第12話 ぼっちな私と職業体験
長い白髪に、翠色の瞳に可愛らしい西洋風の顔立ち、紛れもなく私だ。やっとこの顔にも見慣れてきた。
そして今私は、魔法学校の教室で孤独を貫いている。友達の味を知ってしまった私には、この孤独がそこそこに辛かった。
「レミリエル、独りで何やってんのかな」
「さあね。どうせ馬鹿は近付くなとか思ってるんでしょ」
クラスメートの、異種族の方々から罵倒が時々飛んでくる。
やはり、私のイメージは最悪みたいだ。
きっと、それだけの事をしてきたんだろうから、強くは出られない。
「それでさー。私、この前また新しい魔法閃いちゃって」
「え、また? それもう魔法特許取りなよ〜」
「あはは、取っちゃう〜?」
教室の中央では、シルバーネさんの席に吸血鬼達が集まって、何やら得意げに話している。
魔法に特許があるとは初知りだ。
何時までも誰かの会話を聞いているのも、なんか精神的に来るので、私は持参した小説に没頭する。
「はーい、授業始めるわよ」
私は、そこそこお年を召された白髪の教師の声で、慌てて本をしまう。しまった、しおりを挟むの忘れた。
ちなみに、私の白髪は加齢によるものではないので勘違いしないで下さいね。
「今日はね、花を咲かせる魔法を覚えるわよ。お花屋さんになりたい子は、この魔法を覚えておくと就職に便利よ」
最高学年だけあって、教師の話も就職を意識した物になってくる。
花を咲かせる魔法は、まえにフレムさんとアクリアさんが来た時に覚えたけれど、一応授業だしきちんと聞いておこう。
「レミリエル、問題よ。花を咲かせる時には、杖のどこに意識を集中して魔力を込めればいいと思う?」、私は問題を答えるよう当てられ、起立する。
ちなみに、私は何故か授業中に教師から指される率が尋常ではない。
「はい、杖先より三センチ程後ろです」
「正解よ、よく知ってるわね 。座っていいわ」
「はい」、正解した私は言われた通りに着席する。
またまたちなみにだが、私が正解すると、大体クラスの雰囲気が悪くなる気がする。
早く授業が終わってくれないかと願うばかりだ。
嫌な事ほど、体感時間が長く感じるのは何故なんだろうか。
「はい、じゃあ今日は早めに授業を切り上げてアンケート用紙を配るわ」
私の願いが通じた訳ではないと思うが、教師は生徒達に何かの用紙を配り始める。
私は用紙を受けると、書かれている内容に眉をひそめた。
何やら、職業体験という文字が書いてある。
「良い? 明日までにその用紙に、体験してみたい職業を書いて提出する事。それでは今日の授業は終わりよ」
お決まりの「起立、礼」を済ませた後、私はもう一度用紙を見つめ直す。
見たところ、選択式ではなく本当になりたい職業を自由に記入していいみたいだ。
流石魔法学校、規模がデカい⋯⋯。
「自由に記入してもいいのなら、魔法学校の教師もありなのでしょうか?」
わざわざ職業体験という機会で、自分の通っている学校を選ぶ事は果たしていいのかと疑問を感じた。
なのでその夜、暇そうにしていたリリーエ師匠にその事を尋ねてみた。
「いいんじゃないですが? 元々自分のなりたい職業がどの様なものか把握するために行われる行事ですしね」
リリーエ師匠は、ソファーに寝そべりながら答えてくれた。成程、言われてみれば確かにそうだ。
「ありがとうございます。スッキリしました」
「悩み事が解決したのなら良かったです。そろそろ私達の愛の巣へと行きましょうか」
「⋯⋯⋯⋯と、申しますと」
「ベッドです」、リリーエ師匠は目をこすっている。
「あ、眠かったんですね」
リリーエ師匠の独特な言い回しは今でも慣れないが、最近はそれに対していちいち驚く事は無くなった。
あくびをするリリーエ師匠の手を引き、私達は寝室へと移動する。
眠りに着く前、横になりながらリリーエ師匠と話す。
「そうだ、レミリエル。魔法学校への職業体験希望は、希望する人がとても少ないです。昨年は一人もいませんでした」
「ということは⋯⋯私一人の可能性があると?」
「ええ。まあレミリエルの意思が変わることはないと思いますが、一応伝えておきます」
リリーエ師匠は、「それではおやすみなさい」と目を瞑る。
私一人か⋯⋯。今現在、魔法学校の生徒達と上手くいっていないのは事実だし、正直そっちの方が気は楽だな。
翌朝、私は「魔法学校希望」と書かれたアンケート用紙を教師に提出した。
「あら、レミリエルさん。魔法学校ってことは将来の夢は教師なの?」
「はい。魔法学校で務めるのが夢です」
「なんか意外ねぇ。レミリエルさん、人に教えるのとか興味無いと思ってたわ」
長々と会話する気もなかったので、「そうですか」、とだけ告げて会話を切り上げようとする。
「魔法学校希望はこれで二人目ね」
「え?二人目?」、気になるワードが出てきて、私は会話を再開するべく首を傾げる。
「そっ! 二人目よ。レミリエルさんの他にシルバーネさんがいるわ」
「え⋯⋯?」
私はシルバーネさんと聞いて、一気に全身の血の気が引く感覚に陥った。
いやいやいや、シルバーネさんとマンツーマンはキツイですって。あれから一回も会話してないですって。
あの日、地べたを這わされた記憶が鮮明に蘇る。今まで誰からも、平手打ちすらされた事の無い私には充分過ぎる程にトラウマだ。
チラリと、シルバーネさんの席へを気付かれない様に視線を向けてみる。
「何よ⋯⋯⋯⋯」
「いえ、何でもなんでもないです⋯⋯」
最悪だ、目が合ってしまった。そして話し掛けられた。
私は慌てて、シルバーネさんから目を逸らす。
久しぶりの会話は、「何よ」、「何でもないです」、で終了した。不仲極まりない。
それからも、私達はお互いの関係性が進歩する事も無く、職業体験当日を迎えてしまった。
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