今日も災難だね! オウチくん!
あぷちろ
憐れな人間よ……
R.I.P
俺は
見たというより味わった。未だ患部をチラ見もしていないが、これはやった。確実に骨折している。ついでに言えばジンジンと響く痛みの中にもぬめりとした味わいの深い出血をするような痛みを混じっている。近年まれにみる出来の良い痛みだ。うーん。この痛みは高校二年の秋に野球部の友人と戯れにキャッチボールをしたときに暴投され、股間を強打した痛みにも勝る痛みだ。その時もここ数年の中では上質で、それでいて後引くさっぱりとした痛みだった。
大内時間。男性、サラリーに身を売りし
素数を数えるように自分のプロフィールを羅列したくらいで、思考に若干の余裕が出て来た。改めて、患部へは視線を決して渡さず、触覚だけを頼りに足の状況を探る。
この感触からすれば右足小指の爪すらも無為なるものへと貶められ、ひとたび動かせば更なる死を
いや、実は痛いのはどうでもいいんだ。……どうでもは良くないが、感覚を受容する優先順位的には上位ではあるものの一番ではない。
むしろこの後絨毯に顔を擦りつけて、恥も外聞もなく穴という穴から液体をまき散らしながら咽び慟哭するという体裁の悪さや、見るも無残な姿となった親愛なる右足小指くん(年齢・25歳)をいたわり、現状を把握する精神的ストレス、そして! なにより! 折れている(仮定)小指を治療する為にこれから病院にいくという時間ッ! これらによって哀れにも爆裂四散する貴重な有給休暇ッッ!
アアアアアア!!! どぼじでごんなごどになるのぉーーー!
只管に、ただ只管に、無念。
この後、近所のSupermarketで何時もの発泡酒ではなくちょっと高めのビールを買い、血圧とコレステロール値を犠牲にしてお惣菜の唐揚げと、冷凍のフライドポテトを買い、それをお供に部屋に積載していたゲームを消化するというとても重大なミッションがあったのだ。
その為に長期連休を取得し、朝早く目を覚まし、日課の体操をして『さあ、俺たちの戦いはこれからだ!』と言った矢先の出来事だった。
これこそ罪なき
さて、一通りクールダウンしたところで俺は傾ぎかけていた体勢を整える。器用に小指だけを床につけないよう、大腿筋膜張筋を駆使して片足立ちになる。
頭を物理的に高い位置に持ってきたことで猶更に頭脳が冷えて、冴える。
小指からはいまだにジンジンと、山椒を食らい、胡椒をまぶしかけたかのような痛みが……いや、これは麻痺してるな?
マヒのエフェクトで痺れるようなものが多いが、その通りだ。この歳になって“気付き”を得るとは今日はいい日だ。差し引きしても大マイナスであるが。
感覚だけを頼りに小指を動かし――おっ、意外と動かせてる感じがするぞ、これは骨折まではしてないか!
俺は一縷の希望にかけて視点を下へ、下へと降ろした。
「
おわり
今日も災難だね! オウチくん! あぷちろ @aputiro
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