第10話 過去話と耐え難い後悔
月明かりが夜を照らし、良い子は眠る時間、私とリリーエ師匠はベッドで寝転びながら、夜更かしをして話し込んでいました。
「レミリエルって私の事どう思っていますか?」
「憧れの⋯⋯師匠?」
「なんで疑問形なんですか。まあいいでしょう、その他には?」
「えっと⋯⋯魔法がとっても上手」
私の回答に、師匠は「はぁ〜分かっていないです」、と溜息を漏らす。何なんだ。
露骨にがっかりされるので、少しムキになって、「じゃあなんて言って欲しかってんですか?」、と聞いてみる。
「え? 師匠、大好きに決まってるじゃないですか。逆に何故その選択肢が出てこなかったのか不思議で仕方がありません」
「私は何故そんな恋人みたいな回答を期待していたのか、不思議で仕方がありません」
「あれ、私達の関係性って、師弟関係兼恋人じゃありませんでしたっけ」
「師弟関係オンリーです」
私は師匠の世迷言をバッサリと切り捨てる。
時に師匠は、こういった冗談を言うのだ。
切り捨てられた師匠は、本心は読めないが、表面上は至極残念とでも言いたげな顔をしている。
「あの、所でレミリエルって恋人いた事あるんですか?」、ベッドで寝そべっているためか、修学旅行の恋話のような展開になる。友達いなかったからした事ないけど。
「あると思いますか⋯⋯? ここ最近まで友達すらいなかったんですよ?」
「そうですか、それは良かったです」
「はい?」
「居たら師匠としてショックです」
いや、そこは師匠関係ないのでは。
リリーエ師匠は何故か胸を撫で下ろしている。
ここで私閃きました。たまには師匠に焦って貰いましょう。
「師匠こそ、恋人いた事あるんですか? ていうか現在進行形で付き合っている方とかいないんですか?」
「ざっと五百人とはお付き合いしました」
「嘘ですよね」
「聞かないで下さい⋯⋯⋯⋯」
師匠は都合が悪そうに、私とは逆方向に顔を向ける形で寝転んだ。
これは⋯⋯いけます! もっと慌てふためいて貰いますよ。
「師匠って、私と同い歳くらいの見た目ですけど。実際お幾つなんですか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
師匠からは返答がない。流石に年齢を聞くのは失礼だったか、と謝ろうとした時、微かに師匠は呟いた。
「二十⋯⋯⋯⋯」、二十の後半は声が小さすぎて上手く聞き取れなかった。
「え、二十なんて? すみません、聞き取れませんでした」
「もうこの話、やめにしましょう⋯⋯。いや、やめてください」
珍しく師匠から、会話の打ち切りを求められた。
これ以上弄るのは、流石の私も気が引けるのでやめておく。
ただ最後に、私は師匠の肩を指で突く。
「師匠、こっち向いてください」
「嫌です⋯⋯」
「ダメです、強制です」
私は少し強引に、師匠を此方へと向かせる。
師匠の頬は予想通り、赤く染っていました。
女の私でも見惚れる程、可愛い。
絶対にモテた筈なのに、恋愛経験がないというのは信じ難い。相当出会いがなかったのか。
「うぅ⋯⋯師匠をからかうなんて百年早いです」
「すみません、流石に私もやり過ぎたと思います。反省します」
私は素直に師匠に謝罪した。
しばらくの間沈黙が流れる、今のリリーエ師匠には話題を提供する程の余力がないのかもしれない。
ならば、ひとつ気になっていた事を聞こう。
「師匠はどうして、魔法学校の先生になったんですか?」
「うーん、話せば長くなりますよ?」
「構いせんよ。しっかり聞きます」
「寝落ちしないでくださいね⋯⋯」
師匠は、ゆっくりと語り始めた。
思えば、師匠の過去話を聞くのはこれが初めてだ。
「私は、元々魔法の才能に長けていまして、地元でもそこそこ有名でした。それて、両親の期待を一身に背負いながら、魔法学校へ入学しました」
師匠は話を続ける。
「魔法学校に入学すると、そこでも私は才女無双していました。筆記でも、実技でも、私は常に首席を維持していました。レミリエルと同じですね」
リリーエ師匠が首席だったという事に、私は驚いた。後、才女無双とは。
「それはそれは、まあ大層チヤホヤされました。その結果、端的に言うとめちゃくちゃ調子に乗りました。周りへの態度も散々だったと思いますし、当時の学生たちは、私の事を嫌いな方が多いでしょう」
リリーエ師匠が調子に乗っている所など、今の姿からは想像もできない。
「まあお陰で友人はいませんでした。当時は本当に愚かで、友人なんか作らなくても何でも一人で出来ると思っていました。世の中はそんなに甘くないし、一人で出来た所で、結局人生楽しくなかったら意味が無いんですけどね」
「私みたい、ですね⋯⋯」
「正直それは思いました。だからこそ、レミリエルには私と同じような目にあってほしくないと思いました。なのでフレムさん達がいる時は、強引な働きかけをしてしまったかも知れません」
私は先生のあの時の発言に納得がいった。
そして、「同じような目にあって欲しくない」、という発言。私の両親がよく口を酸っぱくして言っていた言葉だ。
あの時は、ただ口煩いとしか思えなくて、勝手に敵対視してした。
あれは全て、私の為だったのか。
異世界に来て、今更気付くなんて遅すぎる。
途端に、お母さんとお父さんが恋しくなった。
きっともう会えないのに、親孝行も出来てないのに、ごめんってまだ、言えていないのに。
「お母さん、お父さん⋯⋯うぇぇん⋯⋯」
「え、ちょ! レミリエル!?」
突然泣き出して、リリーエ師匠は、訳が分からないだろう。慌てふためいている。
リリーエ師匠の話を遮って事になるが、私は溢れ出す感情を止める事が出来なかった。
ただ、リリーエ師匠に抱きついて、ひたすらに泣いた。
リリーエ師匠はそんな私を、落ち着くまでずっと抱きしめてくれていた。
「嫌な事、思い出させてしまいましたか?」
「いえ、そういう訳ではないんですけど⋯⋯。取り返しのつかない事に気付いてしまいました」
「私も、取り返しのつかない過去話は山ほどあります。沢山の方を傷付けてしまいました。この世に免罪符はありません、全部受け止めて、二度と同じ過ちを侵さない様にすることしか出来ません。私も、レミリエルも」
私は師匠の問いかけに、黙って頷く。
師匠のお陰で、なんとか心を保つ事ができそうだ。
「すみません、お話を遮ってしまって⋯⋯。良ければ続きを聞かせて下さい」
「レミリエルが聞きたいのなら構いませんよ」
リリーエ師匠は、口を開いて、再び語り始めた。
お父さん、お母さん。馬鹿な娘でごめんなさい、こっちの世界では朝ご飯も食べるし、真面目に学校にも行くから、どうか心配しないで下さい。
心の中で、通じるはずも無い謝罪をしながら、私はリリーエ師匠の話に耳を傾けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます