「住み着いた方が良かったですか?」
「じゃん! エビマヨです」
エビマヨとはエビとマヨネーズ(だけではないけれども)で作るシンプルな中華料理である。……一般的なエビマヨは。
目の前のエビマヨは少し違う。ブロッコリーと、多分鶏肉が入っている。
「半分くらい鶏マヨになってないか?」
「一人分の予定でしたからエビが足りないんですよね。かと言って他に何品も作るのも面倒ですし」
「……悪い、帰った方が良かったか?」
「あ、いえ。大丈夫ですから」
慌てて取り繕う彼女を見て、失言だったかと後悔する。ひとまず俺は席に着くことで、帰らずにこの場に残る意思を示した。それを見て家入は安堵したような表情を魅せ、俺の向かい側に座った。
久しぶりの二人での食卓。久しぶりと言っても、まだ一週間くらいしか経っていないのだけれども。
まずは自称エビマヨのエビを一口食べる。
「美味いな」
「えっ、ありがとうございます。なんか意外ですね」
「何が?」
「今までそういうこと言ってくれなかったじゃないですか」
「そうだったか?」
「そうですよ」
いつもと何かが違うつもりはない。違うのはここが家入の部屋だということと、
しかし食事を勧めていく中で、少し違和感を覚えた。なんてことはなく、いつもテレビを見ながらご飯を食べていたのだけれども、この部屋にはテレビがないのでいつもより静かだというだけだ。
「ていうか、こう言っちゃなんだけどシンプルな部屋だな」
「だからあまり見ないでくださいよ……。それに仕方ないじゃないですか、まだ一人暮らし始めて間もないんですよ?」
「間もないって言ったって、俺の部屋は最初からあんな感じだったけどな」
「先輩の家、お金持ちなんですか?」
「普通のサラリーマンだろ」
とはいえ一人暮らしするにあたって最初に家具家電を買いそろえてくれるのは親だ。親が買いそろえてくれる家具の量というのは、親の経済力はそのまま反映されるような気はする。
もちろん自分で欲しいものを買うことだってできるけれども、高校を卒業して間もない時分では、お年玉やバイト代をコツコツ貯めでもしてなければ自分で必要な物を買えもしないわけで。
「高校時代にバイトしなかったのか?」
「え、先輩バイトしてたんですか? いつ?」
「夏休みとか」
「部活来てましたよね?」
「だから夏休みなのに日中のバイトできなくて、夕方からだったな」
「それ結構激務じゃないですか? 遊ぶ暇も無い……先輩友達いました?」
「余計なお世話だ」
別に毎日部活とバイトだったわけじゃない。普通に遊ぶ時間だってあった。今だってそれは同じだ。学校行ってバイトして。でもこうして呑気に話してる暇だってある。
「まあなんだ、その様子だとバイトしてなかったんだな」
「勉強で精一杯でしたよ。成績維持するだけでも大変だったんですよ?」
「ああ……あの成績じゃな」
忘れてはいけない。家入は数学で三点なんか取るようなやつだ。
まあ彼女の名誉のために弁解しておくと、その後はそこまで酷い点数を取っていない。何故なら三点の主な原因はテスト勉強を全くしていなかったことにあるからだ。
だから俺が面倒を見なくなってからも、彼女はちゃんと勉強をしていたようで赤点を取ることはなかった。
まあそれだけ彼女なりの努力があるというわけだ。
「馬鹿にしてますよね?」
だから馬鹿にするような気持ちはいっさい……まあ三割ほどでしかないのだけれども、それは残念ながら伝わらなかったようだ。
「まあいいです。とりあえず
「人の部屋に住み着くつもりかよ」
「住み着くつもりはまだなかったですが、住み着いた方が良かったですか? それはちょっとヤバいですよ」
「……ほどほどにな」
別に今さら家入を拒絶するつもりもない。彼女が部屋に来たいのなら、俺はもう拒むつもりもなかった。
「ふっふっふ、言質取りましたからね」
「だから、ほどほどにな」
「じゃあこれ食べたら先輩の部屋に行きましょう」
「早えよ」
「映画見ましょうよ映画」
「今度は何見るんだ?」
「別に決めてないですよ。テキトーに選ぶのが良いんじゃないですか」
それで前回変な映画見る羽目になったのを覚えていないのだろうか。とはいえ流石に蒸し返すのも気が引けた。なんとかそのことには触れずに軌道修正をしよう。
「せめてネットでおすすめでも調べたらどうだ?」
「むむ、確かにそれがいいかもしれませんね。選択肢が多いのも悩みますし」
こうしてこの後の映画鑑賞が決まった。
それに先立ち、今さらながら好きな映画やテレビ番組の話をしながら食事を終え、片付けまで済ますのであった。
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