人に聞きますけど、ぶっちゃけ私の数字いくつですか?」


 あまりにも直球な質問。しかし、他二人の大小関係を言い合うよりも心理が現れる質問だ。

 ここでステイシーと答えが合わないとどちらかが怪しまれる。

 だから先にステイシーに答えさせて……いや、それだとさっき俺が言った言葉との整合性が取れなくなるかもしれない。

 そうやって考えを巡らせているうちに、ステイシーが先に答えてしまう。


「Kだよー」


 しれっと嘘を吐くステイシー。俺は家入に勝てるか怪しいみたいな雰囲気を出しただけに、この発言は渡りに舟だ。

 多分ステイシーとしては家入に勝負させて負かすことで取り分を増やそうとしているのだろう。だから俺の手はきっと家入よりは上だ。

 そこまで考え、俺もステイシーに同調しようとしたのだが、それより先に家入が声を上げた。


「ちょっと待ってくださいよステイシー先輩。私と先輩は僅差って言いませんでした?」

「大夢は甘いね。それを言わなかったら丈留は自分がKくらいの強さだって錯覚したかもしれないのに」

「むむっ、そういうことでしたか」


 矛盾に気付いた家入ではあったが、ステイシーの方が一枚上手のようだ。

 そしてこのやり取りから考えるに、俺の手はそこまで高くないようだ。


「じゃあそろそろ始めようか。お前ら二人、降りるか勝負するか決めてくれ」


 親の俺は降りれない。出来るのは掛け金を増やすだけだ。

 ここまでのやり取りから、多分ステイシーには勝てない。家入は判らないが、俺に強気で勝負させたいことから俺はあまり高くないと見た。

 当初の予定通りステイシーには降りてもらいたいが……。


「降りないよー」

「私もです」


 どうやらそうも行かないらしい。

 ここで俺に出来る選択は三つ。このまま勝負するか、掛け金を上げて勝負するか、掛け金を上げて再び降りる人を募るか。

 まあステイシーに降りてもらいたいわけだから、選ぶべきは一つだ。


「レイズして、改めて降りるやつを募るぞ」


 この一戦はまだまだ続く。俺も負けたくはないのだ。

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