「二十六木先輩とはどういう関係なんですか?」

 ついに出会ってしまった家入いえいり二十六木とどろき先輩。どういうことかと右から左から詰め寄ってくる。

 ひとまずそんな二人を落ち着かせ、三人でテーブルを囲む。


「で? この子誰よ?」


 先に切り出したのは先輩の方だ。強い物言いだけども、よく見ると目が笑っている。

 一方の家入は、何だか怪訝そうに俺と先輩の事を見ている。まあ無理もない。誕生日に一緒にいて、しかも俺が居留守を決めて隠そうとした。家入からすればそういうことになる。


「こいつは家入。俺の……何なら先輩にとっても後輩す」

「ふーん、後輩。大学の?」

「大学も同じすけど、高校、部活も同じす」

「へぇ、じゃああたしと一緒ってわけ」


 二十六木先輩は家入を値踏みするような視線を送る。その様子にたじろぎながらも家入が訊ねる。


「ということは、この方は私の先輩でもあると?」

「ああ。二十六木先輩、俺の二個上の先輩だから、高校ではお前と入れ替わりだな」

「二十六木先輩って、あの?」

「あれ、知ってたか?」

「知ってるも何も、先輩が教えてくれたんじゃないですか。高跳びの凄い先輩がいるって」


 そう言われて、なんとなく思い出す。そうやって、先輩について熱く語っていた時期もそういえばあったなと。


「えー何何? 丈留たけるくん、あたしのこと話してたの? あたしのこと好きすぎでしょ」

「そういうんじゃないすよ」

「それで、何て話したのよ」

「いや、普通に『こんな先輩がいる』って話しただけすよ」

「ホントぉ? まあいいや、改めて、あたしは二十六木有希ゆうき。絶賛就活中の4年生よ、よろしくね」

「あ、はい。私は家入大夢たいむといいます。よろしくお願いします」


 流石に大先輩とあってか家入はどこかかしこまったような様子を見せている。とは言っても、言葉じりなんかは普段と変わらないのだが。


「んで、大夢ちゃんは何しにここに?」

「今日はせんぱ……た、丈留先輩の誕生日なのでお祝いにと」

「あら奇遇ね、私も同じよ。丈留くんが二十歳になってお酒もイケるようになったから、ほら」


 二十六木先輩はさっき俺に見せた買い物袋からビールを一本取りだし、テーブルに置いた。

 だがそれを家入が視認しただろうと見るや「っていうか、これ仕舞わなきゃね」と言って席を立ち、冷蔵庫へ買ってきた物を入れ始めた。

 冷蔵庫に缶を入れる音が何度も聞こえるが、いったい何本買ってきたのだか。


「大夢ちゃんは丈瑠くんの後輩ってことは未成年よね? あたしジュース買ってくるから、ちょっと待っててくれる?」

「えっ、いえ、その、私は帰りますから」

「二人より三人の方がきっと楽しいわよ。大夢ちゃんは好きなジュースある?」

「そんな……えっと……何でも大丈夫です」

「そう? じゃあ行ってくるわね」


 そう言って二十六木先輩は鞄を持って部屋を出て行った。

 相変わらず嵐のようだ。まさか家入をこうも萎縮させてしまうとは。


「えっと、先輩。私、このまま居ていいんですか?」

「そういう話だっただろ?」

「でもその……」


 家入にしては珍しく歯切れの悪い物言いだ。先輩の存在に萎縮しているというよりも、もっと別の何かがあるのかもしれない。


「どうしたんださっきから」

「……二十六木先輩とはどういう関係なんですか?」

「どうって、先輩は先輩だろ? お前だって俺とどういう関係って聞かれたらそう答えるだろ?」

「それは……まあ、そう……ですかね」

「だろ? ていうかさ、あの先輩とサシで飲むとかヤバそうだから、できたらお前にも居て欲しいんだけど」


 あの先輩、あれで素面しらふなんだ。酒が入れば余計面倒臭くなるし、何なら俺がこれから酒を飲むとどうなってしまうのかも判らない。

 だから家入には悪いが、緩衝材というか、素面で何とかしてくれるやつが居てくれた方が正直安心できる。


「先輩がそう言うなら仕方ないですね。確かにヤバそうな雰囲気もありますから、お付き合いしますよ」

「悪いな、助かる」

「この貸しはヤバいくらい高いですよ」


 気づけばすっかり元の様子、何なら少し上機嫌に見えるほどだ。さっきまでの家入はなんだったのか、よく解らないけど、まあよしとしよう。


「そういえば先輩、プレゼントがあるんですよ」

「マジで?」

「ちょっと取ってくるので待っててください」


 そう言い残して家入も部屋から出ていった。こうして再び部屋に静けさが訪れる。プレゼント持ってきてないって、家入は何しに来たんだっけ?

 その答はすぐに解った。家入が両手で抱えて持ってきたプレゼント。流石に他の荷物と一緒に持って来れないのは明らかだった。

 そしてプレゼントと言いつつ、特にラッピングもされてもいなかったので、それが何であるかは一目瞭然だった。座椅子だ。


「これがプレゼントか?」

「はい、この間欲しがってましたよね?」

「……いや、確かに座椅子の話はしたけど……」


 確かに話はしたし、あれば使う。けど一人の時はともかく、家入が来たときは彼女が使うことになるはずだ。この間したのはそう言う話だったのだから。

 だからこれは果たして本当に俺へのプレゼントなのか、少し疑問ではあった。


「まあいいや、ありがとな」


 座椅子を受け取って早速部屋に置いてみることにした。当然、家入の定位置に置くのががちょうど良い感じになる。そして座椅子を置くなり、家入はすぐにそこに腰掛けた。


「まずまずの座り心地ですね」

「やっぱりお前が座るための座椅子じゃねえか!」

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